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最強ポーターは力を隠して冒険者の冒険を見守る~え?自分は戦わないのかって?蟻んこ一々踏み潰したって面白くないでしょ?  作者: まんじ(榊与一)
最後の仕事

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第13話 迷宮

「まさか迷宮に挑むとはな。20年越しのリベンジ……か」


バルム爺さん達は順調にダンジョンを進み、迷宮に差し掛かる所まで来ていた。

迷宮はかつて爺さんが率いたパーティーが壊滅した場所だ。


バルム爺さんと、それに雇っていたポーターの1人――ま、俺なんだけど――以外はそこで命を落とし、その事に強い責任を感じた爺さんは冒険者を引退している。

以降20年間、仲間の残した家族のためにポーターとして働いてきた。


その爺さんが、最後の仕事として因縁の迷宮攻略に挑む。


「最後の花道として、当たりを引かせてやりたい所だが……」


そういった類のずるは基本しない事にしている。

爺さん達が上手く当たりルートを引く事を祈るとしよう。


迷宮にはいくつも分かれ道がある。

これが迷宮と呼ばれる由縁だ。

ただし、どのルートも最後にはゴールに通じている為、実際は迷宮でも何でもなかたりするのだが。


出現するモンスターはアシッドフロッグやポイズン・スティンガー、それにスライムだ。

スライムはゲームだと雑魚な事も多いが、迷宮に生息するものはかなり強力な力を有している。

サソリや蛙は語るまでもないだろう。


ハズレ(・・・)のルートで相手をするのはこの3種類だけだ。


迷宮にはもう一種類、守護者と言うべき魔物が配備されていた。


ミノタウロス。

それは人に似た四肢と、雄牛の頭部を併せ持つ巨人。

その力は新しく増設したパンデモニウムの魔物を覗けば、このダンジョンにおけるナンバー2を誇っている。


そのパワー、耐久力、どれをとっても迷宮に至るまでの魔物の比ではなく。

爺さんのパーティーを壊滅させたのも、こいつの仕業だったりする。

まあより正確に言うならば、引き分けた――が正解ではあるが。


実はこいつ、死にそうになると自爆する様になっていた。

やばい強さに加え、更には潔く自爆迄かましてくるこいつの存在は冒険者達にとってこの上ない危険な存在と言えるだろう。


「さて、どうなるか……」


迷宮の内のルートの3分の2はミノタウロスが配備されていない。

奴と遭遇さえしなければ、爺さんを雇ったパーティーなら問題なく迷宮を抜けられるはずだろう。

だが逆にアタリを引いた場合、かなりの被害が予想される。

場合によっては20年前の様な壊滅も十分あり得た。


だが、ミノタウロスを避けて攻略したのではリベンジとは言い難い。

爺さん達には是非とも、ミノタウロスを討伐して攻略して欲しいものだ。


「前々から不思議に思っていたのですが、何故全ルートに配備しないのでしょうか?」


「それだとルートを分ける意味が無いだろう。まあ、冒険者の運試しと言った所だ」


まあ実際は何となく当りはずれに分けただけだが、素直に話すつもりはない。

馬鹿っぽく聞こえるし。


「残念です」


会話の返事としては意味不明だ。

だがもし俺の心の声が聞こえてるとしたら……まあそんな訳はないか。

気のせいだろう。


バルム爺さん達は直前で休憩を挟んでから迷宮へと入って行く。

その際、前衛の1人――リーダーのゴメスと言う男――が爺さんの荷物から2枚の巨大な鉄板を取り出し、魔導士がそれに魔法をかけて一枚の盾へと変える。


それは魔法の力が籠められた、ダンジョン産のマジックアイテムだった。

人一人を優に包み込む巨大な盾。

ただ硬いだけではなく、魔法のエネルギーなども軽減する効果がそれには秘められている。


「成程、対ミノタウロス戦の切り札か」


ミノタウロスの自爆は魔法に近い物だ。

恐らく盾を使って防ぐつもりなのだろう。

ちゃんと、遭遇した場合の用意はしている様だ。


「まあ当たり前の話か」


どちらか分からない場合は、最悪のケースを想定して備える物だ。

新米なら兎も角、熟練者達は当然その辺りは弁えている。


「もっとも、衝撃で吹き飛ばされてしまっては意味はないが」


ゴメスが耐えられるかそうでないか。

その辺りが大きな勝敗の分かれ道になるだろう。

是非とも彼らとミノタウロスとの戦いを鑑賞してみたいものだ。


「この際、ずるをされては如何でしょうか」


レムが俺の心を読んだかの様に、悪魔の囁きを吹きかけて来る。

だが俺はそれを首を横に振って跳ねのけた。


「必要ない」


余り手を加えて演出が過ぎると、逆に白けてしまう。

ゲームでチートアイテム等を使い出すとすぐに飽きてしまうのと同じで、決められたルールの中で倒しむからこそ楽しいのだ。

だから俺は、冒険者達の攻略に余計な手出しはしないと決めていた。


「残念です」


こいつの「残念です」は、何に対して言っているのか分かり辛い時が多い。

まあ今回は自分の案が通らなかった事に対してだろう。


俺は小さく溜息を吐き、視線を映像へと戻した。

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