国立魔導局にて
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奇術騎士団団長ガイカク・ヒクメ。
彼の存在は、困難とされたがゆえに封印されていた多くの技術が、実現可能である、再現性があるとの証明であった。
であれば。
つまり、ガイカク・ヒクメ本人に接触する必要はない。
それこそセフェウが以前に言っていたように、自分で実験をして自分で研究をして、自分で成功まで行きつけばいい。
完成に至るまでは膨大な犠牲を要するかもしれないが、それはそれで一種正道といえなくもない。
ガイカクの通った道、ガイカクの『先人』が作った道。
それを歩もうという者が、ちらほらと表れていた。
そんな彼らの多くは、ガイカクへ接触しない。
違法となった魔導技術が封印されている場所、『国立魔導局』へと向かう。
そこにあるのは完成に至らなかった途上の技術ばかりだが、それでもゼロから始めるよりずっと早い。
そこで厳重に管理されている資料を秘密裏に、つまり違法な手段で読み漁り、有用なものを写し取り持ち帰ろうとしていた。
そうした者達のほとんどは『違法技術』を探るうちに、その奥にある禁忌に気付く。
国立魔導局の中に、違法技術の保管された部屋の、更にその奥に部屋があることを知るのだ。
そこにある資料は、読むだけで吐き気を催すような、国家の機関が実行したとは思えない実験の資料であった。
そこに忍び込んだ二人の男は、暗くホコリまみれの部屋の中で、ランプの灯を頼りにその本を読んでいる。
「……死者蘇生、不老長寿、若返り、非エリートのエリート化、人心の完全操作。それらの実験記録だな」
「ああ、魔導士たちが自主的に封印した、禁忌の技術資料。こんなもんがあったとは……」
魔導士たちは、政治家ではない。
魔導士たちは技術を生み出すが、違法かどうかを決めたりはしない。
その権限がないこともそうだが、法にかなうかどうかはそこまで重要ではないからだ。
そんな魔導士たちが、自ら封じる他なかった、公表できない資料。
それを読む者達は、禁忌の定義をおのずと知ることになる。
「禁忌の定義……国家の機関が行っていたと公表できないような、残酷な資料であること。それからもう一つは……」
「ああ、『原理の解明さえできなかったこと』だな」
達成したい目標はあった。
だがどうやったら実現するのか、どうやってもわからなかった技術。
試行錯誤の末、成功までの道筋が見えなかった技術。
それが、禁忌。
違法にするまでもなく、完成することもなかったもの。
いつか再びこの技術を完成させるために動き出すとき、『このやり方は上手くいかなかった』と後世に伝えるための資料。
魔導的に価値がある、しかし倫理的に問題のある資料。
そう知った彼らは、ため息をついた。
「……これは、意味がないな。俺たちの依頼主は、こんなもんは求めてないだろう」
「ああ。後ろめたい資料が保管されていましたよっていうのがやっとだな……ん、待てよ?」
禁忌の定義が『公表できない資料』と『実現できなかった技術』の二つであるということは。
前者を満たしたうえで後者を満たさない技術があるということ。そうでないのなら、後者の条件は必要ない。
「あるのか? 実現している禁忌が……!?」
公表できない資料を含むうえで、実現している技術があるとしたら。
それは、とんでもない宝であろう。
そのことに気付いた彼らは更に禁忌の書庫を探り、ついに『最奥への扉』を開いた。
すなわち……大禁忌の保管庫である。
「コレが……公表できない資料」
「そして、実現している技術だ……」
そこには、いくつもの■■が保管されていた。
それらは■■■であり、良く見比べなければ判別できない。
それらの容器にはナンバーが振られており、容器は九つあった。
そして、最後のナンバー、9の容器だけは空だった。
「なあ、これって……もしかして?」
「あ、ああ……俺も知っている。これは……つまり、まさか?」
その意味するところを、彼らは悟った。
「まさか、ガイカク・ヒクメとは……!」
それが、彼らの最後の言葉となった。
「またバカが来たか」
ガスマスクをつけた男が、彼らの背後に立っていた。
その彼は噴霧器による霧を、二人に浴びせている。
その霧を浴びたとたん、二人の男は即死し、地面に力なく倒れた。
自分が死んだことも気付かずに毒死した二人を見下ろして、男は呆れる。
「アイツが表で活躍しているおかげで、魔導局の予算は多くなったが……その分ここに来る奴も増えた。毒液の処理はともかく、死体の処理は簡単じゃないんだがなあ……」
今死んだばかりの二人は、不法侵入という違法行為を犯していた。
それに対して毒殺した男は、ここに居ることに関しては違法行為を犯していない。
国立魔導局の責任者であり、国立魔導局創始者の後継者。
国立魔導局九代目局長、イン・ハイ九世
禁忌、大禁忌を守る一族の長である。
「アイツ、俺に迷惑をかけている自覚はあるのかねえ?」
中和剤を撒いた後、彼はガスマスクを脱いだ。
その顔は、まさしく……。
ストックを出し切りましたので、またしばらくお休みをいただきます。
応援いただき、ありがとうございました。




