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15話 大きな変化

「なあ」

「なんだよ」

昼休み、翠が話しかけてきた。話しかけてくるのはいつものことではあるんだが。

「鳴瀬さん休みらしいじゃん」

「知ってる」

違うクラスなのになぜ知っている、と思われるかもしれないが。

有名人が休むとそれだけ話題になる、というべきか。

噂されているのを聞いた時点でメッセージは飛ばしておいた。

「体調不良らしい。微熱だから来ようか迷ったけど移すのも悪いから、だってさ」

俺だったら間違いなく来ている。そして翠あたりに帰される。

…ただ。

べつに同じクラスだとかそういうわけではないのだが…少し。

「寂しいんすか?秋さんや?」

…こいつ。

「まあそりゃな」

普段一緒にいるわけではないが。それでも寂しさはある。

俺も変わっちまったな、とか思いつつ。良い変化ではあるが。

「まあ帰ったら確認がてら、会いに行く予定」

いつぞやの恩も返せていないので、ね。


帰宅。軽く準備をして、鳴瀬さんの部屋のインターフォンを押す。

一応あのあとメッセージは送っていて、顔を出すことは伝えてある。

「はーい…あ、柊木さん。来てくれたんですね」

どうぞ、と案内されて部屋に入る。見た感じそこまで体調が悪いわけでもなさそうだ。

やっぱり言ってた通り、移さないようにか。

…若干緊張するな。なにせ女性の部屋に足を踏み入れるのが初めてなもので。

「そこの椅子に座って待っててくださいね、飲み物持ってきます」

…いやいやいや!

「病人なんだからもてなさなくて良いって!」

一応持ってきたから、と袋から飲み物を出す。熱が出ていたらこういうのあったほうがいいし。

「あとこれ、さっき切ってきたから。食えそうか?」

もうひとつ。病人にはこれだろ、という謎の考えのもと持ってきた。りんごです。

「食欲はあるので食べられますよ…うさぎさんですね」

いつか役に立つはず、と思って練習していたことが役に立ってよかった。

にしてもうさぎさん…か。かわいい…いや、昨日からどうしたんだ。

ありがとうございます、とりんごを食べている彼女を横目で見つつ、ひとり苦しむ俺。愚か者です。

「…そういや。体調不良は昨日外に出たから…というわけでは?」

ひとまず気になってたことを聞いて気分を紛らわせる。

「?…ふふ、ないですよ。そんなに虚弱じゃないです」

柊木さんより体は丈夫ですよ?とくすくす笑う鳴瀬さん。返す言葉もありません。

まあひとまずよかった、これで外に出たせいで…とかだったら俺のせいだし。

「まあでも…」

そこで彼女の言葉が止まる。

不思議に思って向き直ってみると、少しした後、続けた。

「疲れはあるかもしれないですね、すこし」

どんな完璧な人間だって、人間だ。当たり前のことだが、人はそれを忘れてしまう。

人間である以上、疲れるし、ミスだってする。人間とはそういうものだから。

多くの人に好かれるということは、それだけ注目されるということ。

…それがどれほど大変なものなのか、俺には見当もつかない。

むしろ分かった気になるのは、鳴瀬さんに対して失礼だろう。

「じゃあせめて、俺とは気楽に話せるように…そんな関係になれたらなとは」

思わず口から次いで出た言葉は、まとまりのない言葉で。

そして、ずいぶん自意識過剰な発言だ、と言ってから気付く。

マズい、本当に恥ずかしくなってきた。

少しの間沈黙が訪れ、適当な話題を出そうとしたとき。

「…あの」

「二人のとき、秋さんって、呼んでもいいですか?」

想定外の言葉に、いつも通り返せる余裕なんてあるはずもなく。

「え?あ、おう。もちろん」

すごい間抜けな返答になってしまった。恥ずかしいです。

「じゃあ蒼って呼んでください」

「いや無理!?」

急に飛びすぎじゃないか?さすがに?

「今いいましたよね?気楽に話せる関係になれたらって」

すごいぐいぐい来る。やめてください、ぐいぐい来られると弱いです。

「蒼…さん」

限界です。これ以上は無理です。

そんな俺のチキン魂を感じ取ったのか、ため息をついて、まあいいです。と言われた。許された。

「蒼さん、ちょっと顔赤くなってるけど熱は大丈夫?」

さっきより若干赤い気がする、誤差の範囲ではあるんだが。

「これは…はぁ、まあいいです。では、少し休みますかね…明日は登校するので大丈夫です」

もうほとんど元気ですからね、と言いながら立ち上がる蒼さん。

「それでは…また明日、秋さん」

「また明日。お邪魔しました、体調気をつけてな」

手を振って部屋を出る。願わくば、この関係が続きますように。

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