表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
律と欲望の夜  作者: 冷泉 伽夜
第一夜 Executive Player 律
14/72

大切なお客様 1




「ちょっとぉ。なんなのよぉ」


 開店直後のAquarius(アクエリアス)で、独特な声が響き渡る。


「この店そういう差別するわけ~」


 レジカウンターで、独特な声色を発する二人がスタッフともめていた。律がカフェで出会った、女装するゲイ二人だ。


「申し訳ありません。少々確認しているだけですので……」


「つったって、女はすぐに通したじゃないの。律くん呼びなさいよ、律くん」


 細身のおネエさんがカウンターをバンバン叩く。


 スタッフは眉尻を下げ、イヤホンの指示を気にしながら頭を下げていた。


「なんでこんなに待つ必要があんの? 律くん呼んで来ればいい話だろうがよ!」


「申し訳ありません……」


「あたしたちがそんなヤバいやつに見えんの?」


「ま~、失礼しちゃうわよねぇ」


「なんか言えよ! この店にふさわしくないってんならとっとと帰ってやっからよ」


 スタッフをにらみつける二人から、並々ならぬ気迫がただよう。スタッフは今にも泣きそうな顔になっていた。


 トイレで用を済ませた律は、聞きなれた声に導かれるようレジカウンターに向かう。


 不幸中の幸い、といったところか。この日の律に同伴はなく、指名客もまだ来ていない。


 先に駆け付けていく店長に気づき、足を遅くする。店長のあとを、ゆっくりと追った。


 先に到着した店長が、二人に対して頭を下げた。


「大変お待たせして申し訳ございません。律をご指名ですけれど初回、ですよね? 本人に確認次第」


「大丈夫だよ。もう来てるから」


 振り向いた店長は、先ほどの二人よりも凄みのある顔でにらんできた。確認のために律のことを探し回っていたらしい。が、律はそれを尻目に、満面の笑みをゲイ二人に向ける。


 とたんにきゃっきゃと騒がしくなった。


「あっ。律く~ん、きちゃったぁ」


 先ほどとは違う、猫なで声だ。律は笑みを浮かべつつ、申し訳なさげな声色で返した。


「お出迎えが遅くなってすみません。もっとはやく顔を出せればよかったんですが……」


「いいのいいの、律くんが悪いわけじゃないんだから~」


 律の登場で気をよくした二人に、店長が安どの息をつく。


「お席を用意したので、こちらに」


 店長の案内に従い、一緒に卓席へと向かう。そのあいだ、律の両どなりで、おネエさんたちは盛り上がっていた。


「そりゃあね、男を入れられないってのはわかるのよ?」


 モデル体型のおネエさんが律の腕に絡みつきながら愚痴を吐く。反対どなりの腕を握るふくよかおネエさんが続けた。


「うんうん。引き抜きとかね。警戒するのはわかるの!」


「でもわたしら見て警戒することないんじゃないの~」


「この格好の引き抜きがどこにいるのよって話よね~。まあ予約もしないで来ちゃったあたしらも悪いけどさ~」


 二人の話をうんうんとうなずきながら聞いていた律は、沈んだ声を出す。


「すみません。俺が連絡先もお渡ししていたらよかったですよね。名刺には書いてなかったでしょ?」


「違う違う。律くんのせいじゃないのよ~。ってあんたいつまで腕組んでんのよ! 指名したのはあたしよ!」


「いいじゃないの、減るもんじゃないし」


 広いフロアの角にある、ボックス席に入る。段差をのぼった高い位置にあり、フロア全体がよく見渡せた。


 ふくよかなオネエさんが辺りを見渡しながら座る。


「あら、今日は少ないのね」


 二律は腕を握られたまま、二人の間に腰を下ろした。


「はい。まだ開店したばかりですから」


「あらやだ。客少ないくせにあたしら待ちぼうけくらってたわけだ?」


 卓席のとなりで、バツの悪い顔をした店長が再び頭を下げる。「ごゆっくりどうぞ」と立ち去った。


「失礼しま~す」


 三人が座る正面に、ヘルプが入ってくる。


「レオです、よろしくお願いしま~す」


 よく律の卓席でヘルプにつく中堅ホストだ。一重だが八重歯のほうが目立ち、愛嬌あいきょうがある。あらかじめ用意されている焼酎の水割りセットに手をのばし、二人分のグラスを準備し始めた。


 レオを見ながら、細身のおネエさんが声高に言う。


「え~? 律くんのほうがイケメンじゃ~ん」


「ですよね~。そりゃナンバーワンにはかないませんって」


 話しながら焼酎のふたを開けるレオを見て、律は二人に確認する。


「このあとお仕事なんですよね? お酒は少なめにしときましょうか?」


「もう、気にしないで~。酒飲まないとろくにしゃべれないのよ。でもその気遣いが好き」


 律がレオを見てうなずくと、レオが慣れた手つきで水割りを作っていく。


 その間、律は二人にべたべたと触られていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ