第20話 捕縛
「七支刀か……名を聞いても良いかの?」
「我が名はレイド・バスタール。陛下より神器を預かる騎士だ」
バスタール……と言う事はガンドの息子か。
それにしては色男だな。
母親似か?
ガンドと言う男は、お世辞にも色男と言えるようなビジュアルはしていなかった。
だがその息子は顔立ちは中性的に柔らかく整っており、陽光に煌めくサラサラの銀の髪と合わさってとても幻想的に見えた。
周囲の女どもは彼を見て、さぞや色めきたてている事だろう。
「彼女達は私の眷属だ」
「成程……七支刀の使い手とその眷属が切り札だったという訳か。通りで強気に攻め込んで来た訳じゃな」
七支刀は支柱となる刃に、6つの小さな刃が枝分かれした見た目の剣だ。
だが彼の手にしているそれは、枝のない直剣だった。
6つの刃は使い手の意思で切り離す事が出来、その刃の力を取り込んだ6人の者を眷属と化す。
「大魔導士アレイスター!貴様を此処で討たせて貰う!」
言葉と同時にレイドの手にし七支刀が輝く。
この剣には3つの効果がある。
一つは手にした者の強化。
二つ目は刃を授けた眷属の強化だ。
但しこの二つは余程うまくコントロール出来なければ、力が暴走して手にした者を死に至らしめる諸刃の力だった。
神器と呼ばれる武器にはそういったリスクが大小必ず存在していおり。
その為扱える人間が非常に限られている。
「はぁ!」
レイドの手にした剣から光が放たれた。
それは目にも止まらぬ速さで敵を切り裂く、閃光の一撃。
七支刀3つ目の力、閃光斬だ。
その余り速さに、普通の人間ならば何が起こったのかも分からず絶命してしまっていただろう。
だが俺には通用しない。
体を捻って紙一重で躱す。
勿論相手も初手をそれを躱されてしまっているので、躱される事前提で動いて来る。
素早く飛翔したヴァルキリー達が俺を囲い、その内の1人が光の魔法を放ってきた。
当然俺はそれを躱す。
すると対面に居た女性がそれを跳ね返し、再び俺に飛んでくる。
それも躱すがまた跳ね返されて飛んでくる。
だが今度は一発ではない。
横からも魔法を放たれ、その数が増えた。
とは言えその程度で攻撃を喰らう訳もなく、当然2発とも回避する。
躱した2発は更に跳ね返され、そこに新たな一発が追加されて飛んでくる。
跳ね返される魔法に加え、新たな魔法がどんどんと追加されていく。
気付けば、十発以上の魔法が俺の周囲を飛び交っていた。
レイドの方を見ると、剣を構えて待機しているのが見えた。
女にだけ働かして何様だと言いたい所だが、閃光斬は消耗が大きな技であるため、バンバンと無軌道に撃つ事は出来ない力だ。
奴は魔法が当たって俺の動きが止まる瞬間、必中の一瞬を狙っているのだろう。
「残念ながら、いつまでも女子のお手玉に付き合うつもりはない」
地上を見ると、レブントと英雄国の軍が今にも衝突しそうな距離まで来ていた。
ちんたら相手をしていると、うちの軍に無駄な被害が出てしまう事になる。
さっさと終わらせるとしよう。
「ふん!」
飛んできた魔法を跳ね返す。
その際魔法の性質を変化させ、跳ね返せない様にしておいた。
それに気づかない女達は、跳ね返された魔法を再び返そうとするが――
「きゃぁぁ!?」
「ひっ!」
悲鳴を上げて、6人全員吹っ飛んでいく。
だが誰一人命を落としてはいなかった。
跳ね返す前提の魔法である為威力が低かったと言うのもあるが、眷属として神器の力を与えられているのが大きい。
「くっ!?」
レイドが破れかぶれで閃光斬を撃って来るが、当然そんな物には当たらない。
軽く躱し、そして――
「幻影陣」
俺の足元から影が飛び出し、周囲の空間に蜘蛛の巣の様に展開する。
その影はレイドや吹き飛んだ6人の眷属を絡めとり、その動きを封じ籠めた。
「ぐ……これは……」
「ほっほっほ。儂のとっておきじゃよ。もうお前達は指一本動かす事が出来ん」
殺さず態々動きを止めたのには意味がある。
彼らに冒険者として、ダンジョンに挑んで貰うためだ。
今決めた。
「さて」
掌を地上に向け、適当に呪文を詠唱してみせる。
そして横長に展開するレブントの軍に向かって、魔法を放つ。
「アースクエイク!」
「んなっ!?」
レブント軍の足元だけが大きく揺れ、地が裂け巨大な地割れが姿を現す。
横長に伸びたそれは、その上に居た敵兵を容赦なく飲み込んでいいった。
それを見てレイドが絶句する。
自軍の兵、其の8割近くが呑み込まれたのだ。
これで平静で居られたら大したものだ。
「少しやりすぎてしまったかのう」
少しレイド達と遊び過ぎてしまった様だ。
お陰で敵軍の撃退がギリギリになって、大量虐殺する以外なくなってしまった。
ま、別にいいか。
人類全体から見たら7-8万人ぐらい誤差だ誤差。
「さて、お主らには捕虜になって貰うぞ」
俺は幻影陣で動けなくなっているレイド達を連れ、英雄国への本陣へと帰還する。




