22 東国リャンシャンへ
――すっかり打ち解けて、七人と二匹は食卓を囲んでいた――
「もう、やだ~。さっきのは本当にお芝居だからね~」
『ギュウ――俺、今度こそ丸焼きにされるかと思った』
『ピピピ――エルキュールとハゲ嫌いでちゅ』
「ピグちゃんもピピちゃんも、ノリノリで演技していたわよ?」
「エヴァ様とグイードさんにもぉ、エルキュール様の迫真の演技を、お見せしたかったでぇす☆」
「俺もセリフは少なくても、良い動きをしたっすよ」
「しかし、ミリティアム様の情をいだかせる演技も、なかなかに素晴らしかったですよ」
「ライル次官、ありがとうございます」
「ミリの演技か……。見たかったな……」
エヴァルドの呟きは、やはりオカングイードにしか聞こえない。
「エヴァ様。私、メインを食べ過ぎたようです。私の分の大陸鳥の卵のプディングを食べていただけませんか?」
「ああ、もらおう」
夕食後、ゆっくりお茶を飲みながら、官僚のライルの話を聞くことにした。
***
「確かに仰るとおりで、敵ははっきりしておりますが、味方は分かりづらいかと……。が、私としては、意外とすんなり敵味方の判断は出来ると感じています」
「詳しく説明してくれ」
「はい。議会の議事録は、明日にでも確認できますが、体制側にずっと反対し続けることが出来た、気骨ある御仁は殆んどいないでしょう」
「そうだろうな……」
そのような者たちは、力を削がれて動けなくなっている。
「時間はかかりますが、ある程度の地位にあるのに、全く悪事に手を染めていない者を、探していくのがよろしいかと存じます。その様な人物は、9割9分味方になると考えていいでしょう。」
「ほう」
ライルが続ける。
「リルムラント国の諜報部員は優秀ですね。情報のとおり、王族、宰相、全ての大臣、領地貴族の6割と上級官僚の半数は、体制側であるのは間違いないでしょう」
「やはりそうなのか……」
王国内部の者に断言され、エヴァルドの表情が曇る。
「はい。そうすると、軍と残り4割の領地貴族と、半数の上級官僚が敵味方不明となりますが、その全員に、体制側からの上手い話は何度も流れているはずです」
「ありえるわあ~」
醜いモノでも見るように、綺麗な眉をひそめるエルキュール。
「手を染めた証拠が出てこない者は、軍人や貴族としての矜持が勝る、高潔な人物であり、職務に対しての意識が高く、心から国に対しての忠誠を誓っている官僚。と、言えるのではないでしょうか?」
「確かにそうでしょうな」
生家のイーナス家もその通りであると、納得するグイード。
「国の現状を憂い、何とかしたいが体制側の勢力が大きく、私と同じように、燻っている者も多いはずです。勿論今後、個々の見極めは必要ですが、体制側の悪事の証拠を集めて行けば、自ずと味方もはっきりして行くことと存じます」
「腕がなるっすね」
諜報として活躍の場がありそうで、ウズウズするバーゲン。
「こちらの動きを、気取られるまでの勝負となりますが……」
「大丈夫ですよぉ☆」
長年王都に潜入し、気取られない自信があるディアナ。
万が一、強硬手段に打って出ることになっても、『体制側の人間は仕事を増やしはしても、仕事はせず、要らない者ばかりなので、居なくなっても問題はない』と、バッサリライルが切った。
だが、それでもエヴァルドは、ギリギリまで入念に、証拠集めをして行きたいと言った。
「申し訳ございません。気が急いてしまいました。革命後を考えると、交易国である東国リャンシャンからの支援が欲しいところですね」
「流石に行ったことがないから、転移できないわね~。帰りは転移で一瞬なんだけれど~」
「行きの船旅二週間、交渉の時間を考えると、こちらの想定している、気取られずに潜入出来る一ヶ月間に、ギリギリくらいでしょう」
どうしても強行スケジュールになりそうだ。
「リャンシャンが体制側についても、こちらが転移で戻れるのだから、革命の情報は後になるだろう。だが、念のため、きっちり三週間後には、いつでも動けるように、証拠を押さえて行かなければならないな」
***
エヴァルドは当事者として、リャンシャン王に会わなくてはならないが、転移魔法要因に――
「王城内はライルちゃんが居てくれて、調べる意味がもうないから、私もリャンシャンに行く~」
と、エルキュールが名乗りをあげた。
「エルキュール様のお仕着せ姿、結構良かったんですけどねぇ。残念☆」
「王族の御二方が行かれるのであれば、やはりミリティアム様も、リャンシャンに行かれた方が良いのではないでしょうか?」
(ナイス、グイード!)
「ミリティアム様も清掃員など、もうお辞めになって下さい」
グイードの主へのアシストと、素性を知ったライルにもそう言われ、ミリティアムとピグ、ピピも、東国リャンシャンに向かうことになった。
騎士団と軍は、グイードとゲイルが其々取り込みにかかるが、清廉な元帥の影響が大きく、やはり白い者が多そうだ。
騎士団と軍の大部分は、早い内に押さえて行くことにした。
官僚も要職についている者で、味方となりえそうな人物は、ライルが取り込んでいく。
領地貴族の調査は、イーナス家と転移しまくるハーゲンが担当。
王都ゼクト内の調査、及び国内の諜報部員との調整をディアナが続ける。
――それぞれが三週間後を目途に、証拠集め兼味方集めに奔走していく――