後悔と孤独
スマホの電子通帳を見ながら、スズは渋い表情を浮かべていた。床に足を崩して座るスズは、スーツ姿だ。静かな部屋の中、しとしとと降る雨の音が響いていた。
勢いあまってキャバクラをやめたはいいものの、就職活動がまったくうまくいっていない。ハローワークや求人サイトを駆け巡り、書類を送ってみたものの面接にすら進めなかった。
ある程度貯金があるとはいえ、余裕というほどでもない。自身が社会が求める人材ではないという現実に、焦燥感を募らせていく。
希望は、一般企業の正社員。給料が低すぎると生活が難しくなるからそれなりの額は欲しい。子どものためを思えば残業はしたくない。
しかしスズは十年以上のブランクがある。雇う側からすればスキルも経歴も、信用もなかった。
スズは頭を抱え、ため息をつく。
「……自業自得、か」
別れた夫に、養育費の請求はしていない。もうずいぶん昔のことだから、今さら連絡しようにも連絡先が分からなかった。
あの頃はとにかく、別れられるならそれでよかった。もうかかわりたくもなかった。若いのもあって、自分一人でもなんとかなると思っていた。こんな状況になることをちゃんと見すえて、なんとしてでも請求すべきだったのに。
――今後の生活、どうしよう。地方に引っ越すことも考える? 就職に向けてもっと計画をたてないと。もううだうだ言ってる状況じゃない。準備できることはいろいろあったはずなのに、なにもしてこなかった私はなんてバカなんだろう。
ぐるぐると考え込むスズは、息子がすでに帰ってきていることにも気づかなかった。
「お母さん?」
リビングに放たれた息子の声に、ハッと振り向いた。ランドセルを背負った息子が、たたずんでいる。
「あ、おかえり」
スズと目を合わせた息子は、神妙な顔で、意を決したように口を開く。
「お母さん、俺、中学卒業したら働く」
「は?」
「俺、勉強苦手だし」
まさか本気のはずがない。
スズはへらりと笑う。
「なにいってんの。このご時世大学まで行かないと」
「でも、俺のせいなんだろ、お母さんが仕事辞めたの。だから、お金ないんだよね。……ごめん」
うつむく息子が、あの日の言動を後悔していることに、嫌でも気づいた。
子どもに、そんなことを言わせるべきではない。言わせてはいけない。言わせないように、これまでずっと、がんばってきたはずなのに――。
母親として、これ以上、息子が理不尽に追い詰められる状況になるのは避けたい。
「あんたはそんなこと考えなくていいの」
いつもどおり、鈴が鳴るような独特の高い声で言う。
「でも……」
「おなかすいたでしょ。おやつあるから食べな」
ほほ笑みながら立ち上がる。
「お母さん今からご飯の準備するね」
キッチンに向かい、スーツの上からエプロンをつけた。




