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最強ポーターは力を隠して冒険者の冒険を見守る~え?自分は戦わないのかって?蟻んこ一々踏み潰したって面白くないでしょ?  作者: まんじ(榊与一)
最後の仕事

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第9話 老ポーター

「おお、ミテルー君か。君とギルドで顔を合わせるなんて久しぶりだのう」


久しぶりにポーター組合(ギルド)へと足を運んだ俺は、白髪の老人に声を掛けられる。


彼の名はバルム・シー。

今年で70になる老人ではあるがその体躯はがっしりしており、重い荷物を優々と運ぶ程にその足腰はしっかりしていた。


「お久しぶりです」


彼はかつては腕利きの冒険者であり、その引退後も20年近くポーターとしてやって来ているダンジョン探索のベテランだった。


「聞いてますよ。バルムさん引退するそうですね」


「ああ、禊も終わったんでな」


禊と言う言葉に、自嘲のニュアンスが込められる。

彼の中では実際は終わってなどおらず、あくまでも最低限の事はしたという意味なのだろう。


かつてバルムが率いたパーティーは、ダンジョンで壊滅している。

その際彼は一人生き残り。

それ以来、彼は仲間を救えなかった事を悔やみながら20年間ポーターとして生きて来た。


「そうですか。おめでとうございます」


彼の死んだパーティーメンバーの中には、1人妻帯者がいたそうだ。

その男は家族の為に引退する事が決まっていたそうだが、最後のダンジョン探索で運悪くパーティーは全滅し、その妻は残されてしまう。

お腹の中の赤ん坊と共に。


それ以来20年間にわたり、バルムさんはポーターとして稼いだお金をその母子に渡し続けていた。自らの償いとして。

だが生まれた赤子が成人し、その必要もなくなったため、彼はポーターを引退して隠居するつもりの様だ。


「今日これから受ける仕事が、ポーターとして最後の仕事になる」


「気を付けてくださいよ。俺達の仕事は危険と隣り合わせですから。まあ20年も続けてきたバルムさんに言う事じゃないですけど」


「ははは、まあお互い気を付けよう。じゃあな」


そう言うと彼は軽く手を上げ、ギルドを後にする。

その背中には哀愁が漂い、胸に来るものがあった。

償っても償いきれない罪を背負って、彼はこの先も一人寂しく生きて行くのだろうか。


「なあ、バルム爺さんはどんな仕事を受けたんだ」


ちょっと気になったので、受付の女性に聞いてみた。

受付のカウンターに座るのは、目じりの吊り上がったきつめの感じの女性だ。


「ミテルーさん。残念ですけど、他の方のお仕事に関しては答えられません」


「ま、そりゃそうか……変な事を聞いて悪かった」


「でも、規模ぐらいなら答えられなくもないですよ?」


そういうと彼女はウィンクしてくる。

これで可愛ければ少しはドキッとするのだろうが、如何せん彼女は不細工でこそないものの、別段美人でもなかったので今一心に響かない。


「今度晩御飯を奢ってくれるなら、の話ですけど。どうです?」


「うーん……」


ギルドの受付嬢の給料などたかが知れている。

彼女は食費を浮かせたいんだろうが……仕事で得た情報を横流しして飯にありつこうとするのは如何な物かと。


「やめとくよ。あんまり人様の詮索はするもんじゃないからな」


冷静に考えて、態々ここで聞かなくとも気になるのならダンジョンの様子を見はっていれば良いだけの話だ。

情報横流しの不正に手を出す必要は無い。


「えー。じゃあ何かほかの情報を仕入れますから、取り敢えずご飯だけでも奢ってくださいよぉ」


「ははは、また今度な」


しつこく粘って来そうだったので、適当に答えてその場を後にする。

仕事を取りに来たんだが、まあいいだろう。


実はテリーから長期契約しないかと持ち掛けられていたのだが、俺はそれを断っている。

彼は期待の新人なので傍で成長を見ていたいという気持ちもあるが、あまり深入りすると、期待が大きいだけに色々余計な手出しをしてしまいそうなので止めておいた。


あくまでも見ているだけ。

それが俺のポリシーだからな。


「まあ丁度いい」


冒険者として長く活動し、そこから更にポーターとしてやってきた大ベテラン。

バルム・シー最後の仕事を眺めるのも悪くは無いだろう。

俺は人目のない所で転移魔法を使い、ダンジョンの心臓部へと跳躍する。

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