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律と欲望の夜  作者: 冷泉 伽夜
第一夜 Executive Player 律
30/72

ある箱の中




「え?」


 ソープランドの狭いバックヤードに響いたのは、レミの声だった。


 封筒から取り出した万札の枚数に、顔をゆがませている。


「あの、少なすぎませんか?」


 レミの訴えに、パソコンで日報を記録していた中年の男性店長が、ゆっくりと顔を向けた。ふっくらとした体形で、髪の毛の後退が進んでいる。


 レミは封筒をふりながら語気を強めた。


「私、だいぶ仕事しましたよね? 一日でお客様の数二桁は回してますよ。なのにこの金額っておかしいでしょ」


 店長は顔色を変えず、レミを見すえるだけだ。


「昨日もおとといもその前だってそう! どういうことなんですか? 求人に書いてあったのと全然違うんですけど! 絶対会社のほうが多めに抜いてますよね?」


「それね、天引き」


「は? なに?」


 強気なレミに、店長はため息をつく。パソコンへ顔を向け、記録を再開した。


sweet(スウィート) platinum(プラチナム)


「え?」


「きみが前にいたお店。きみ、そこの社長から借金してるよね?」


 思い切り動揺するレミに、店長は見向きもしない。日報を記入しながら、ただ淡々(たんたん)と、吐き捨てた。


「別の店で働いたらチャラになるとでも思った? 言っとくけどね、この業界、それなりに横のつながりがあるんだよ。そういう店同士のトップが集まって会議することもあるし、女の子や客の情報をやり取りすることもある」


 店長の言葉に、レミはみるみる青ざめていく。


「その中でも、きみは、敵に回しちゃいけない人を敵に回したね」


「そんな……」


「その額に不満があるなら辞めてもいいよ。でも、この業界では他に働く場所、ないよ? どのお店にも連絡いってるし、雇ってくれないんじゃないかな。雇われたとしても同じように天引きされるのがオチ。少なくとも、関東はもうだめだね」


 店長の一言一句が重く、全身にのしかかっていた。


「大丈夫だよ。五十万ならすぐに返せる。一か月、毎日働いてくれるなら、すぐだ」


「そんな……。前の店では少し返してたし」


「利息ってわかる? それと、途中でバックレた時の罰金も含んであるから。……借用書に書いてあったでしょ? 読まなかった?」


 レミは少ない万札を握りしめ、体を震わせる。


 夜の世界しか知らないレミには、もう、逃げ場がない。





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