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律と欲望の夜  作者: 冷泉 伽夜
第一夜 Executive Player 律
18/72

安易な約束




「リオ、おまえまた来たの?」


 仲直りシャンパンを入れて数日もたたないうちに、リオはAquarius(アクエリアス)に足を踏み入れていた。シャンデリアを見上げられるソファ席に座り、リオはかわいらしく笑う。


「なにそれ~。来たら迷惑みたいな言い方じゃん」


「違えよ。こないだたくさん金使ってくれたからさ。心配してんだよ」


「大丈夫だよ。言ったでしょ。私が拓海のこと支えるって」


「そうだけど……でもほんとに無理すんなよ」


「大丈夫だって。昼間もたくさん稼いでるし」


「そう?」


 拓海はぎこちなく笑う。


 確かに、ホストクラブで売り上げに勝る名誉はない。


 とはいえ、デリヘルで働くリオには、金を一気に使うためにも働いてほしいところだ。夜はなおさら、稼ぎ時なのだから。


 頻繁に来て安酒を頼むくらいなら、締め日ギリギリまで働いて一気に散財してほしい。


「あのね、拓海。今日はちょっと掛けになっちゃうかも。でも次きたときに払うからいい? モエピンク」


 律だったら。律だったら間違いなく断っている。


 拓海は違った。なにせ、リオは先日、現金一括でおつりまで出したのだ。デリヘルで相当金を稼いでいるのは間違いない。たとえ少しの掛けを出したとしても、締め日までに入金する余裕はあるはずだ。


「おっけおっけ。俺のためにありがとな。でも絶対飛ぶなよ?」


「飛ぶわけないじゃん! 私には拓海しかいないんだから」


 それからも、リオは拓海のために何度も店に通った。

 同伴から店に入り、ボトルを二、三本おろして帰る。リオがいる日は必ず、拓海がラスソンを歌うことができた。店が終わるとアフターで一泊することもある。


 この短期間で、拓海のために一番金を出すエースとしてなりあがった。Aquarius(アクエリアス)のホスト、スタッフが認知するほどの存在になった。


 ボトルは掛けになることもあったが、次の来店時には必ず払っていた。たとえどんなに大きな掛けをしても、締め日を待たずに必ず回収できている。


 だから、油断していた。


 拓海は掛けることに抵抗を見せなくなっていた。


「あ、ごめん。拓海。今日持ち合わせないや」


 シャンパングラスをあおっていた拓海が、間延びした声で返す。


「あ~、いくらだったっけ?」


「えーと、三百万」


「は?」


 さすがに酔いが冷めたのか、ソファに座りなおし、リオに向き直る。リオはあっけらかんと笑っていた。


「今日さ、シャンパンタワー頼んじゃったじゃん? アルマンドで。予想よりも値段行っちゃったんだよね~」


「いや三百万はやばいだろ~」


「これからがんばって稼ぐからさ。最低でも入金日に全部払えばオーケーでしょ?」


 いつもの調子で、悪びれもせず、リオは言う。


「あ~……ん~……でももうすぐ締め日もあるのに……」


「大丈夫だって! 私こう見えてデリの売れっ子なんだよ? 拓海を絶対に一位にのし上げるから、任せといて!」


 実際、リオの金回りはいい。リオが頑張れば、律の売上を越えるのも夢ではない。


 高額な掛けも、ホストにはよくあること。拓海は今まで回収できていたし、リオは今まで掛けをはらっている。


「……わかった。でもぜぇってぇ飛ぶなよ」


「も~、わかってるよ」


 二人がいる卓席の後ろを、スタッフに連れられた律が通っていく。拓海の卓席の前に積まれていたはずのシャンパンタワーはすでに飲み干され、撤収されていた。


 飛ぶ鳥落とす勢いの拓海だが、律が脅威に感じることはない。



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