宵闇の面接
「うーわ、そいつはひどい」
薄汚れた一人掛けソファに座る、男性スタッフの顔がゆがんだ。正面に座るユイは長い前髪を降ろし、顔の左側を隠す。
「一生もんのトラウマになりそう」
苦悶の表情で目頭を押さえる男性の背後に、待機室がある。開きっぱなしにされたドアから、狭い部屋の中で詰め込まれている女性たちが見えた。
ゾウのようにぽっちゃりとした体形の子もいれば、鼻がつぶれて歯がむき出しになっている子もいる。ほかにも、ユイより二回りは年上に見える女性や、首に巻いた包帯に血がにじんでいる子、目元の化粧に違和感のある十代の子もいた。
一目見ただけで訳ありだとわかるような女の子ばかりだ。
「お子さんいるんだっけ?」
男性スタッフの声に、視線を戻す。
「……はい」
「一人で育ててるってわけだ。大変だね」
「Sweet Platinum」を落とされたユイが次に来ていたのは激安デリヘル店だ。雑居ビルの一室に構える事務所で、女の子たちの待機場所も一部屋のみ。「platinum」とは天と地の差だ。
換気もろくにされていない事務所はタバコのにおいが立ち込めていた。そのうえでまた、目の前の男性スタッフがタバコに火をつけ、口にくわえる。
「働いてる間お子さんどうするつもり?」
「夜間の保育園に、預ける予定です」
ユイは、もう後がなかった。
少しでもお金を稼げるのなら、この身を売ることくらいやぶさかではない。それほどまでに追い詰められている。
しかしこれまでに受けた風俗店の面接では、顔のやけどと体の傷を理由にすべて断られていた。
「……うん。まあ、大丈夫じゃないかな。うちはいろんな子がいるからね。それこそ、バツがたくさんついてるような子もいるし、タトゥーをめちゃくちゃ入れてる子もいる。稼げるか稼げないかは本人の努力次第ってところだから」
受け入れてくれそうな言葉に、安堵の息をつく。
「でもさすがにその顔は怖すぎるから。包帯でぐるぐる巻きにでもしといてよ。ミイラみたいになっちゃうだろうけど」
「はあ……」
「ああ、そうそう。きみ、未経験なんだよね? じゃあ、講習受けないとだ」
ユイは身をこわばらせた。働く以上は当然だと理解している一方、不穏な想像が次々と湧き出て不安を掻き立てていく。
「そりゃデリヘルだから本番行為はないけどさ。キスとか口ですんのはあるから。技術向上のためと思ってね」
男性スタッフはユイの緊張をほぐそうと、笑いかける。が、その目はどこか濁っており、有無を言わせぬ圧を感じさせた。
「ここで恥ずかしがってちゃ、お客さんにもちゃんとできないよ? そうやって稼ぐために、ここに来たんでしょ?」
「あ……はい」
うなずくしかなかった。
ユイが働ける場所は限られている。もうこの店にいさせてもらうしかない。お金を稼ぐためなら、どんなことをされても耐えるしかないのだ。
スタッフに連れていかれ、店長室へとユイは消えていく。その後ろ姿に、待機室でたむろしていた女性たちの視線が、集中していた。




