宝物
「おい!大丈夫か!意識はあるか……生きてはいるな!」
リーヴァイは、チェルシーが手に入り、気持ちにゆとりができたので、ゆっくり朝日が昇るのを湯に浸かりつつ見ようと浴場に来てみれば、誰かが目の前に急に現れ、倒れ込むという現場に居合わせてしまった。
条件反射で抱き留めると、抱き留めた相手は心拍数が速く、グッタリしている。経験から、湯に入り過ぎたのだろうと考え、涼しい風も吹いているので、その場に寝かすことにした。
寝かした後。床が、石になっているのがリーヴァイは痛そうだと思い、脱衣所に行き、大きな厚目の布を持ってきた。その上にシャアルを乗せ、暫く状態を観察している。
「タイミング的にも状況的にもこの子はシャアルだよな。あのフードの中に、この様な宝石が隠されていたとは驚いた。なんともそそられる姿形だな。
この髪は、白かと思ったら銀色なのか……歳をとると色素が無くなり大抵の人間は白髪に変化するが、シャアルは白ではないな……月の光に反射してキラキラ煌めいているのは、やはり銀。
近付いて、手に取ってみても、まごう事なき銀髪。なんて、神秘的なのだろう……はじめて見る肌色も、艶めいており、手に触れると最高の手触りだ。この生き物はなんなんだ。何もかもが違い過ぎる。神の使いだと言われても信じてしまいそうだ」
リーヴァイは、シャアルの全身の水滴や汗を布で優しく拭い取りながら、シャアルを自分の手元に置いておくにはどうすれば良いか、この鳥を飛んで行かさず囲い込む事はできないかと、自然に考えていた。
空が、夜から朝に変わろうとしている頃、リーヴァイの耳には階下からの動きが感じられた。
「やばいな……浴場に人が来る。シャアルの呼吸も落ち着いてきたし、引き上げるか」
リーヴァイは、素早く服を着。壊れ物を扱う様に、シャアルを丁寧に側にあった布に包み抱き上げ、誰にも見つからぬ様に自身の部屋まで連れて行った。
そっとベッドに寝かせ。自身の着替えの中から、肌触りの良い生地の服をシャアルに着せ、リーヴァイも楽な服に着替えてシャアルの隣に寝転んだ。
「起きたら忙しくなりそうだ。君の瞳の色は何色なのかな。とても楽しみだよ。こんなにワクワクするのは、生まれてはじめてではないだろうか」
リーヴァイは、逞しい腕と全身でシャアルをぎゅっと囲い込み、シャアルの首筋に顔を添えてキスをしながら目を閉じた。
「何故だか………安心する。シャアルを抱き締めると、心が落ち着くのは何故だろう。生理現象の為に、やむを得ず女を抱く時でも、最低限の行為でことを成していた私が、他人の気配が有るところでは熟睡出来ない私が、人を抱いて安心など感じることがあるなど信じられない。
物心ついた頃から常に敵に命を狙われていた私が、他人を横に置いて安心感を得れるなどあり得ない事だ……不思議な生き物だな。シャアル……」
大きな獣が、愛しい唯一の番を抱き締め離さないという様に、リーヴァイはシャアルを抱いて、産まれてはじめて安堵し深い眠りについた。