表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/44

21 落ちたライル

 ――四日後――


 前日のディアナの報告で、生真面目なライルは、毎日同じ時刻に同じルートで帰宅することが分かった。

 『木漏れ日屋』のある商店街を抜け、滅多に人が通らぬ住宅地の通りにて、作戦は決行された。



「無礼者。私のドレスが汚れてしまったではないの!」

「も、申し訳ございません」


 ギリりと美しい顔を歪ませ、ミリティアムを睨みつける、貴族の奥方様風エルキュール。

 後ろには、御付の使用人風ハーゲンと、ディアナが控えている。


「ハーゲン、その小汚いネズミを今すぐ処分してちょうだい!」

「な、何卒ご容赦くださいませ……」

「うるさいわね。平民ごときが口答えするんじゃないわよ!」


 ――パシーン――


 縋りつくミリティアムに、エルキュールが平手打ちをする。

 勿論、聖女の保護壁で、完璧に防御している。


「あぁ。流石奥様。見事な平手打ちですわぁ☆」



 ――想定通り、その現場はライルの目に入った――


「お話の途中失礼します。ご婦人」

「なあに、あなたは?」


「私は法務省で次官をしております、ライルと申します。ドレスが汚れたとのことですが、私の目には完璧なままの綺麗な装いに見えます。ご婦人の美しさには、何一つそん色はございません。」


 やはり、動物好きのライルには見過ごせなかったらしい。


「まあ、そうかしら。でもねぇ……、汚らしい毛が付いたかもしれないわ~。やっぱりあんな生き物、処分するべきじゃないかしら?」


「左様ですか。しかし、いくら相手が平民といえど、残念ながら他者の所有物に手を出されてしまっては、ご婦人が器物損壊の罪に問われてしまう可能性がございます。こんな平民風情のために、ご婦人のような美しいお方が罪を負うことなど、あってはなりません」


 お堅そうに見えるライルだが、必要とあらばご婦人専用の弁も立つ。


「平気ですわよ。夫がそんなもの、もみ消してしまいますわ~」

「……」

「貴方だって、この場は見なかったことにするといいわよ~。さあ、ハーゲン。その汚い娘とネズミを取り押さえなさい!」


「かしこまりました。奥様」

「ああ、お願いです。お慈悲を……」

「……」


 ハーゲンがワザと手荒に、ミリティアムとピグ、ピピを捕まえようとする。

 とことんミリティアムの扱いが悪い男ばかりだ……。



(官僚になってもうすぐ二十年。妻も娶らずひたすら仕事に打ち込み、次官にまでなれたというのに。上手く立ち回ってきたが、こんなにもあっさりと、数日前に出会った娘のために、水泡に帰すのか)


 だが、どう転んでもこの国共々、官僚の道に先はなかったのだ。

 ライルの中で、何かが変わろうとしていた。


「潮時か……」


 腹をくくって、ライルはこの貴族たちに歯向かおうと決めたのだ。



「手を離しなさい。残念ですがこれ以上は、その娘に暴行を加えていると判断します。また、その娘の所有物である、『オフサネズミ』を殺すことなど、絶対にさせません」


「ライルと言ったわね。夫は次官など、すぐに潰せる立場にあるのよ?」

「どなたの奥方様か存じませんが、構いません。どうぞお話しください」


「降格は間違いないでしょうね。まあ、それだけで済めばいいけど~」

「ですから構いません」


「「……」」


 顔を見合わせ、演者四人プラス二匹が、うんうんと頷く。


 ――パチパチパチパチ――


「は?」


「ご・う・か・く。ハーゲン。ライルちゃんを宜しく~。誰かに見つかる前に『木漏れ日屋』に戻るわよ~」


「自分だけ、女性と触れ合いながらの転移っすか」

「エルキュール様、よろしくでぇす☆」


「ちょっと! 貴方たちは何者なのです!?」

「ライルさん心配しないで下さい。別の場所できちんとご説明しますから」


「離しなさい! これは略取誘拐の罪に問われますよ!?」

「あーもう。仕方ないっすねー」


 ハーゲンが逃げ出そうとするライルに足払いをし、体勢を崩したライルを抱きかかえ、無理やり転移した。



 ***



「ライルさん、突然で驚きましたよね? ごめんなさい」

「ガッツリ男を抱きかかえたっす。抵抗なんてしないで欲しいっす……」


「あらまあ。ライルちゃん、お顔が怖いわよ~」

「そんなことはどうでも良いので、早くご説明いただけますか?」


 ぶすくれる、ハーゲンとライルであった。




 そこにエヴァルドとグイードが帰ってきた。


「皆様の方が先に戻られていましたね」

「おかえりなさぁーい☆」


「おっ、早いな。その様子だと成功したんだな。って、なんか空気が悪いな!?」

「なんかぁ。拉致されたって、怒っちゃってまぁす☆」


「エヴァルド様! そちらはグイード様!? まさかお二人がご存命とは!!」


 ぶすっとしていたライルが目を見開き、グイグイとエヴァルドに近寄る。


「あ、ああ。そなたがライル次官だな。説明もなしに連れて来たみたいで、悪かったな」


「うっうっ。折角エヴァルド様がご草案くださっていた、国民福祉の向上に関する法も、人頭税廃止に関する法も、会計適正化指針も……。うぅっ……。全て潰えてしましました。ヒック。力になれず申し訳ございません。ヒグっ」


 エヴァルドの足元で土下座をキメながら、ライルが号泣し始めた。

 今まで抑圧されていたものが、一気に流れ出しているらしい。



 エグエグ言いながら、ライルはエヴァルドに忠誠を誓い、革命の仲間にライルが加わった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ