少し過去のお話
「おい!ザラ無理だ。何処を探しても、聞いたとしても、チェルシーの薬草は無い」
怪しい雰囲気漂う縦長の塔の内部。一番天辺の部屋に、豪華な衣装を着た煌びやかな美丈夫が怒鳴り込んできた。
「リーヴァイ……無いでは無い。ちゃんと有るんだよ。実在してる、この中ではな」
「本だろう!そんな魔法書の中に示されている想像上の物を探せとは!私には無理だ」
「何処に行ったのだ」
「両隣三国は回って山にも入ったし、森にも行ったさ。おかげで野獣の肉には困らないって、王宮の料理長からお褒めの言葉を貰ったよ。だが、何処にも無いし知ってる奴も居なかった」
「その見た目を使って、女達には聞いたのか」
「聞いたさ。笑顔を振りまいて聴きまくったがやはり無い。私に女好きの噂が出回ったらどうする。今迄の苦労が水の泡だ。私は結婚する気も、子供を儲ける気もないのに煩い女狐や愚かな貴族の者達に付け入る隙を与えたくは無いんだ」
「だかな、この薬草が無ければ、お前は結婚を余儀なくされ子供も儲けなければならなくなるんだぞ。それに、可愛い甥っ子の命を救いたいだろ。
まだ、猶予はある。今見つけ出し皇太子に飲ませれば、絶対に完治するんだ。頼むもう少し探してくれないか」
「……解ってる。悪い……ザラに当たっても仕方なかったのに、今日は飲み過ぎたかもしれない」
「貴族達の悪巧みや、機嫌を取る為のへつらった態度や口先だけの会話に、悪酔いしたんだろう。大変だな王弟殿下も。そんなキラキラした服着て愛想振りまくのが仕事など、最悪だな」
「ああ、そうだな。だから私は明日から又、他国へ行ってくる。次は海を渡ってみるか」
「珍しい魔法書や道具が有ればすぐに送れよ。この国もだが、未だ魔法というものが殆ど解明されていないと言うのは許されない事だ。薬師と同じく身体を癒す魔法や光・水・地・風・闇を使った攻撃的魔法等有るのに、皆隠しているんだ。それは、この世界が変化や特別な力を異質な者として見るからだ。
リーヴァイも冒険者等してるからわかるだろうが、冒険者の中には結構魔法攻撃や癒しを使ってる者は、多いんだ。私は魔法と言うものを広め、皆が隠さず安心し研究発見できる組織を確立したいんだ」
「ザラは国の魔法使いに認定されているだろう。医療においても、攻撃力においても、申し分無いほど活躍しているではないか」
「いや、まだまだなんだ。もっともっと力を持っている者達が気安く名乗り出てきて、魔法というものが特別ではないと皆が持っているものだということを普通にしたいんだ」
「そうだな。そんな世の中に成れば良いよな。その前にザラもきちんと寝ろよ。目の下真っ黒だぞ。折角の美貌が台無しだな。嫁さん泣くぞ。じゃあ、そろそろ私は行くよ」
「幸運をリーヴァイ」
塔から出たリーヴァイは、疲れた顔を引き締め、旅支度を終えると愛馬に乗り、街の大きな宿で聞き込みをしようと考え、商人がよく泊まる宿へ向かった。
その宿で、探していた薬草と、リーヴァイが生涯ただ一人、愛する少年との運命の出逢いが待っていることなど、今のリーヴァイは知りもしない。