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6 人族の現状

 一方、エヴァルドとグイードは、心の中のパニック状態を懸命に咀嚼し、消化しようとしていた。


 なんせ、ミラが少年ではなく、実は儚く美しい少女で、しかも獣人族の王女であったのだ。

 それに、何故かエルキュールとミリティアムは、『オフサネズミ』と会話が成立している。


 グイードは、実年齢も精神年齢も大人であるから、眉ひとつ動かさずに状況把握に徹しているが、エヴァルドは鼓動が乱れ、動揺を抑えようにも、一向に抑えることが出来そうになかった。



「……やばい。可愛い……」



 耳まで赤くなってしまっているエヴァルドを、グイードは横目で観察していた。


(フム。様々な驚きが、エヴァルド様を襲っているのだな。……しかし、これは……。免疫がないから、症状は重くなるかもしれないな……)


 驚愕している理由がそこかとは思ったが、グイードは初心な反応を隠し切れない、まだまだ大人になり切れていないエヴァルドを、改めて全方位型で支えて行こうと心に誓った。



 ***



「さあて、これでみんな本来の立場で、本音でお話し出来るわね~。まずは、人族の国、ゲルドリア王国第二王子エヴァルド・エル・ゲルドリア―――」


「お初にお目にかかります、エルキュール様。ご挨拶が遅れましたこと、お詫び申し上げます。脇に控えておりますのは、護衛で近衛騎士団第三部隊隊長のグイード・イーナスにございます。この度、入国の許可を与えていただき、ありがたき幸せにございます」


 グイードとともに、再び頭を下げるエヴァルドを、止めて止めてとエルキュールが手で制した。


「私、堅苦しいのは好きじゃないのよ~。私達は仲良くしたいから、こうして会ってお話をしているのよ~? だから、ここではみんなお友達として、気楽にお喋りしましょうよ? ミリちゃんもよ? 二人に怖い顔をしないでほしいな~」


 エルキュールに指摘され、ミリティアムはエヴァルドとグイードに対し、険しい視線を送っていたことに気が付いた。


(人族の王子といっても、この二人は怪しい少年だった私を助けてくれて、一緒にリルムラントまで来てくれた。旅の途中も、沢山の人族に親切にしてもらったわ。何も知らないのに人族だからって、勝手に憎しみを抱くのは、お門違いもいいところだったわ……)



「エルキュール様、エヴァルド様、グイードさん。ごめんなさい。人族だ魔人族だと、良く知りもしないで、勝手に線引きをしていました。私は、この世界を自分の眼でしっかりと見て、もっとお互いを知って行きたいと考えています」


「そうよね、ミリちゃん。この場に三国の王族が集まったということ自体、千年起きなかった奇跡が起きたみたいなものなのよ~。この機会を大切に、ゆっくりお互いのことを、分かり合って行きましょうね~」



 ***



 それから、それぞれの国の現状を、簡単に報告しあった――



 魔人族のリルムラント国は、自国で多くの食材を栽培・養殖し、産業も順調に発達。

 新しい魔道具も次々に制作され、国民の生活水準は相当高いものだった。


 当然、衣食住に困ること等なく、この三百年平和そのものであったらしい。

 まれに生まれる獣人族も、リルムラントで仕事を得て、魔人族と同等の権利もあり、何の問題もなく生活していた。




 獣人族の国グリムンドとして、今も被害が多い人族が犯す獣人攫いの現状と、人族の国ゲルドリア王国内での獣人族の扱いに対しての懸念を、ミリティアムは伝えた。


 が、ミリティアムが一番驚いたのは、そのゲルドリア王国の内情であった……。




 人口が増え過ぎ、慢性的に食料が不足していること。

 しかし、領地貴族は税率を上げるばかりで、自然に左右される農業や漁業を生業とするものが、急激に減っていること。

 物価は上がり、職人達は原材料を仕入れることも出来なくなりつつあり、産業も衰退する一方であること。


 宰相や大臣たちは、国王ルドルフに甘言を囁き傀儡とし、自分達の利益となる政策のみを打ち出すこと。

 大きな街には、次々と貧民街が形成され始めているが、社会保障費も公衆衛生費も予算は縮小されるばかりであること。


 王太子ジーモンは女遊びにばかり興じ、公務を行う気は皆無で、次の王に変わっても改革は無理であろうこと。



 ――エヴァルドは一通り説明し終えた後、苦々しい顔で続けた――


「国の歪みを理解し始め、少しずつ改革しようと動き始めたその矢先、突然魔力が解放して……魔人族であることが判明しました」


 人族の国で魔人族が生まれれば、迫害の対象となる。

 それが王子であれば、尚更大きな問題となったのだろう。


「表向きは緘口令が敷かれ、成人に向け始めていた王子としての公務もそのまま続けていましたが……。突然グイードに、私の暗殺命令が下されました」

「そんな……」

「嫌な話ねぇ~」


 グイードもその時のことを思い出したのか、握った拳に力が入っている。


「人族として15年生きてきたのに、次の日には、魔人族だったから殺されかけるなんて……。私の本質は何も変わっていないのに、やはりこの国はおかしいと思いました」


 この場にいる誰もが、エヴァルドに共感していた。


「だからリルムラントに来たました……。魔人族の魔力が王国を変える力になるのなら、ここで学ばせて欲しいのです。ゲルドリア王国を改革したい。ゲルドリアの所為で分断された、このニューグレン大陸の状況を変えたいのです」


 人族の国の話は、ニューグレン大陸全土を変えることになる程のものだった。


「魔人族も獣人族も同じ人の子です。国は分かれてしまいましたが、これからは互いに尊重し合い、後世のためにも、国交を結びたいと思っています」


 胸に秘めた思いの丈を吐き出したエヴァルドは、瞳に強い意志を宿し、エルキュールとミリティアムを見つめ、片膝をつき二人に頭を下げた。


「エルキュール様、ミリティアム王女。どうか私にお力添え下さい。これ以上人族が、大陸を蹂躙するような事態を止めたいのです。魔人族と獣人族の皆様のご協力をいただきたく、ここにお願い申し上げます」



 ***



 その日は遅い時間となったので、リルムラント城の客室を与えられ、ゆっくり旅の疲れを癒すことになった。

 ミリティアムはフカフカの布団にもぐりながら、昼間のエヴァルドの姿を思い返していた。


 獣人族を奴隷にする、悪い者ばかりが暮らす国ゲルドリア王国――ずっとそう思っていた。

 しかし、リルムラントへの旅の途中で出会った人族の日々の営みの様子は、なんら獣人族と変わらなかった。


 旅は慣れないことばかりで大変ではあったが、ミリティアムのことを罵り、空気のようにいない者としての扱いを受けたグリムンド国より、生きやすいとさえ感じた。


 エヴァルドもグイードも、ミリティアムが獣人族の王女と分かっても、何一つ態度を変えなかった。


 妬むような気持ちがあったリルムラント国の魔人族も、実際訪れてみれば、エルキュールは快く受け入れてくれ、客室まで与えてくれたりと、待遇良く扱ってくれる。


(すぐに眠れそうにないわね……)


 プープーと、イビキをかいて眠るピグをそっとお腹に入れ、ミリティアムは夜の客室棟を少し歩いてみることにした。



 ***



「エヴァルド様……」


 同じように眠れなかったのか、向かいの部屋からエヴァルドが出できたところだった。

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