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読まれないヘタレなろう作家とイマジナリーフレンドさん



*** ①イマジナリーフレンド誕生 ***


「もう無理っす」

 パソコン画面に映し出された閲覧数を見て、俺は机の上に突っ伏す。

 連載作品の投稿を続けて二年。俺は自分の執筆活動に限界を感じていた。


(投稿を始める前は書籍化を夢見てたけど、無理すぎて無理ぃ……)


 投稿初日の閲覧数が一桁だった時も理想と現実のギャップに白目剥いたが、「まだ知られていないだけ。書き続けていれば変わる!」と言い訳も出来た。

 諦め悪くも二年書き続けた事で読者も少し増えてブクマや評価を貰えたが、連載作品は一度も日間ランキングに載らず、月間アクセス数は平均二千から三千程。レビューはゼロ。ブクマは五十一。


 小説を書くこと自体は楽しい。うまく進まない時は辛いが、自分の書いている小説のキャラクター達が大好きだし、思い入れのある作品なので結末まで書き上げたいと思う。


 しかし、人間の心は弱い。まあ、俺が弱々メンタルな事が原因なのだが。

 ネットの調べで自分の作品が『読まれない』に分類されるとわかった時は、地面に叩きつけられるような思いだった。


『読まれない作品を書き続ける事に、何の意味がある?』


 作品を書く中で繰り返される自問。

 少しでも連載作品の読者を増やしたいと短編を書いて投稿しても効果は微妙。

 読者が少ないと、リアクションしてくれる人も少ない。作品を楽しんで貰えているのかもわからず、執筆のモチベーションはドンドン下がっていく。


 俺は書くことを放棄して、ベッドの上に寝転がる。

 疲労した体で目を閉じれば、意識が深い暗闇に沈んでいくのを感じた。


(もしも、俺が小説の主人公なら、ご都合展開で何かしら救いの手が差し伸べられるのにな……)


 何かの拍子に閲覧数が爆上がりするなんて期待できる状況ではない。読者が離れていく方が現実味がある。


「いっそ、もうやめてしまおうか」

 このまま書き続けても意味なんてない。凡人の自分は大きな望みを抱かずに、誰の目にも触れないように投稿をやめて、ひっそりと生きていく方がいいだろう。


『書かれないんですか?』


 耳元で聞こえた女性の声に意識が覚醒する。目を開けると、ロングヘアの金髪碧眼美女が俺の隣に寝そべっていた。


「フォアああん!?」

 情けない叫び声を上げながら俺は飛び上がる。コミ障全開・異性耐性ゼロを発揮しながらも、何とか口を開いた。


「ダダダドゥれ!?」

 キョトンとした顔で俺を観察していた金髪美女が起き上がる。何故か全身小豆色のジャージを着ていた金髪美女はニコリと笑った。


『私は、あなたが空想で作り出したイマジナリーフレンドです』

「……は? な、何それ……」

 イマジナリーフレンドという存在は知っている。幼い子供が作り出す空想の友達だ。


「で、でも俺は大人だし、イマジナリーフレンドなんて出来る訳が」

『何故、大人はイマジナリーフレンドがいないと思うのですか?』

「え? それは……なんでだろう?」 

 言われてみれば謎だ。イマジナリーフレンドが精神的な拠り所を求めて作られる存在なら、子供だけではなく、大人にいてもおかしくない。


『人間の心はどこまでも自由です。だから、自分で制限さえ掛けなければ、何でも作りだせる。フレンドだけじゃなくて、恋人も作れますよ』

「いや、まだそこのラインは越えたく無いかな……」

 妄想の恋人が出来ましたなんて言ったら、自分が守ってきた何かが終わる気がする。


 自称イマジナリーフレンドの金髪美女がズイッと顔を近づけてきた。


『あなたの心が私を必要として作り出した。私がいる間は、執筆をやめさせませんから。覚悟してください!』

 

(俺の脳みそ、ここまで限界きてたんだなあ……)

 他人事のように黄昏(たそがれ)つつ「ははは」と力なく笑う。気分は『もうどうにでもなーれ』だ。


『まずは、私に名前つけてください』

「え……。名前……か」

 正直、名前を考えるのは苦手だ。小説の登場キャラの名前を考えるだけで数日悩み続ける程に。

 俺はイマジナリーフレンドをじっと見つめて口を開く。


「イマジナリーフレンドだから……『イフちゃん』でいいかな?」


『短絡的なネーミングセンス。さすが連載作品のタイトルがクソダサいだけありますね。感心します』

 イフちゃんは慈愛の笑みを浮かべながら、俺の心をグサリと刺してきた。


「……あれ? おかしいな。誉めていると見せかけて、ナイフで心を抉られているような……」


『まさか、褒めてますよ。私はあなたの心の友ですからね。これからよろしくお願いします。ヘタレなろう作家のヘタなろさん』


「悪意しかないネーミングだね!?」




*** ②人生の時間の使い方 ***


「うう……。時間が、時間が足りない! なんで一日は三十六時間じゃないんだ! なんで日本の労働時間は八時間以上もあるんだ! 残業なんて、この世から撲滅しろぉ!!」


 今日は投稿前に作品の最終チェックをする日だ。

 仕事帰りに買い物に寄る時間も惜しくて、唯一冷蔵庫に残っていた食べ物である煮干しを夕飯として齧りながらパソコン画面と睨めっこする。

 小説の編集作業は直しても直しても修正箇所が出てくる為、なかなか終わらない。


「ああ。読まれない小説に時間を費やすより、もっと有意義なことに人生の時間を使った方がいいんじゃないだろうか? これ以上書き続けて、死ぬ時に『無駄なことをしたな』って後悔しないだろうか?」


 仕事の日も休日も小説の事を考えて書いて。この二年間、(ほとん)どの時間を小説に費やしている。買い物に行くのも面倒に感じて、休日は家に引きこもるようになった。 


『有意義とは何でしょうか?』

 自称慈愛キャラのイフちゃんが、ベッドの上にゆったりと寝そべりながら問う。

 ジャージ姿から考えても、慈愛というより自堕落キャラが似合う気がする。前に「何故ジャージを着ているのか?」と聞いたら、「反復横跳びしやすいからです」とイマジナリーフレンドにも日常生活にも不要としか思えない返答をされた。


「これからの生活の為に収入を増やす方法を学ぶとか。恋人を作るとかさ」

 

『たとえ小説を書くのを辞めたとしても、新たな収入源や恋人を得られるとは限りません。そもそも、それは小説書いていても出来る事ですよ』


「そんなパーフェクト人間に生まれてたら、ここまで人生苦労してないよ。俺だって恋活したら、そのうち恋人が……って、やめて!そんな哀れみの目で見ないで!!」


『慈愛の目で見てます。可哀想なヘタなろさん』

「慈しみも愛も全く感じないけど!?」


『心の友からの温かい言葉なので真正面から受け止めてください。気になる異性が至近距離に来た瞬間に挙動不審になるヘタなろさんでは、生まれ変わらない限り恋愛は無理ですよ?』


「心の友が積極的に絶望を与えて来んなよぉおっ!!」


『絶望しかない人生なら、どれだけ時間を無駄にしても大丈夫でしょう。ほら、さっさと執筆する!!』


「鬼かな!?」




*** ③数字に踊らされる ***


「読者もっと増えて欲しいなー」

『人間の欲望って限りがありませんよね。一年前までは、一日のアクセスが百を超えていたら、お祝いだとハー○ン○ッツを奮発して買っていたというのに』

 

「確かに前に比べたら、読まれてはいるけど。読者の多い『小説家になろう』のサイト上では読まれない方だろうし」

 他の作家さんのアクセスを数を見てみたら絶望しかなかった。あれは見るものではない。本気で凹む。


『前から思っていましたが、『読まれない』と言うのは、作品にも自分や読者の人に対しても失礼です。少ないからって、”無い”という訳ではないのですから』

 

 読まれないというのは、誰かの決めた基準から見たらという話だ。

 アクセス数や読者がゼロな訳ではない。有り難い事に、作品は読まれていて、作品を好きだと言ってくれる読者がいる。


「それでも、数字を気にしちゃうんだよね。閲覧数が減ってたら落ち込むし。……もうずっと数字に踊らされるんだろうな。こうなったら、いっそ自分から踊ってやるぅ!」


『すみません。よくわかりません』

「Si○iみたいな返事しないで」


 俺は深い溜め息を吐く。

 人と比べても何も意味がないことだと、今までの人生でわかっている。

 だが、大好きな作品だからこそ、多くの人に読んで愛されて欲しいというエゴがあった。

 

「世間で読まれている作品は面白い上に、作家さんが読者のことも考えて努力してるんだろうね。ちょっと読みたくなる作品のコツとかないか調べてみよう」


 動画アプリで『小説家になろうで読まれる為のコツ』を紹介している動画を見つけて視聴する。結果、俺は更に落ち込んだ。


「ど、どうしよう。読まれている小説の特徴に一個も当てはまらないし、NGポイントばっかりやってる!!」

『あちゃ〜。がんば』

「応援レベル低いな!? でもこれ、小説の内容をまるまる変えないと無理な話だし。ええー……」


 連載作品の世界観を大幅に変えてしまう事は出来ない。頭の中にいる主人公達も困惑して、話自体が動かなくなるだろう。今書いている連載作品を書くのをやめて、新しい連載作品を書き始めるの事を選ぶのは、今の自分的にはしたくない。


「出来る事といったら、あらすじを変えることかな。あらすじが大事ってあったから」


 俺はよく読む漫画アプリを開く。好きな作品のあらすじが、どのように書かれているのか読んでみた結果、俺は頭を抱えた。


「やばい! プロが書いたあらすじとレベルが全然違う! 俺の書いたあらすじだと、作品の事が何もわかんない!! これじゃ、読みたいと思わないじゃん!!」


『本当ですね。プロの方が書いたものは「読みたい!」と思わせる効果があるのに対して、ヘタなろさんが書いたあらすじは、道端で唐突に手持ちの本を広げて迫ってくる不審者と言える程に理解不能です。心が海より広い御方以外は、関わり合いになりたくないとバックステップ&Uターンしますね』


「イフちゃん、そろそろ円滑なコミュニケーションの為にもオブラートを覚えような?」

『不要です』

「どっちの意味の不要!? オブラートか、俺との円滑なコミュニケーション、どっちを拒否したの!?」


『何を仰っているのかわかりません』

「S○ri対応で誤魔化さないで! とりあえず、あらすじ書くから。俺のことを応援してて」


『ハハハ。足掻け足掻け』

「応援下手くそすぎん?」




*** ④R指定って、どこまでOKですか? ***


「R15って、どこまで許されるの? 『おっぱい』というワードはセーフ?」

『成人男性が真顔で悩むことではない気がします』


「いや、悩むことだよ。規制に引っかかって閲覧禁止になったら嫌じゃん」


 作品を書く上で悩むことは色々あるが、R15指定もその一つだ。どの単語がアウトで、どこまで描写OKなのか悩んでしまう。


「う〜ん。『おっぱい』はギリセーフそうだけど。実際はどうなん? 少年マンガでも単語として載ってたから、多分有りだよね? おっぱい」

『確認する為に連呼しないでください』


「お色気系だけじゃなくて、グロ系も何処まで大丈夫なのかよく分かんないし」


『直接的に危険なワードを出さなければ大丈夫じゃないですか? まあ、ヘタなろさんは恋愛経験乏しいですし、グロい漫画も読めないビビりですので、R15より上は書けないと思いますが』


「イフちゃんって、俺に何か恨みあるん?」




*** ⑤リアクション ***


「うう。もう仕事行きたくない。家から一歩も出ずに引きこもりたい」


『お帰りなさい。ヘタなろさん。今日も社会の絶望を味わってきましたか。いい気味ですね。思いの(たけ)を小説にぶつけてみてはいかがでしょう? 怒りこそ力!』


「イフちゃんって実はフレンドじゃなくてエネミーなのかな? 今日は新しいのは書かないよ。連載作品の編集作業をしたいし」

 

 ノートパソコンを開いて、小説家になろうの自分のユーザーページにアクセスする。感想が書かれたという知らせが入るページの為、一応定期的にチェックしていた。

 

(感想は滅多に書かれないから、あまり期待しない方がいいんだよね。お気に入りの話を投稿して、読者の反応がなかった時の落ち込みが半端じゃないし。ここは流す程度で)

 いつものように、すぐに次のページへ遷移しようとした俺の目に赤い文字が飛び込む。


「ん? んんん゛っ!?」 

 前のめりになって、パソコン画面を凝視する。画面左側に「感想が書かれました」と赤文字で表示されていた。


「やった!! 感想! 感想がきてる!!」

 両拳を天井に突き上げて、俺は左右に腕を振る。椅子から立ち上がって、高いテンションのまま踊り出してしまう程に嬉しい。仕事の理不尽なクレームも秒で飛んでいく。浮かれまくる俺を、イフちゃんは呆れた目で見た。


『テンションが狂っていて、痛い人になっていますよ』

「何とでも言って。今はそんな攻撃なんて効かない程に『嬉しいガード』が働いているから」

『ネーミングセンス皆無。感想とかリアクションって、そんなに大事ですか?』


「俺にとっては超絶大事なの!!」

 読んでもらえるだけでも嬉しいが、リアクションも欲しいのが本音だ。


「リアクションが無いっていうのは、例えるなら応援も拍手もない中で一人全力のヒーローショーをやってるみたいな感じかな? ステージをチラリと見てくれる人もいるけど、すぐに手元のスマホに視線を戻して素通りされるような虚しい気持ちになる」


『例え下手ですね』

「うん。自覚ある。でも、人間って関心がないのが一番辛いのかも」


 俺が見ているのはパソコン画面の数字だけ。読者の人達の反応は見えていない。だから、書けば書く程、リアクションがないのは面白くないからではないかと思ってしまう。


『ヘタなろさん。「リアクションが無いから書くのをやめる」って言いませんよね? もし、そういう考えなら、一晩中枕元でネチネチ応援してあげます』


「それ、応援じゃなくて精神攻撃だし。まあ、『リアクション無しでも書き続けます』なんて鋼メンタルにはなれないけど。リアクションをする・しないは読者の自由な権利で、俺が強要するなんておかしいし。俺が作品を書かなくなっても、それは俺の心の問題だから。他人の問題へ()り替える気はないよ」


 読まれなくて虚しい思いをするなら、投稿しないで自分の頭の中だけで楽しめばいい。『小説家になろう』に投稿する前は、ずっとそうしていたのだから。

 自分の中に生まれた物語を『小説』にして『誰かに届けたい』という想いが失われた時に、俺は書くのをやめてしまうのだろう。


「実際は頭の中で想像しているだけの時より、書いてみた方が作品が広がって面白くなるし。自分の作品が大好きだし。いつ心が折れるかもわからんけど、行ける所まで書いてみる。作品を完結させたいのは俺も同じだから」


『そうですね。書かないと、感想も貰えませんよ』

「それな! ああ、すぐに感想読んじゃうの勿体無い。あと三日くらい寝かせてニヤニヤしたい。けど、感想くれた人にはすぐに返信したいし!!」


 感想を読むときは、サンタクロースにクリスマスプレゼントをもらった時のような気分だ。嬉しさが込み上げて、ニヤニヤが止まらなくなる。


『他人に見せたら、通報待ったなしの不審者ですね。キモイです。ヘタなろさん』


「嬉しいから仕方ないんです〜」


 俺はイフちゃんを見る。

 イフちゃんが目の前に現れたからといって、小説の閲覧数が爆上がりするなんて奇跡は無い。それなのに、何故自分がイマジナリーフレンドを生み出したのか、今ならわかる気がした。


「イフちゃんが生まれたのは、『作品を書き続けたい』っていう俺の思いからなんでしょ?」

 

 ヘタレな自分は、これからも書くことに対して悩むだろう。けれど、それは『書きたい』からこそ生まれる悩みだ。好きなことを諦めたく無いという自分の心がイフちゃんを作り出し、書くことを選ぶように導こうとしている。


 イフちゃんは真面目な顔で俺を見つめて、小さく笑みを浮かべた。


『いえ。私が生まれたのは、ヘタなろさんの性癖だと思います』


「……………は? え? ど、どういうこと!?」


『ヘタなろさんは、落ち込むのが趣味かと思う程に落ち込みやすいので。落ち込んでいる所を毒舌で責めて欲しいという気持ちが芽生えた末に私が生まれたのかと』


「誤解を生む発言はやめてよ!! 俺はドMじゃ無いから!! そんな趣味嗜好ないし!!」


『気づかないうちに新たな属性の扉が開いたということですね』


「開いてないから!! 俺を陥れないで!! というか、いい感じで終わらせようとしたのにブチ壊さないでよおお!!」



☆おしまい☆



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