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日常の合間

 夢から覚めて立ち上がったリリスの周りの世界はだんだんと崩れていく。それを見ながらリリスは疑問に思った。


「さてと。これ、裕也にどう説明すればいいんだろ……それにこの子をけしかけた奴がいたりするのかな……あーあ。めんどくさいないなぁ」


 リリスは倒れている裕也と天使を両手で抱き起しながらへくちとくしゃみをした。


「ん」


 裕也は目が覚めた。


「お! ちょうどよく起きた」

「姉ちゃん……あれ。俺、相沢さんと帰っていてそれで…………あ!」


 気が付けば膝枕されている。いたずらっぽい姉の笑った顔。恥ずかしさで無言で裕也は体を起こしたが、姉の姿に彼は顔を赤くした。


「ね、姉ちゃん! 服! ボタンしめて!」

「おっ、ごめんごめん」


 シャツの胸元が大きく開かれた姿のリリス。その間から淡い桃色の下着が見えて、裕也は顔をそむけた。面白そうに彼女は笑い、ボタンを留める。そして見えていたおへそが隠れるように捲っていたすそを下げた。


「それじゃ、帰ろうか裕也」

「……いや! 相沢さんとムジは!」

「そこそこ」


リリスが指さすと天使は裕也の横で幸せそうに眠っていた。頭には黒い何かが枕代わりにされている。ふさふさとした毛のついたそれが何かすぐには裕也にはわからなかった。


「相沢さん……よかった。……でもムジは……あいつどこに」

「だからそこにいるじゃん」

「そこってどこに……」

「その子の頭の上」

「え……なんだ、これ、猫? 犬……たぬき……?」


 茶色の毛の獣。かわいらしい姿の狸が一匹枕になっている。なにかうなされているようにたまに唸っている。裕也は驚いたというよりは理解できないという顔でリリスを見た。彼女は逆に指で周りを示す。


 あたりには多くの狸たちが倒れていた。眠っているようだが、神社の境内にそれだけの狸がいるのは異様な光景だった。


「狸に……化かされていた……? はは、そ、そんなことある?」


 裕也は乾いた笑いをあげた、リリスはその様子をじっと見て。


「ま、いろいろとね。あるのよ。後で説明してあげるけどさ。ほらおきた起きた。今日は見たいドラマがあるんだから、はよ帰ろ」

「でも相沢さんが」

「おんぶして帰ればいいじゃん。さっきみたいに。役得に少し触れば?」

「……さ、触……姉ちゃん!」


 裕也の抗議にリリスはにししと笑って、彼の背中を叩く。


 ☆


 翌日の朝は普通に起きた。裕也は普通に朝ごはんを食べて、普通に準備して家を出た。リリスが昨日と同じように自転車の後ろに乗ってきた。


「裕也、今日から授業でしょ?」

「そうだね」


 自転車をこぎながら彼は答える。リリスは言った。


「昨日のこともあるから今日あの子、なんだっけ、栗色の髪の子が学校に来てたらお昼休みに一緒にご飯を食べよっか」

「ムジ……あいつ狸だったんだよね」

「かわいかったよね」

「いや、そういうことじゃなくて……姉ちゃんとメシ食べるってこと?」

「そういうこと、もちろんそのムジ君のおごりね。絶対来てねって彼に伝えといて。あとあの、あんたの彼女」

「彼女っ?! っちがう!」

「あはは、じゃー天使ちゃんもつれてきてねん、場所は屋上にしよっか」


 リリスは目いっぱい弟をからかって遊んだ。裕也は彼女を駅に下ろして学校に向かう。いい天気だった。平和そのものの通学路を通って、何事もなく教師までついた。


 教室の席に着くと前に座った早乙女が「やあ」と手を振ってくる、それから彼女は机につっぷして寝始めた。


そのあとに教室に小柄な少年が入ってきた。狸塚だった。


裕也は息をのんで彼を見つめる


「……」


狸塚は仏頂面を絵にかいたような硬い表情のまま裕也を睨むように見ている。しかし無言で裕也の横を通り過ぎようとした。裕也は彼の手を掴んだ


「ひゃっ」


 高い声で驚く狸塚。周りが見てくる。彼はきっと裕也をにらむ。


「いきなりつかむんじゃねぇ!」

「ええ? いやだってさ」

「お前の姉ちゃんが……くそお」

「えええ? 泣いてるのか? なんでいきなり」

「泣いてねぇ!」


 狸塚は鞄を机に乱暴において机に突っ伏す。前の早乙女、後ろの狸塚両方ともが同じような恰好をしている。裕也はとりあえず狸塚にいう。彼の頭をぺしぺしと軽くたたきながら言う。


「お、おい、ムジ。今日の昼めしさ、一緒に食べようぜ」

「いやだ」

「姉ちゃんが絶対連れて来いって言ってたんだよ……」

「……行きます」


 姉のことを出すと素直になった狸塚を見て彼は複雑な気分になった。しかしとりあえず約束はできた。あとは天使が来るのを待つだけだった。彼女は昨日に神社から帰ろうとするときに気が付いて駅から帰った。ずっとしょんぼりしていた。


 裕也は内心で彼女をまたおんぶできないかったことを残念に思ってしまった自分の頭を自分の部屋で打ち付けて寝たことを思い出して、頭を振る。


「そういえば天使さんは来たのかな……」


 まだ席にはいない。


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