表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
律と欲望の夜  作者: 冷泉 伽夜
第三夜 静寂と沈黙の雨
73/73

嵐の幕開け


 カーテンが開く掃き出し窓には、大粒の雨が叩きつけている。パンツスーツを着込んだメイコが、窓際で真っ暗な外を眺めていた。


 本格的な梅雨の時期はまだ先だというのに、くもりと雨を繰り返す日々が続く。


 今日は特にひどい天気だ。遠くで稲光が走り、地を揺らすような音が続いた。


「窓の近くにいないほうがいいんじゃねえの?」


 壁側に並ぶデスクの一つに、でっぷりとした体形の部長が座っている。スマホを見ながら気だるげに言い放った。


「こんな天気じゃ、今日もお茶引く子は多いだろうな」


 高級デリヘルの運営事務所「Sweet(スウィート) Platinum(プラチナム)」。その界隈(かいわい)の人間が一度は耳にするデリヘルグループだ。


オフィスは高級住宅街の隅にひっそりと建つ、オートロック付きマンションの一室。会社でフロア二階分を借り上げ、キャストの待機や宿泊、指導室として利用していた。


「ホスクラも一緒ですよね。雨の日に客が少ないのは」


 窓を見ながら、メイコはぽつりと返す。


「もう、すでに来られてもおかしくないと思うんですけど……」


 部屋の角に位置するデスクで、掃き出し窓のそばに座る事務員の優希(ゆうき)が、作業の手を止めた。頬づえをつき、いたずらっぽい笑みをメイコに向ける。


「社長、人気者だから、例のごとく女の子につかまってるんじゃないですか?」


「そうなのかな……」


 電話の一つもかかってこない中、部長のため息が()えわたる。スマホを置き、いかつい顔でメイコを見上げた。


「面接の件か?」


「はい」


「メイコが断ったってことはよっぽどだったんだろ」


「そう、ですけど」


 メイコは納得のいっていない顔を伏せる。


「だったら、社長も同じような判断をしたさ。いったいなに引きずってんだか」


 その瞬間、窓全体が大きく閃光(せんこう)を放つ。同時に、頭を貫くような轟音(ごうおん)が響き渡った。


「きゃっ」


 思わず飛び跳ねて窓から遠ざかるメイコに、部長は立ち上がる。


「おい、大丈夫か。今のは近かったな……」


 幸い、ブレーカーが落ちるようなことはなかった。電話線もネット回線も無事だ。


「こりゃ女の子たちも怖がってるだろうな」


雨の音はさらに激しくなっていた。まだ、やむようすはない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ