16 お騒がせピグ
――ピグが帰って来ない――
リルムラント国では、一人で勝手に行動していたピグだが、いつも夕食前には帰って来ていた。
(あんな小さな体、暗くなったら益々見えづらくて、きっと踏み潰されてしまうわ……)
居ても立っても居られなくなったミリティアムは、ピグを探しに行くことにした。
「ごめんなさい。ピグが行方不明になりました。私、ピグを探しに行ってきます。皆さんは先に夕食を食べていてください!」
そう報告するだけして、バタバタとミリティアムは城を出て行った。
「待てよっ。俺も探すって……って、少しは聞けよな……」
「エヴァ様。我々も探しましょう」
人族のグリムンド国出身の二人が動く。
「ハーゲン。私たちも行くわよ~」
「はいっす」
続けて、魔人族のリルムラント国出身の二人も動いた。
『オフサネズミ』の捜索に二国の王族が動き出す。
まったくもって、お騒がせピグである。
***
――時は少しさかのぼる――ピグはメスの『オフサネズミ』と一緒にいた――
『君と出会ってから、来られる日には毎日君に会いに来ている。まだ俺のことを受け入れる気にはならないか?』
『だって、あなたはもう四歳じゃない。私だって、もっと若い男が良いんだもん』
『確かに、俺はおっさんで間違いない。でもそれを言ったら君だって、二歳で充分行き遅れじゃないか』
『ひっ酷いわ! 私は今が女盛りよ! あなたも小娘より、君のような大人の女が良いって言ってたじゃない!!』
『い、いや。若い子にも熟女にも、それぞれ良いところがあるなとはおも――』
『いやぁぁ! けがらわしい! もう私に会いに来ないでよ! 馬鹿ぁー!!』
『あ、待て、待ってくれ。今のは俺が悪かった!』
慌ててピグが、メスのオフサネズミを追いかける。
口は禍の元。
兎に角、余計なことばかりを言うおっさんネズミである。
「うわっ! オフサネズミか!? あぶねぇなー。踏ん付けちまいそうになったじゃねーか!」
「やあぁぁ! ネズミー! 私苦手なのよぉーー!」
リルムラント国を舞台に、『オフサネズミ』の追いかけっこが始まった。
***
「ああ、ピグちゃん……。どこに行ったの……。まさか、城門の外に……」
ピグなら必ず、ご飯の時間には帰って来るはず。
それが出来ないような状況に陥ったのではないかと、ミリティアムの焦りは増すばかり。
カチンコチンに凍ったピグの姿を想像して、ミリティアムはグッと息が詰まるようだった。
(未来を見る力は、エルキュール様に止められているけれど……。今、使わずに後悔したくはないわ……)
ミリティアムは意識を集中し、ピグの少し先の未来を見たいと願った――
(ああ、ピグちゃんが見える……。リルムラントの街中だわ。これなら心配なさそうね。って! えぇ!? ブチ模様のオフサネズミと一緒にいるわ。……何だか仲がよさそうね……。ピグちゃんはこれからも……大丈夫って……こと……か…し…ら……)
意識が遠のき、ミリティアムの身体が固い石畳の地面に向かって、吸い込まれるように倒れて行く。
「ミリーーっ!」
倒れこんだミリティアムを、エヴァルドが間一髪で支える。
「しっかりしろ、ミリ!」
「エヴァ……」
「お前っ! 何をしたんだ!? 髪の色がっ!!」
「……ごめん……」
「ミリーーーーっ!!」
――ミリティアムは、エヴァルドに抱えられながら気を失った――
***
「あれ……? お布団の中……?」
ミリティアムは、エルキュールに与えられている客室のベッドで目が覚めた。
「だめよ~、ミリちゃん。先読みの力を使ったんでしょ~?」
「エルキュール様……。ごめんなさい」
ベッドの脇に腰掛け、エルキュールがミリティアムの手を握ってくれていた。
「仕方のない子ね。ほら、あなたもミリちゃんに謝りなさい~」
『キュイーン――俺、心配かけた……ごめん』
「ピグちゃん。無事でよかった……」
『ピピピピ――わたしからも謝る。彼氏が迷惑かけてごめんでちゅ』
「まあ、未来で見えた『オフサネズミ』ちゃんね。美人さんだわ。ブチ模様も可愛い」
『キュウキュウ――俺の女。ツンとしてるが、女神の様な美人。口説いていて遅くなった』
余計なことを言って怒らせ、逃げられまくった件は秘密にするピグである。
『ピピ――可愛いだって。あたちミリ好き』
「もしかして、リルムラント国に来ると居なくなっていたのは、この子に会いに行っていたの?」
『キュウン――俺、情熱的な男』
確かに、行動力だけは素晴らしいものである。
「まあまあ、沢山聞きたいことも、話したいこともあるでしょうが、取り敢えず先に、死ぬ程心配している奴の所に顔を出してほしいわ~。ミリは目覚めたか~。ミリは大丈夫なのか~。って、ずっとうるさくて仕方がないのよ~」
(そうだわ。倒れた時に、エヴァが居てくれたんだわ)
「はい。エルキュール様、ご迷惑をおかけして、本当にすみませんでした。ありがとうございました。……では、少し出てきますね」