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18 潜入 ゲルドリア王国

 ピグ失踪事件からほどなくして、ゲルドリア王国へ潜入する日取りが決まった。


 革命を起こす準備から、現体制を廃した後、国民の生活を安定させるまでの長期戦となる。


 革命までの潜入メンバーは、エルキュール、ミリティアム、エヴァルド、グイード、ハーゲン、そして、ゲルドリア王国王都ゼクトの諜報担当ディアナとなった。



「はいはぁーい。王都ゼクト担当のディアナと申しまぁす。ハーゲンさんみたいに魔法が得意な訳ではないんですけどぉ、この愛されキャラで、ガッツリ人の懐に入り込むのが得意で、ゼクトの責任者まで上り詰めましたぁ。よろしくお願いしまぁーす☆」


「ディアナはうちの諜報の紅一点なの~。転移が出来ないから、基本的にずっとゼクトにいてもらっているけれど、それがもう八年にもなるのよ~。あれでいい歳こいてるから、騙されないでね~」


「エルキュール様ぁ。酷いですぅ。私は永遠の16歳なんですぅー」

「嫌ぁ~ね~。経験豊富で頼りになるって紹介したのよ~」


 ディアナはパッと見、確かに10代の女の子だ。

 フリフリの服も可愛いし、良く似合っている。


 庇護欲を掻き立てるタイプというのは、彼女のような人を指すのではないかと、ミリティアムは思っていたら、隣からエヴァルドのつぶやきが聞こえてきた。


「リルムラントの諜報って、キャラが濃いな……」



 ディアナの情報によると、王族、宰相、全大臣、半数以上の領地貴族と、上級官僚が現体制側であることが確定しているらしい。


 力技でねじ伏せるなら簡単だが、これ以上のゲルドリア王国の混乱を避けるためにも、血を流さない革命をエヴァルドは望んでいた。


 抱える問題の一つは、反体制側で、同志となりえる者が誰であるかがはっきり分かっていないことだった。


 体制側に少しでも苦言を呈そうものなら、領地貴族ならこじつけで領地を縮小されたり、官僚なら解雇されたりして、抑圧され続けたため、表だって行動に出る者がいなくなっていた。


 公務に励んでいた第二王子エヴァルドの、突然の訃報が公表されたことも大きかった。


 改革を推し進めたから殺されたのではないか。と、噂が立ち、二の舞になりたくないと考える者、体制側に寝返る者、第二王子という希望を失い心が折れた者もいた。


 今では王国に異を唱える者はなく、反体制側の人間はすっかりなりをひそめている。


 リルムラント国の優れた諜報部隊でも、誰が反体制側になり得るかを見極めることが出来なかった。



「まさか味方ゼロってことは無いよな……。革命が成功後したあかつきには、一刻も早く国内を安定させたい……。一人でも多くの仲間が欲しいが……」


「エヴァ様。我がイーナス家は、どの様な状況になろうともエヴァ様の味方です」

「バックにはリルムラント国がついているわよ~」


「弱気になるなんてエヴァ様らしくないっす」

「微力ながらお供しまぁす☆」


『キュウ――俺、お前の力になってやってもいいぞ』

『ピピピ――わたしも力になるでちゅ』


「動くことも出来ずに、燻っている人は絶対いるわ。エヴァが行って見つけてあげないと」


「だよな。ここにいても何も変わらないし、ゲルドリアに行ってみなきゃ分かんないしな! ありがとう、みんな!」



 以前、エルキュールが言っていたとおり、ゲルドリアの王都ゼクトには転移阻害の結界が張ってあるため、最寄りの町から馬車を使って潜入することになった――



 ***



「あんたまで女装する必要はないわよね~。ハーゲン」

「俺だけ仲間外れは嫌だったっす……」


 ゲルドリア王国人のエヴァルドとグイードは、正体を隠すため変装し、馬車に乗り込もうとしているのだが、何とも言えない微妙な空気になっていた――


 無害な一行を装うため、女装することにしたのだが、女性のミリティアムとディアナはそのままでなんら問題ない。

 エルキュールも普段より薄めの化粧がよく似合う、普通に色気のある美女が増えただけだ。

 エヴァルドはそもそも中世的な顔立ちだから、女の姿も様になっていた。美しい。


 グイードは……。可哀想だが、王都では顔見知りもいるであろうから……。仕方がない……。

 ゴツゴツした彫りの深い顔立ちの、いかつい大女に仕上がった。


 エルキュールの魔法でも人体改造までは出来ない。

 知り合いにばれないことを願うばかりだ……。



「だからって一緒に女装する必要はないでしょ~う! 醜いから元の姿にお戻り~っ!!」


 怒られているハーゲンはというと、頭にピグとピピを乗せ帽子をかぶり、2本の尻尾を髪の毛代わりにしている。

 化粧はいつものエルキュールを参考にしたようで、バッチリ濃い目だ。


 グイードには同情する余地があるが、こちらは何としても阻止すべきだ。



 ――皆に説得され、泣く泣く女装を断念したハーゲンが御者となり、馬車に乗った女性? 五名は王都ゼクトに向かった。


 一名は体調が良くないていにして、あまり顔が見えないように、ギュウギュウと端に押し込められ、その大きな身体を可哀想なくらい縮こまらせていた……。



 ***



「隣町からの乗合馬車ねぇ。御者と乗客女性五人っと。あれ? 大柄なお姉さん、具合でも悪いのかい? 大丈夫かな?」


「馬車酔いしちゃったみたいなんですぅ。でも、もう着くから大丈夫ですってー☆」


 ゼクトに入る前に、門で兵に捕まってはいられない。


 ごまかしてサラッと馬車を発車させようとするが、声をかけて来た兵の上官らしい人物が、後ろからやってきた。



「どうした? 問題でもあったか?」

「あっ、副隊長。ご婦人が馬車酔いしたみたいでして……」


「詰所に薬がある。水と合わせてとって来い」

「はいっ」


「いえいえー。ご迷惑はかけられませんよぉ。本当に大丈夫になったみたいなんでー☆」


 グイードがプルプルと震えている。

 チラリと髪の隙間から見える顔色が、本当に青ざめている感じもする。


「なに。国民の守ることが我々の務めです。ああ、酷い。震えているではないですか。さあ、ご婦人ゆっくりと仰向けに、あ……。――」


 グイードを介抱しようと、側に寄って来た副隊長と呼ばれた男とグイードの目線が合う。


「兄上……」

「……。久しぶりだな、ゲイル……」


「ご無事のお姿……。父上も喜びましょう……」

「……。そうか……」


 久しぶりの感動の兄弟の再会は、兄が女装姿(ちょっぴり気持ち悪い)であった。



 グイードの名誉は傷付いたが、何はともあれ、一行は無事ゼクトへの潜入を果たした。

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