17話 恋
昼休み。いつものように弁当を食べようとしていると、翠がずんずんと近づいてきた。
「あれ、彼女と食べなくていいのか?」
「うるせぇ」
単純な疑問だったんだが。…まあからかい7割くらいあったかもしれんが。
「我が大親友の秋くんが困ってるようだったので?仕方なくな」
カウンターしてきやがった。というか、なんでわかるんだよ。
「駄々洩れだからな。相変わらず」
こいつがエスパーなのを忘れていた。
うんうん、と頷いているとあきれたような視線が突き刺さってきた。
俺もエスパーの適正があるかもしれない。…仕方ない、ごまかすのは諦めよう。
両手を挙げて降参の意を示す。
「よろしい。…で、なに悩んでるんだ?」
そこまではエスパー(動詞)されてなかったか。
「…多分ずっと前からそうだった…俺は気付けなかったが。」
自覚してみたら、案外思い当たる節はいくつもあった。
「…お恥ずかしながら、身の程に合わぬ恋をしてしまいまして」
そう告げると、翠にため息をつかれた。なんだよ。
「やっっっっと気付いたのか…」
そんな前から…いや、
「なんで俺より先に気付いてるんだよ、おかしいだろ」
これもエスパーか?
「いや、筒抜けだぞ…?少なくともいつも一緒にいる俺からだと」
嘘だろ…
「まあ当人からは気付かれてないと思うが…変に隠すのうまいよな」
無意識だったがな。本当に。
「んで、どうするんだよ」
「…とくに何も。このままでいい」
また呆れたような視線が送られてきた。
「その視線やめてくれ。いやもちろん理由はあるぞ?」
主に二つ。
まず一つ目は、変に行動するとかえって逆効果になること。
そして二つ目は、この関係を変えたくないこと。二つといったがこれが大部分を占めている。
せっかく仲良くなれた…少なくとも最初よりは。のに、わざわざそれを壊すかもしれないことをしたくないのだ。
これを翠に説明すると、少なくとも理解はしてくれたようで、さっきの視線はやめてくれた。
「お前ってさぁ…いや…うーん…」
今度は唸りだした。相談に乗ってもらってる立場だが、本当に感情豊かだな、と感心していた。
「…まあお前がいいならいいが…いやでもなぁ…」
めっちゃ苦しんでる。すまん。
「一応何もしない…とは言ったが…まあ自分磨きとかは、しっかりやるつもりではある」
少なくとも過去の、なにも持ってない怠惰な俺には戻りたくないしな。
そう告げると、なぜか嬉しそうな様子で、喜んで協力する、という翠。いいやつだなお前。
「陽キャ直伝のコミュニケーションとか教えてもらった方がいいのか…?」
「それはいらないと思うけどな。鳴瀬さんそういうタイプじゃないだろ」
まあそれはそうか…気楽に話せるように、って約束したばっかりだしな。
「そうだな…今日放課後、服とか買い行くか?」
今日か。いつもなら頷いていたが…
「すまん、今日は用事あってな。明日なら行ける」
さすがにこっちを優先するわけにはいかないのだ。
「ほ~…ま、楽しんでくれな」
なにかを察した様子でニヤニヤする翠。
「多分違うぞ」
分かってる分かってる、とうんうん頷いてる。やめてください。
その後弁当を食べてだらだらと話しているうちに、昼休みは終わり。
眠くなる午後を乗り越え、放課後が来る。