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三節 「未来の壊し方」

これで四章も終わりです

待ち合わせの場所に向かっていると、すでにしおりが待っていた。

 いつも遅刻してくるので、こんなことは今までなかった。

 しおりは、イヤリングをして、髪をきれいに束ねているし、緑色の鮮やかなスカートも履いていた。

 明らかにいつもよりおしゃれしている。

 どうしたのだろう。

 

 僕が声をかけると、しおりはいつもは行かないおしゃれな店に行きたいと楽しそうにくっついてきた。

 しおりがくっついてくるのは今までに何度かあり、だいぶ慣れてきていて感覚的な拒否反応はしめさなくなっていた。

 慣れでそうなったのか、しおりだから大丈夫なのかそれはわからない。

 でも、僕にとってぞわっとしないのは、嬉しいことだった。

 あまり店にこだわらないしおりにしては珍しい。

 店内は、白と黒で統一されていて、少し高級感があった。

 クリスマスの装飾はされておらず、イベントでお客引き寄せる感じはなかった。

 ウェイターの人もすごくかっこよくて、気配りもできていた。

 こういう人をわざわざ選んで採用してるんだなと改めていいお店に来たと思えた。

 僕たちは緊張しながら、メニューの上にあるコーヒーを二つ頼んだ。

 こういう店は慣れていない。

 

「いきなり会って話がしたいなんて、どうしたの?」


 なんだか今日はしおりはいつもよりにこにこしている。

 

「いや、それは」


 僕はいきなり話し出していいものかと少し考えた。

 でも言わないときっと先にある何かにたどり着けない。

 僕はどんな意味があるかわからないけど、覚悟して話し始めた。


「しおり、この先もずっと友達でいてね」


「えっ、うん」


 しおりは戸惑っていた。


「もしかして、それが言いたかったこと?」


「そうだよ」


「友達ね。そうね、あはは」


 彼女は悲しそうな顔をしていた。


「それはそんな、たいした意味はなくて」


「ごめん、私用事思い出しちゃった。今から帰るね。また連絡する」


 僕は困らせてしまったかと何かを言わなきゃと思った。

 でも僕の話を聞き終わる前に、しおりは口を開いた。

 しおりはいつも僕の話をしっかり聞いてくれる。

 こんなに話に割って入ることは今までない。

 僕はどんな悪いことをしてしまったのだろう。

 そして、しおりは本当に帰って行ってしまった。


「今話したけど、これでよかったの?」


 僕は本当は追いかけたかったけど、追いかけないことと最初に彼女に言われていた。

 僕は彼女にどういう風になったか詳しく話した。

 彼女に話すことで、なんだか気持ちが楽になる自分がいた。

 いつの間にか彼女の存在が僕の中で大きくなっているのだろうか。


「なるほど。うん、大成功だよ」


「これで何が壊れたか説明してくれる?」


「しおりさんとの新しい関係性だよ。今後あなたは、しおりさんと恋人になる。その新しくできるはずの関係性を先に壊した」


「しおりと恋人関係に?まさかそんなことはないよ」


 僕はしおりのことを信頼している。きっと誰よりも信頼している。でもそれが恋愛感情だと意識したことはなかった。


「全体的に敏感なくせに、変なところは鈍感だなあ。いきなり大事な話があるって呼び出したら誰もが告白だと思うでしょ。だからしおりさんはいつもと違ったのよ」


「えっ、告白とかそんな意味があるの?だから僕が電話して、僕一人で行ったの?」


「そういうこと」

 

 やっと今回僕一人で行った意味が分かった。確かに今回の場合、彼女が間にはいるとおかしな話になる。

 彼女はさらに話を続ける。


「そもそも、しおりさんは、だいぶ前からあなたに恋心を抱いていたわよ」


「えっ、そうなの?なんで言ってくれないのさ」


「他人から人の恋心を聞くのはおかしいでしょ。かわいそうなしおりさん」


「そして、やっとわかったわ。あなたは何も信じていないのよ」


 彼女は突然はっきりとそう言った。


「どういうこと?」

 

 僕は今まで信じていたものを壊されていたはずだ。


「あなたは、相手をそのまま受け入れているだけ。相手のことを全く見ていない。考えてもいない。受け入れるだけで自分が楽になるだけ。そんなの優しさでも思いやりでもない。そんなの信じてるとは言えないよ」


 僕は何も信じていない。

 彼女の言葉が胸に刺さる。

 僕は一体これまで何をしてきたのだろう。

 人や物事を信じてきたつもりだった。

 でも、それは、信じてるとは言えないと言われた。

 ただの自己満足だった。

 頭の中がぐるぐると悪い考えが回り始める。

 そんな僕に、彼女は「大丈夫」と優しく言ってくれた。

お読み頂きありがとうございます


主人公は信じているようで、何も信じていなかったのです

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