表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/44

10 訓練

 ミリティアムは人生で初めて、忙しくも充実した時を過ごしていた。


 体内の力の制御や、出力についてみっちり座学から入り、体外への出力以外は実践訓練を行った。


 無意識に聖女の力で、常時微弱な保護壁を纏っていると驚かれた。

 エルキュールの言っていた通り、エヴァルドやミリティアムのように、常時力を使っているタイプは特殊らしい。


「ミリ様は努力家で覚えも早いっす。これなら全速力の魔馬と正面衝突したって無傷っすよ。」


「ハーゲンさんの教え方が本当に分かりやすいお陰です。ハーゲンさんが凄いんですよ」


 無垢全開の笑顔でほめ返され、ハーゲンがゆでだこになる。


「聖女ってより小悪魔っす。こりゃ、みんなやられるっすよね……」

「? どうかしましたか?」


「いや、なんでもないっす! さ、保護壁の後は身体能力の強化もあるんっすから、ガンガン続けるっすよー」



 ***



 意外とスパルタなハーゲンに、『自分を護れぬものが、他人の力になどなれない』と言われ、取り敢えず、保護壁と身体強化の訓練をひたすらしていたが、ある日ハーゲンがエヴァルドを訓練場に連れて来た。


「今からミリ様の試験を行うっす。エヴァ様は本気で、剣と魔法でミリ様にかかって行って欲しいっす。それをミリ様は、保護壁で防いでほしいっす」


「待て! ミリを攻撃するなんて無理に決まってんだろ!?」


(ハーゲンさんは、私がエヴァの攻撃を防げると判断したから、試験をするんだわ)


「エヴァ。心配しないで。私は必ずエヴァの攻撃を防ぐわ」


「……俺はミリに剣や攻撃魔法を向けるなんてことは出来ない……」


「エヴァは私の力を信じてくれないの? エヴァに信じてもらえないのは悲しいわ」


 チッと舌打ちをし、ハーゲンをひと睨みした後、エヴァルドは渋々試験に付き合うことにしたようだ。


「ミリを信じているが、こんなことしたくはないんだからな!」



 ――こうして、エヴァルドとミリティアムの戦い!? が始まった――


「ミリ、ちゃんと止めろよっ!」


 エヴァルドの放った炎の矢が、ミリティアムに豪速で向かって行く。

 しかし、ミリティアムの身体に当たったと思いきやいなや、シュッと音をたて、次々と魔法の矢が消えて行く。


「よしっ! ならこれもいけるな?」


 風と水の複合魔法がミリティアムの周囲を取り囲んでいく。

 氷雪の嵐となりミリティアムの姿は見えなくなった。


 嵐が止んだ後……。そこには同じ場所に佇む、無傷のミリティアムがいた。


 今度は剣を抜いたエヴァルドがミリティアムに切りかかる。

 ミリティアムに刃が届いたかと思ったが――エヴァルドの腕がピタリと止まっていた。


 剣を手から滑り落とし、痺れる腕に苦悶するエヴァルド。


「すごいっす。やっぱりミリ様の防護壁は最上級っす!」


 ミリティアム本人も、エヴァルドの攻撃を防ぎ切った、自分の防護壁の性能に驚きを隠せない。

 エヴァルドは一言も発しないで、落とした剣を拾い上げている。


「……」

「エヴァ様ほど、剣でも魔法でも実力がある人がいなかったんす。申し訳なかったっす。ミリ様の力を知るためだったんすよ……」


「……」

「ごめんね? エヴァ……」


「分かった……。分かってる。……別に良いから。……俺は訓練に戻る!」


 その様子を影から見ていたグイードは思った。


 今日は思い切り、エヴァ様の稽古に自分が付き合おうと。

 昼食後にはエルキュールに頼んで、エヴァ様の好きな甘いデザートを食べていただこうと。


 好意を寄せはじめた女性に、例え試験とはいえ、切りかかってしまった苦悩と、傷つけたくはないが全く歯が立たなかったという現実は、相当きついだろうから……。

 我が主をとにかく甘やかしたい! と。


(エヴァ様より実力があるとすれば、エルキュール様だろうが……。ミリティアム様の相手になることを説得出来なかったのだろうな……。ああ、エヴァ様おいたわしや……。このグイードが必ず癒して差し上げます……)


 グイードのオカンレベルがアップした!



 ***



 エルキュールはとても面倒見が良く、訓練の合間にお茶やお菓子を差し入れしに来たり、何着ものドレスやら、外出着やら、装飾過多な魔道着やらを揃えてくれたりしていた。


 食事も大変美味しく、残飯を与えられていたミリティアムにとって、満たされた食事も初めてだった。

 何より、エルキュールやエヴァルドやピグと、皆でその日あった出来事などを話しながら、食卓を囲むことが楽しかった。

 不健康に痩せていた身体には、少しずつだが健康的な肉が付き始めていた。


 ピグは初めての国を冒険しているらしく、毎朝ミリティアムと別れると、夕方まで帰って来ない。

 不良おっさんネズミにならないか、心配され始めている。


「あいつは大丈夫っすよ。そんな男じゃないっす」


 と、ハーゲンに言われ、心配し過すぎている自分をミリティアムは反省した。


 エヴァルドは宣言通り、魔法の訓練をしている。

 相当筋が良いようで、次々と新しい魔法を身につけて行っている。

 リルムラントまでの旅の最中も、独学で努力してきたからか、すでに火・風・水魔法は上級クラスの魔法を使えるらしい。


 グイードは、自身の鍛錬の傍ら、獣人族の人々に剣術や体術を教えたりしている。

 教え上手で、日増しに生徒が増えて行っているそうな。

 鍛錬の合間には、魔法書物の歴史書を読み漁っているとか。


 そうこうしているうちに、とうとうグリムンド国へ行く日がやって来た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ