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オルゴニカとささやかな夢
美香と数一は同じサークルに所属もしていたが、そのサークルはオルゴニカとは特に関係のないサークルだった。だから、数一は美香に個人的にオルゴニカの演奏を聞かせてもらう、という関係だった。
オルゴニカにはどんな宗教的背景があるのかよく分からないが、オルゴニカに刻まれる旋律といえばなぜか讃美歌が定番だった。美香の方は宗教的なことには全く興味がなかったが、数一は讃美歌に強い思い入れがあった。そのせいもあってか、数一は美香のオルゴニカを聞くととても癒された気分になるのだった。
数一は夢見がちではあったが、特に野心家というわけではなく、美香がオルゴニカのプロの演奏家になって一緒に生計を立てて行ければよいとか漠然としたことを考えてそれを主張したが、美香はいつも反対した。そもそも誰でも簡単に演奏できるように工夫されているのがオルゴニカなのに、それのプロとして食べていけるはずなんてない、という至極まっとうな主張をした。
ところで数一は工学部の卒業研究として、「魔法の魔法瓶」というのを研究していて、そっちの方もかなりの熱の入れようだった。