第26話 水の神殿
迷宮の次は、水の神殿と呼ばれる巨大な神殿の中を探索する事になる。
神殿内には水が満たされており、常に膝から下は水に浸かっている状態だ。
出て来る魔物は当然すべて水生系であり、強さは迷宮と比べてそこまでの差異はないが、兎に角足場が悪いため対応がし辛くなっている。
「……」
「……」
そこをばしゃばしゃと水音を立てて無言で進む。
いくつか宝箱を発見したが、それらは無視して進んだ。
目的が竜宮攻略であるため、トラップなどにかかって無駄な被害を受けない様にするためだ。
当然此処までも、宝箱は無視して進んできていた。
狙うは竜玉一つだ。
突然前方の水が渦巻いたかと思うと、水飛沫と共に薄青い透明な姿をした乙女が3人姿を現した。
水に浮かぶ彼女達の名はウィンディーネ。
水の精霊の名を冠し、美しい女性の姿をしてはいるがれっきとした魔物だ。
だが魔物達の首は、姿を現した瞬間跳ね飛ぶ。
水の中だというのに、それを感じさせない動きで間合いを詰めたミシェイルの斬撃が3体を一瞬で葬ったのだ。
体が水で構成されている魔法生物のウィンディーネは、本来ならば物理攻撃が効きにくい厄介な相手なのだが、聖なる力の込められている銀狼剣はそんな魔物を容易く葬る力が込められていた。
銀狼剣はミノタウロスの角から生成される超希少金属、聖銀を加工して作られ物だ。
剣だけではない。
彼のみにつけている武具は全てこの聖銀製だった。
硬く、軽く、魔法や温度変化にも強いこの金属はミスリルの完全上位互換とされ。
供給元が迷宮の主であるミノタウロスのレアドロップだけであるため、貴族ですらおいそれと手の出せない価格となっている。
それを全身に身に着ける彼は、もはや動く宝物と言っていいだろう。
もっとも、それに目が眩んで彼を襲う様な馬鹿はいない。
ミノタウロスを単独で狩れる危険な人間に喧嘩を吹っかける馬鹿がいるのなら、見てみたいものである。
「セイクリッドウォール」
ミシェイルが素早く神聖魔法を詠唱し、俺の前に光の結界を生み出す。
それに合わせたかの様に、水中から大きな目玉を一つ持ったクラゲの様な生き物が大量に姿を現した。
レーザージェリーフィッシュだ。
この魔物はその名の通り、レーザーの様な飛び道具で攻撃してくる。
その威力はかなり高く、薄い鉄板などなら容易く貫いてしまう程だ。
クラゲ共の眼が光輝き、そして一斉にレーザーが放たれた。
ミシェルは足元が水場と思えない、舞う様な軽やかな動きでそれを全て躱しきる。
背後の俺に飛んできた分は、彼が張ってくれた結界が全て受け止めてくれた。
再びクラゲの眼が輝きだす。
だが2発も撃たせてやる程ミシェイルは甘くない。
一気に間合いを詰めて、その全てを斬り捨てた。
彼の動きを見て毎度思う。
何故足元が水に浸かっているのに、その動きに衰えが現れないのかと。
俺も力づくで水を吹っ飛ばすように動けば問題なく動けるが、そういった物とはまるで違う不思議な動きだ。
こういった創意工夫で生み出された特殊な技術を眺めるのもまた、ポーターとしての楽しみと言えるだろう。
この後何度か魔物と遭遇するが、それらを危なげなく処理して俺達は先に進む。




