14話 キモチ
「予習って大事だな…」
いつも通り翠と帰ってる最中、呟いた。
「そりゃそうだが…どうしたいきなり」
「いや…予習をすると授業の内容がめっちゃ分かる…革命だ…」
なぜ今までしてこなかったのか。面倒だからという理由で捨てるにはもったいなさ過ぎる。
「俺、秋が成長してくれてうれしいよ…あ、復習もしっかりな」
「はい…」
オカンか、と思ったが言っていることはごもっとものため、口をつぐむ。
問題が解けない→やる気が出ない→問題が解けない…の負のループに陥っていたが、いざ頑張ってみると意外と解ける問題もあったりして、結構面白い。
解けなかった問題が解けるようになるのも、モチベーションの向上につながるし。
「っと、それじゃ、また明日」
「じゃあな~」
とりあえず家に帰ったら復習をするか…
「ふぅ…」
同じ体勢を続けたことにより、固まった体をほぐす。
とりあえずあらかた復習は終わった。少し休憩したら、明日の予習でもしようか。
ピコン♪
メッセージだ。えっと…鳴瀬さんか。…鳴瀬さん?
何の用だろうか、と恐る恐る開くと、簡潔なメッセージが送られてきていた。
【ほどほどに、ですよ。】
…やっぱりエスパーじゃないか!
【同じ失敗はしません。】
大丈夫、もうあの時ほど焦っていない。
…いったい、なんであんなに焦っていたんだろうな。自分でも分からない。
そんなことを考えていると、猫がうなずいているスタンプが送られてきた。
「…かわいいな」
「…!?」
思わず出た言葉に、自分で驚愕する。
いや、俺がかわいいと言ったのは猫のスタンプに対してであって…って、なに一人でムキになってるんだ。
朝、翠に変なこと言われたせいです、と責任転嫁をしておく。
「…外でも歩くか」
勉強のしすぎかもしれない、と自分を納得させることにした。
「あ、柊木さん。奇遇ですね」
ちょうど部屋から出たタイミングで、同じく部屋から出てきた鳴瀬さんと鉢合わせた。
「ソウダナ~…」
…タイミング!!普段なら別に何ともないのだが、如何せんタイミングが悪すぎる!!
「柊木さんって…外出るんですね」
人のことを何だと思っているんだ。
「そりゃ出るぞ…食材買いに出るし…あとは…まあそのくらいだが…」
それを出ないというんですよ、とため息をつかれた。インドア派で悪かったな。
「それで、どちらへ行くんですか?見た感じ買い物ではなさそうですけど…」
「ちょっと息抜きに散歩でもしようかな、と」
…別に嘘は言っていない。
「なるほど…では私もご一緒しても?」
予想外の返答に思わず固まる。すぐさま復帰。
「…いいけど…そりゃまたどうして?」
この辺りは同じ高校の生徒が多いため、遭遇してもおかしくない。
朝も実は、ちょっと噂になっていた…たまたま時間が被ったから、方向が同じよしみで一緒に登校したことにしたが。部屋が隣なんて言ったらどうなるか分かったものじゃない。
…とにかく、この状況で一緒に散歩なんてしたら、あらぬ噂がたちそうで申し訳ない、というのが俺の考えだ。
「…私も、たまには気分転換がしたくなるんです」
普段とは若干違った様子に、思わず顔を見てしまった。
表情はいつも通り、でも、さっきの声色は…分からないが、
「…川でも見に行きますか」
とりあえず、それで鳴瀬さんの気分転換になるのなら。
「ありがとうございます、柊木さん」
「ん」
隣を歩きながら、考える。
鳴瀬さんと交流するようになって、分かったこと。
彼女は完璧超人なんかじゃない。
たしかに、容姿端麗、博学多才、人当たりもいい…非の打ち所がまるでない。
でも、彼女も人間だ。疲れたりもするし、嫌な思いだってする。
…少なくとも、彼女が望むうちは。
こうして寄り添うことも、隣人である俺の役目だろう。
変な噂だのは、今は関係ないのだから。