プロローグ
オルゴニカが奏でる讃美歌の旋律はどこか切ない。
オルゴニカとは、あらかじめ曲が3Dプリンタで刻み込まれていて、一定のリズムで息を吹き込んだり吸い込んだりするだけで演奏できる、新しい楽器である。
オルゴールとハーモニカのアイディアが組み合わさった楽器でオルゴニカ、ということで3年前に一世を風靡したのだった。
吹くときと吸うときで音色が違うので、2つの違う音色が交互に繰り返されながら曲が演奏されるのだが、それがまたなんとも心地よい雰囲気を醸し出すのだ。
折原美香はどこにでもいるような女子大生だ。
地元ではそこそこの成績の高校生が受験する、6つの学部がある大学の経済学部の3年生で、就職のことが一番の心配事である。
美香はサークル活動もそれなりにがんばっていたが、留年するほどはまり込んだりはしなかった。
ここで、オルゴニカが一世を風靡したころ美香がちょうど受験生だった、ということは勘の良い人間が気付く事実である。
「オルゴニカってさあ、なんかアンタの名前に似てない?」
などと言われたのがきっかけかどうかは定かではないが、美香はオルゴニカを演奏するのがそれなりにうまかった。