夢を裏切る大人たち
英雄女騎士に有能とバレた俺の美人ハーレム騎士団 ガイカク・ヒクメの奇術騎士団をBOOK☆WALKERさまで購入されると、ティストリアの活躍シーンが書かれた特典が付いてきます!
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奇術騎士団団長、ガイカク・ヒクメのパーティーは成功に終わった。
ガイカクが持てる技術を使い盛り上げたのだから、当然と言えば当然。
来客たちは以前の悪い思い出が吹き飛ぶのを感じながら、家に帰っていった。
特に多感な子供たちは、ガイカクの見せたイリュージョンに大興奮。
一緒に見ていた親へ、何度も何度も凄かったねと言っていたうえで、家に帰ってからも何度も話をして、周囲の人に奇術騎士団のすばらしさを説いたのだった。
※
ある男子の場合……。
「とぉ~~!」
シーツを背負い、ベッドの上から飛び降りて、床においたクッションに飛び乗る。
小さな男の子の場合、誰でもやるような遊びであった。
だが少年は、大真面目に『滑空』するつもりで挑戦している。
「ぼ、ぼっちゃん……あ、危ないですよ。それにクッションがダメになってしまいます!」
「練習なの! 奇術騎士団の、騎士団長さんのマネなの!」
ガイカクは余興の一環として、シーランナーとウイングスーツを使って、建物の上からジャンプして床に置かれたゴムのトランポリンへ着地する、という手品(?)を披露していた。
それが忘れられない少年は、自分もガイカクのマネをしようとしていたのである。
「やあやあやあ、我こそは我こそは! 総騎士団長ティストリア様の忠実なるしもべ! ガイカク・ヒクメである! とおぉ!」
少年のイメージではガイカクのように、ふんわりと滑空しながらウイングスーツを広げ、風を切りながら位置を調整し、着地する……。そんな練習をしていた。
もちろん実際には、まったくマネになっていない。
ただ飛び降りて、クッションを踏んづけているだけである。
「さあ皆さん、このままゴムの上に着地出来たら、拍手をお願いします~~!」
ガイカクが滑空中に言っていたセリフも、着地してから言う始末であった。
まあ、微笑ましいようで、やんちゃなようで、形もマネできていないマネであった。
「ぼっちゃん、やめてください! お父様とお母さまに言いつけますよ!」
「~~~!!」
少年のイメージでは、ガイカクのように滑空して、周りの給仕たちに『すごい、どんな手品なの!?』と驚いてもらうはずだった。
だが実際には、さっぱりであった。
イメージとの落差に、少年は地団太を踏む。
「あ~~ん~~……またやっているのか」
「旦那様!!」
「まったく、気持ちはわかるが辞めなさい」
その少年の元へ、一緒に見に行っていた父親も現れた。
彼は悔しそうにしている息子へ、優しく話しかける。
「確かに、アレはすごかった。一緒に見ていたが、どうやったのか全然わからなかった。お父さんも、正直やらせてほしかったよ」
「うん! うん!」
「ただ始まる前にも言っていただろう?『騎士団長は特別な訓練を受けています、素人の方は絶対にマネしないでください!』とな。終わった後にも、同じことを言っていただろう」
「そうだけど……特別な訓練、してるもん……」
「はあ……」
いくらシー・ランナーを着ているとはいえ、ウイングスーツで滑空して狙った場所に着地、というのは確かに危ない。
特に、建物の傍と言うのが危ない。下手をすれば、壁にぶつかっていたはずである。
うまいこと調整できたのは、さすがのガイカクであろう。
「いいか、良く聞くんだ。あの方は、総騎士団長ティストリア様が直々にスカウトしたほどの、とんでもなく有能な方なんだ。それは見ていればわかるだろう?」
「……うん」
「あの人のようになりたかったら、華麗に飛ぶところだけをマネしてもダメなんだ。もっとたくさん勉強して、運動して……騎士団に入れるぐらいになりなさい」
「そうなったら……僕、飛べるかな?」
「ああ!」
純粋な息子へ、父親は欺瞞をぶつけていた。
誠実に返事をしているが、内心では『いや、騎士団に入るのは無理だな……従騎士でも無謀だな』と思っている。
しかしそういわないと引っ込みがつかないので、ここは『ああ!』と無責任に言うのであった。
「僕……僕、騎士団長になる! そして空を自由に飛ぶんだ……! ガイカク・ヒクメ様みたいに!」
そういって、少年は窓から外を見る。
外には青空が広がっており、鳥たちが気持ちよさそうに飛んでいる。
自分もいずれ、あそこに行く。目を輝かせる少年は、目標に向かって邁進するつもりであった。
※
とある、女の子の場合……。
とある裕福な家で生活する女の子は、白い紙に絵を描いていた。
そこには、たくさんの果物と、それをもって運ぶガイカクの姿があった。
もちろん女の子の絵なので、とても大雑把で、人物や果物が判別できるものはない。
だが彼女にとっては『図鑑』のように精巧に描けていた。
「やあやあやあ、我こそは我こそは! 総騎士団長ティストリア様の忠実なるしもべ! ガイカク・ヒクメである! 皆さんの元に、皆さんが見たことのない果物をお出ししますよ~~!」
女の子は、ガイカクのセリフを口にしていた。
もちろん、意味はよくわかっていない。
だが彼女にとっては、魔法の呪文であった。
「これなるは、一粒一粒がグレープフルーツ並にデカいブドウ、グレープフルーツグレープ! ついで赤ん坊が入りそうなほど大きい桃、タローピーチ! さらにさらに、中に果汁がずっしりと詰まったスイカ、ソフトドリンクメロン!」
ガイカクが持ち込んだ異国の果実を、彼女は忘れないように描いている。
「あの子、帰ってきてからずっとああなんですよ……」
「いいじゃないか……そりゃあ、忘れられない瞬間だろう。私達だって、実物を見た時は『嘘だろ』と思ったじゃないか」
ガイカクは持ち込んだ果実を調理して、フルーツパフェのようなものを作っていた。
年齢に合わせて酸っぱい物や苦い物も交ぜていたが、それを含めて美味しい体験をしていた。
「……奇術騎士団の団長は、なんでも持っている、何でも知っていると有名だったけど、本当だったのね」
「ああ、さすが……騎士団史上初めて、武力以外を評価されて騎士団長に抜擢された男だ。本当に何でもできる方だったな」
両親の会話を聞いて、女の子は両親の元へ向かった。
そして描いた絵を、誇らしげに見せている。
「パパ、ママ! 私……将来絶対、騎士団長になるね! それで、パパやママにも、たくさんたくさ~ん! 美味しいものを作ってあげるの!」
(普通の騎士団長は、そんなことをしないんだが……)
(あの人が変なだけなのよね……)
両親は、女の子の夢を守ろうとした。
「ああ、それは楽しみだ」
「ええ、そうね。はやく騎士団長になってね?」
「うん!」
夢を守るとは、嘘をつくことなのかもしれない。
世の中、そんなもんである。
※
こうして、ハグェ家のパーティーに出席した子供たちは、大いに夢を描いていた。
正義のヒーロー、みんなの憧れ、騎士団長。
それになりたいと願って、夢を見ている。
そんな彼らの、憧れの的は……。
「ちくしょ~~! どうしてこうなった~~!」
奇術騎士団本部にて、地団太を踏んでいた。
イメージと違う状況に、彼は憤りを隠せないのである。
「……ねえ、先生はどうしたの?」
「なんか、パーティーで子供受けしすぎたのが嫌なんだって」
騎士団本部で待っていた面々は、ガイカクが憤っている姿に困惑していた。
せっかくのパーティーで、しかも手品のタネを持っていったのに、それでも怒り気味である。
「スポンサーのためだ……アレが間違っていたわけではない……でも、俺が作ってきた奇術騎士団のイメージが、なんか変わった気がする! せっかく黒い噂とどす黒い噂の絶えない騎士団に成長したのに……! 正体不明の胡散臭い男から、ただの親切おじさんになってしまった……!」
自分のロールプレイを、自分で台無しにしたことを、ガイカクは悔いていた。
せっかくのイメージ戦略から、一貫性が損なわれた気がする。
「おかしい……俺はつい先日、大量の毒物を精製し、それを現地人に押し付けた、とんでもない大悪党なのに」
「……なんか、団長、今とんでもないことを言わなかった?」
「毒物を作るような任務なんて、聞いた覚えがないけど……団長一人で行った任務かしら」
「つい先日、私たちが参加しなかった任務といえば……ケンタウロスのところへ仲裁に入った話よね?」
「たしか私たちのブローチって、ケンタウロスに作ってもらって、その上でケンタウロス秘伝のニスを使って……まさか」
「や、やめましょう……聞いたら損をする気がするわ」
そしてガイカクは闇に葬った事実を口にする。
だが闇に葬ってしまったので、実質なかったことになっていた。
彼の目的意識からすると、むしろ失敗だったのかもしれない。
「いよし! まあいい! イメージは損なわれたが、スポンサーの地位は守られた! ならばまだいい! スポンサーに嫌われるよりはいい! 共倒れよりはいい!」
ガイカクは白い紙を取り出し、そこに設計図を描き始める。
それはとても精巧で、余人が見ればなんなのか全く理解できないほどだった。
だがガイカクにとっては、極めて具体的な夢の設計図であった。
「今度の任務で、名誉を返上し! 汚名を挽回してみせる!」
子供達にとってあこがれの存在となったガイカクは、それを全力で裏切ろうとしていた。
これもまた、なんでも捨てられる男ということかもしれない。
「天才違法魔導士、奇術騎士団団長ガイカク・ヒクメが、天下御免の大悪党であることを世に示してやる! ひゃ~~っはっはっはっは!」
良い子が真似をしてはいけない姿を、良い子の見ていないところでやる。
それがガイカク・ヒクメであった。
連日の投稿にお付き合いくださり、ありがとうございました。
ネタが尽きましたので、またしばらくお休みをいただきます。
今後も本作を応援よろしくお願いします。