第31話 支配者
「ん?なんだ?」
急に周囲が揺れ出す。
まるで地震の様だ。
そしてボスフィールドの中央に、黒いゲートが姿を現した。
こんなエフェクト付けたっけ?
20年前に作った物なので、正直記憶があいまいだ。
まあ大した事は――
「――っ」
ゲートを通って巨人が現れる。
体長3メートルはある、黒髪の女の巨人だ。
その身には布面積の少ない赤いボンテージ服の様な衣類を纏い。
その背からは、巨大な真っ赤な翼が生えていた。
「一体……ぐ……がはっ……」
その威容をみてミシェイルが体を体を起こそうとするが、吐血してしまう。
「我が名はレムリア・クイーン。この深淵の洞窟の支配者」
図体は膨れ上がっていたが……それはレムだった。
何してんだこいつは?
俺は彼女の意味不明な行動に唖然とする。
「支配者……だと……」
「見えるぞ……貴様の願いは愛する者の復活。だがそれは不可能な夢だ」
「なにっ……ぐ……」
レムに無理と言われて、ミシェイルは再び体を起こそうとする。
だが今の状態では満足に体を動かす事は出来ず、苦痛に顔を歪めた。
「竜玉の力で蘇らせられる死者は、死後3年以内の者だけだ。よって貴様の願いは叶う事は無い」
レムは地面に転がる竜玉を長い爪の先で摘みあげ、妖艶に微笑んだ。
「貴様の愛する女を救いたければ、この先に進むといい。至宝である神玉であれば、貴様の願いは叶うだろう」
どうやら、彼女は無理やりにでもミシェイルを奥に進ませる気の様だ。
それは俺の為を思ってやっているのかもしれないが……正直不快極まりない行動だった。
俺はレムを睨み付ける。
本気の殺意を籠めて。
「くっ……という訳だ。願いをかなえたければ竜玉で自らの傷を癒し、奥へと挑むがよい」
レムの表情から余裕が消え、苦し気に口を開いた。
俺の放つ本気の殺気にレムは身じろぎする。
どんな理由があろうと、俺のゲームを邪魔する奴を許すつもりはない。
「では……まっているぞ」
そいうとレムは竜玉を残し、ゲートを通って消える。
「奴の……言った事……事実だと思うか?」
勿論真っ赤な嘘だった。
だがそれを俺の口から語るわけには行かない。
只のポーターである俺が、竜玉の仕様など知る筈がないのだから。
「分からない。ひょっとしたらミシェイルを奥へと誘う罠かも」
「それは……無いだろう。あの化け物なら……今の俺を簡単に殺せたはずだ……ミテルー、竜玉を俺に……」
実際問題、奥へと誘導する為以外何者でもないのだが。
ミシェイルからすれば、強力な力を持つ魔物がそんな意味不明な真似をするとは考えられないのだろう。
そのため、レムの言葉を真実と判断してしまった。
「わかった」
俺は竜玉を拾い、それをミシェイルへと使う。
青い光が彼の全身を包み込み、時間が撒き戻るかの様に見る間にダメージが回復していく。
崩れ落ちた左腕も完全に元通りだ。
「いったん戻ろう」
「ああ」
ドラゴンを倒した際、ゲートは2つ現れる。
一つは奥へと続く黒いゲート。
もう一つは出口に繋がる脱出用の青いゲートだ。
恐らくミシェイルがこの先に進むのは、手に入れた神器の扱いを覚えてからの事になるだろう。
ドロップした6つの神器を回収し、俺達はダンジョンを後にする。




