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7 聖女?

「ははっ、普段は普通にエヴァって呼んでくれよ。そうでないと、俺もミリティアム様と呼ばなきゃいけないだろう? 俺も遠慮なくミリって呼ぶからさ」


 そう言って屈託なくニカリと笑うエヴァルドに、ミリティアムは素直に従うことにした。


「エヴァは、お父様や国を恨んでいないの?」


「まあ、腹は立つし、一発どころか思いっきりボコボコに殴ってやりたいとは思うけど、それよりも、国を何とかしないといけないって思うからさ。そんなくだらない私怨には、構っていられないって感じかな?」


「エヴァは強いのね……。物理的にも精神的にも」


 ミリティアムは、大口を開けヨダレを垂らした蛇の頭が、ドシャアンと落ちた時のことを思い出し、ブルっと震えた。


「なんだ寒いのか? これでも着てろよ」


 そう言ってエヴァルドは、ミリティアムが着ていた夜着の上に自分が着ていた上着を重ねてくれた。

 心なしか、お互いのことが少し分かってからは、エヴァルドの口調も優しくなったような気がしていた。


「ありがとう。とても暖かいわ」

「っ! ……あとさ、夜着でウロウロすんのは止めとけよな!」


 微笑んだミリティアムから、視線を明後日の方向に反らし、エヴァルドはお小言を言った。


「うん。分かった」


「……。で、俺が強いって話だったか? 俺なんかまだまだだぞ? グイードは剣技だってすごいし、今日だって、ミラがミリの姿に戻った時は、俺がすげえ驚いていたのに、アイツは冷静だったぞ? 精神力まで敵わないな」


「……。それは、驚いても仕方がないことだわ……」


 小汚い少年から、心の準備もなく女の姿に戻されて、恥ずかしかったことを思い出し、ミリティアムは赤くなってうつむいてしまった。


「おっ、おいっ。いや、その、なんだ……。男だと思っていたのに、実は女で驚いたっていうか……。ミリが可愛過ぎて驚いたっていうか……。ああ、何言ってるんだろうな、俺……」


 まさかの可愛いと言われ、ミリティアムは益々赤くなってしまった。

 言ったエヴァルドも、口元を手で押さえて照れている。


「ま、まあ。今日は疲れただろうから、ゆっくり休めよな。おやすみ、また明日!」


 そう言って、ミリティアムの頭をワシワシとなで、ニカリと悪戯好きな少年のように笑って、エヴァルドは去って行った。




「『おやすみ』や、『また明日』って言ってもらえるのって、……なんだか嬉しいものね……」

『キュウゥ――俺、ミリにいつも寝る前に言ってないか?』

「ピグちゃんはいつも勝手にモソモソ入って来て、いつの間にかお腹で寝ているじゃない」


 おっさんネズミは、暖かいとすぐに眠ってしまうのである。


「て、起きていたなら、声位かけてくれてもいいのに……」

『キュププ――俺、空気が読める、イケオジネズミだからな』



 ***



 翌日からは、具体的に今後の動きについて協議して行くことになった。


「昨日も話したけれど、うちは何も困ってはいないの。けれど、この大陸で好き勝手されるのは癪だし、あんな風にお願いされたらね~。てことで、当然、エヴァちゃんに力を貸すわよ~。」


「「それは有難い!」」


「男子二人、堅い堅い~。気楽にしてよ~。そしてね、昨日は報告だけで時間がいっぱいだったから、伝えなかったけど……」


 そう言ってエルキュールは、ミリティアムを見た。


「ミリちゃんはここに来る直前に、突然、おネズミちゃんとお喋りできるようになって、しかも、栗色だった髪が、銀色になっていたんでしょう~?」


「はい。最北の人族の村を出て、初日の夜に凍死しかけたのです。そういえば、忘れていたのですが、意識が朦朧とする中、不思議な女性の声を聴いていて……。意識が戻り目を覚ましたら、ピグと話せるようになっていました」


(髪の変化に気付いたのは、大分後だったけど)


 取りあえず、ピグをひと睨みしてみたが、全く気にしていない様子である。


「ミリちゃんは獣人族でありながら、獣化の特徴もなく、だからといって、魔人族のような魔力もない。そんな感じかしら~?」


「……はい」


「怯えないで大丈夫よ~。ここには貴女のことを、能無しと蔑む者はいないから。誰も貴女に暴力は振るわないし、もう監視だって外したんだもの。安心して~」


(エルキュール様は、私の境遇も、なんでここまで来たのかも知っているのね。初めから全てお見通しなんだわ)


「ありがとうございます。お陰様でリルムラントに来てからは、とても心が穏やかなのです。ご飯がすごく美味しくて、ついつい食べ過ぎていますよ」


 気丈に、わざとおどけて微笑むミリティアムを、エヴァルドが辛そうに見ていた。


「エヴァちゃんも、いきなり魔力が解放されて、心の準備も何も無く国を出て苦労したでしょうけれど、魔力があるってことは、誇れることだと私たち魔人族は考えているの。折角現れたその力を、ドンドン開花させちゃいましょ~。思う存分学ぶといいわ~」


 今度はエルキュールの言葉に、真剣な面持ちで頷いているエヴァルドを、ミリティアムが切なげに見つめていた。


「でね~、話を戻すとね、ミリちゃんは聖女だと思うの~。魔人族は魔法を使って、人族よりも正確に、歴史を魔法書物に記してきたのよ~」


「「魔法書物!?」」


 ミリティアムとグイードの声が重なる。


「人の記憶を魔法で記して行くから、編さんも簡単。火事に遭っても燃えることはないし~。少なくとも、三百年前から現在まではほぼ正確に、それ以前のものは、不確実な伝承も混ざっているけれど、他国よりは正確性の高い歴史書が残っているのよ~」


「それは素晴らしいですね」


 聞き役に徹していたグイードが食いついた。

 先程の反応からも、こちらの武人は歴史に造詣が深いのかもしれない。




「千年前に、ニューグレン大陸最後の聖女が亡くなったって記録があるの。聖女は獣人族の子として産まれたそうだけど、獣化がなく、魔力もなく、代わりに聖女の特別な力を持っていたらしいわ~。その聖女の力に目覚めた時に、生まれ持った髪色から銀色の髪に変わったんですって。ふふっ。ミリちゃんと同じね~」


 エルキュールが意味深に、艶っぽく口元に弧を浮かべた――

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