15 聖女の力
――ムーンストーンの指輪を得、ミリティアムは再び、聖女の力を使うための訓練を始めた――
聖女の力は、体内で力を巡らせ、自身に対して作用する保護壁と身体能力強化があり、こちらは身体能力強化を重点的に、引き続き訓練している。
主に、腕力と脚力の強化を行っていったが、一部に特化した獣人族よりも、全身を強化できるミリティアムの方がはるかに優れていた。
本当に、ダイガンよりも強くなってしまったかもしれない……。
ミリティアムが『こんなバカ力ではお嫁の貰い手がいない』と、嘆いていたら――
「私は全然気にならないわよ~。ミリちゃんより私の方が強いし~」
「売れ残ったら俺が貰ってやるよ。心配すんな」
と、エルキュールとエヴァルドに慰められた。
新たに、体外に力を放出し、保護壁と身体能力強化を自分以外に付与することと、他者の外傷を治す治癒、未来を見ることが出来る先読みの力があると、エルキュールに教えてもらった。
リルムラント国に保管されている、魔法書物に記されていた聖女の力については以上だった。
はっきりと効果が表れやすい力のみが記されているのは、当然のことだろう。
それ以外の聖女の力に関しては、今も謎とされていた。
魔人族のように転移したり火や風を操ったり出来ないと知り、ミリティアムは少し落ち込んだが、これまたエルキュールとエヴァルドに――
「聖女の治癒は、魔人族の治癒魔法の比ではない位効果抜群なのよ~」
「俺だって火と風と水と土の魔法しか使えてないぞ。それに、俺が怪我しても、ミリが居てくれたら安心だ」
と言われ、この能力異常に高い系二人に言われても、余計悲しくなりそうだとは思ったが、気を取り直して他者への付与と治癒の訓練に励んだ。
平和なリルムラント国でも怪我をしてしまう人はいるので、医師が忙しい時には時々治癒の力を使って、少しでもリルムラント国に恩返しをしようとしていた。
それでも、お世話になりっぱなしが申し訳なくて、ミリティアムはエルキュールに聞いてみた――
「エルキュール様。私はリルムラント国のお役に立てていないのに、こんなに良くしていただいてばかりでは心苦しいです。居候ではなく、少しでもお仕事がしたいです。何か私に出来るお仕事はないのでしょうか?」
「まっ、ミリちゃんったら水臭いこと。私はね、ただ貴女に笑って過ごして欲しいのよ。仕事がしたいのなら、勿論してもらってもいいけれど、今は聖女の力の訓練に励んでほしいわ~」
「はい。聖女の訓練はちゃんと、今後も頑張ります。でも……」
「あのね、聖女であるなしに、ミリちゃんがここに居たければ、ずっと居て欲しいと思っているの。貴女が聖女ではない、ただのミリちゃんでもよ~」
エルキュールの言葉はありがたい。
でも、だからこそ、ミリティアムは甘えっぱなしではいられなかった。
「エルキュール様、お願いします。お皿洗いでもお洗濯でも、お掃除でも何でもしますから!」
「も~、頑固なのね~。それなら魔石に、治癒の力を籠めてくれないかしら?」
「治癒の力を籠める?」
「単純に、魔石に治癒の力を流すのよ。その魔石を持っていれば、治癒魔法が使えない者でも、魔力を流すだけで、治癒魔法が発動するようになるのよ~」
「それは便利ですね!」
「治癒魔石を1日5個作成。どうかしら? 魔力が豊富でないと出来ないことだから、充分こちらとしてはありがたい話だわ~」
「分かりました! 是非やらせて下さい!」
ソワソワして嬉しそうにし、直ぐにでも治癒魔石の作成に取り掛かりそうになっているミリティアムを見て、エルキュールは柔らかく目を細めていた。
***
――グリムンド国から戻って三ヶ月――
治癒することにも自信がつき、聖女印の治癒魔石は、リルムラント国内をはじめ、ハーゲン率いる諜報部隊の隊員にも広く渡って行った。
「聖女様のお守りだーって、みんな喜んでいたっす。みんなミリ様に感謝してたっすよ」
と、ハーゲンに言われ、ミリティアムはこそばゆくなった。
先読みの力は、ミリティアムが望めば、いつでも未来を見ることが出来る位に、ミリティアムは成長しているそうだが、力を使うと身体への負担が大きいため、その力を使うことはエルキュールに止められていた。
当然、未来を見て都合の良い事ばかりではないことも想像出来たため、ミリティアムはエルキュールの言いつけを守って、先読みの力を試すこともしなかった。
エヴァルドは、まだまだ魔法の威力が伸びているらしい。
戦闘用の魔法から訓練しているため、使用できる種類こそ限られているが、威力としては既に魔人族の中でもトップ5に入ると、ハーゲンが言っていた。
これから時間をかければ、より多くの魔法を操り、エルキュールにも匹敵する程になるかもしれない。
――そんなある日事件は起きた――ピグが夜になっても帰って来ない――