13話 まさかの
扉を開けたらばったり遭遇。
…これも慣れたものだ。
「おはようございます。体調は大丈夫ですか?」
「おはよう。おかげさまで完全回復、今まで史上一番いいまである」
土曜の時点で回復はしたが、日曜もしっかり休むことで最高のコンディションになった。
体が軽い。体を休めることがいかに大切かを思い知った。
「ふふっ、なら良かったです」
もう絶対無理はしない、今回の件でそう誓った。
「…柊木さん、連絡先交換しませんか?」
「はい…ん?」
流すところだった。連絡先を交換?
「あの、柊木さんが嫌だっていうなら構わないのですが…」
「嫌ってことは全然ない。少し…驚いただけだ。どうして交換を?」
あらぬ誤解を生むところだった。危険回避。
「単純に隣人だからだというのと…あとは心配なので」
わからない問題があったら教えるくらいはできますし、と微笑む鳴瀬さん。
「それじゃあ是非…お願いします」
「いえ、こちらこそ…?」
鳴瀬さんと連絡先を交換するなんて、過去の俺に言っても絶対に信じないだろう。
これも成長か…とひとり感慨に浸ってみる。
「せっかくですし、このまま登校しませんか?」
成長どころじゃなかった。
「いや…俺と登校したら鳴瀬さん困らないか?ほら、評判とか…」
これにつきる。カーストの事情とかはよく分からないが、俺と鳴瀬さんが同じ立ち位置にいないのは明らかだ。そんな意図で言うと、鳴瀬さんは少しムッとした様子で口にした。
「べつに困りませんよ。だいたい、人と登校したくらいで下がる評判なんていらないです」
「…分かった。鳴瀬さんがいいなら、喜んで。」
ただ一緒に登校をしようと誘われたくらいで、ここまで卑屈になるのは流石だと自分でも思う。
そして鳴瀬さんがいい人すぎる。尊敬。
「よっ…お、今日は鳴瀬さんもいるのか、二人で登校?」
「そんなとこ」
こいつに連絡先交換したこと言ったら、色々面倒くさそうだから黙っていよう。
「というか秋、体調は平気か?」
とりあえず体調が回復したあと、翠に連絡したらめっちゃ心配された。返す言葉もないです。
「マジで大丈夫、心配かけてすまんな」
「ならいいけど…気をつけてくれよ?」
…こいつ、本当に良いやつなんだよな。たまにウザいけど。
「鳴瀬さんも秋のことよろしく頼みます、マジで」
「何をよろしくだ、困らせるな」
本気で言っているのか冗談で言ってるのか、判断に困るんだが。
「…分かりました、任せてください」
なぜかやる気に満ちた顔の鳴瀬さん。やる気にならないでほしい。
「鳴瀬さんも冗談言うんだな…」
「…私だって人間ですので。冗談の一つや二つ、五つくらい言いますよ」
思わず口に出すと、鳴瀬さんはムスッとした様子で言った。
「すまん、俺が悪かった…いや多いな!?」
思わずツッコみながら顔を見ると、ついさっきまでの顔が嘘みたいに微笑んでいた。
「騙された…」
「ふふっ、神谷さんの気持ちが少し分かった気がします」
分かるべきではない、そんなもの。
「なんか今、すげー失礼なこと考えなかったか?」
どうして俺の周りにはエスパーばかりが集まるのだろうか。
2年ぶりの更新です、冬眠してました