馬鹿な方が、可愛げがある。
20代の女の子を見下した価値観を持つ、40代のおじさんのお見合いパーティーの様子です。
偏ったおじさんの考え方が、炸裂します。
オレ。
白鳥 真弓。
47歳。
バツイチ。子なし。
職業、SEの管理職。
趣味、ゴルフ。釣り。
この主催のお見合いパーティーは、もう、常連と言っていい程来ている。
参加費が、掛かるところだが、普段から浪費はしない方だから、別に痛手はない。
辺りを見渡すと、男性も女性も知った顔が数人いる。リピーターのオレから言わせれば、もう、何度も会場で顔合わせているから、確率が下がるんだけどなと、損した気分だった。
あの、エキゾチックな顔立ちの20代の子も、前に見た事がある。根は、明るくて社交的だが、馬鹿っぽい。顔が好みではないから、切り捨てている。
その隣の子は、なんだ?
就職活動しに来たのか?
リクルートスーツ姿に、耳元で茶髪を1つに束ねている子に目を止めた。
まるで、スタッフと変わらないな。
見ない顔だし、あんな身なりだ。きっと、初めて参加したんだろう?
どうせ、高収入目当てとか、結婚まではちょっとって、生半可な考えで来たんだろうな。
どれ。
オレが少し、洗礼を浴びせるとするか?
面白くなったオレは、意地悪げにリクルートスーツの子に、わざとらしくプロフィールシートを貰うために声をかけた。
「あの、すみません」
リクルートは、くるりと振り返り、オレを見てキョトンとしていた。
「はい?」
小さく首を傾げたリクルートに、オレは訝しげに言った。
「今、シート配るって言ったから。1枚下さい」
「あ、あの。ワタシ、違います。参加者です」
リクルートは、身振り手振り大袈裟に、それを否定していた。コイツ、行動が馬鹿っぽいな。
去り際に、オレは1つ嫌味をぶつけた。
「チッ。紛らわしい格好してくんなよ」
パーティーがスタートし、勝手知ったる面々とは、おざなりの対応だった。
「白鳥さん、最近どうですか?」
40代で同じバツイチの女性が、気楽に話しかけた。彼女も、何度か顔を合わせている。
「仕事? こっち?」
「あはは。こっちです」
会場を指差し、彼女は笑って言った。彼女は、ゲラゲラと品のない笑い方をする印象だった。
「あー。ぼちぼちです。何人かとは、やりとり続いているんですが。まだ、踏ん切りはつかないですね。谷さんは?」
「アタシ? ねー。ほら、お互い、バツイチでこの歳だとさ、なかなか釣れないじゃん? 白鳥さんはお子さんいなくて、身軽でしょうけれど。アタシは、2人もいるからねー。じじいでも捕まえないと、ダメなのかな?」
続けて、ゲラゲラと笑い、谷さんはあっけらかんに言っていた。
2人の子持ちとは思えない、スタイルだが、悪く言えばガサツと言うか、品には欠けた女性だと思っていた。
制限時間を知らせるアラームがなり、谷さんの前から席を立ち、オレは次の席に座った。
次の女性と向かい合った瞬間、オレは女性の顔を見て吹き出しそうになるのを堪えた。
さっきの、リクルートが、オレを睨むように見ていたからだ。
第一印象が劇悪なんだろうな、オレは。
面白おかしくなり、オレは洗礼を浴びさせる態度を取った。
交換した互いのプロフィールシートを交換し、オレはリクルートの情報を確認した。
神田 イオリ(かんだ いおり)
25歳 最終学歴 短大 職業 OL 趣味 映画鑑賞 実家暮らし 好きなタイプ 優しい人 好きな音楽…
相手の情報を読み込み、スタッフの声と共に、質問を開始した。
リクルートは、必死になって、シートを読み込んでいた。それがどこか、焦っているようにも見えた。
おいおい。暗記のテストじゃあるまいし…。
どれ、いっちょいじってやるか。
オレは、小さく鼻を鳴らした。胸の中がワクワクする気分だった。
「短大? 何を学んだの?」
視線は合わさず、手に持ったシートを見ながら、オレは聞いていた。
「コミュニケーション学です」
おいおい。リクルート、そこで一体何を学んだんだ? どうせ、遊びに明け暮れてたんだろ?
元々は、ギャルっぽい感じなんだろう? 1つに束ねた髪は、ブリーチ繰り返したのか、茶髪が傷んでいるし、何の主張なのか、マツエクにカラコンして。ブランド物の小ぶりのショルダーバックを肩にかけ、スーツなのにブルーのヒールのあるパンプスを履いてきている。
気合の入れ方が、チグハグで、コイツホント、馬鹿だよな? と、腹の中で笑っているオレがいた。
「どうせ、合コンに明け暮れたお勉強だんだろうな。…実家暮らしか。料理はできる?」
何だろな?
この子が、スーツ着てるせいか、まるでオレが、面接官にでもなってる気分だった。
確かに、就職活動の時期はオレも学生の面接を幾度となく対応したし、中途採用もそうだった。
よく、いるんだよなぁ。
興味もあまりないくせに、取り合えず受けて見ましたって奴。引っかかれば、いいんだろうって考え。
甘いんだよ。
こっちは、一緒に働いて、会社も自身も成長してもらいたいんだ。
会社の事や仕事に対する意欲がない奴は、足蹴にどんどん、切っていった。
オレだって、若い頃は、団塊世代のおっさん達に、こっぴどく扱かれてきた。
そこで鍛えられたた力が、自分の身となった。そうして、管理職の立場にもなれた。
あーあー。
どうせ、このリクルートは、そういう奴らと一緒だろうに。
不意に、リクルートの顔を盗み見ると、キリリとした顔つきになっていた。
まるで、本当に面接みたいだ。
周囲は、朗らかに笑ったりしながら話しているというのに。
「そう言うわけでは。ちゃんと、勉強してましたし。料理は、母がほぼしてくれています」
「だろうなぁ。料理出来なさそうだもんな。男性に求めるものは? えーっと、なになに? “優しさ”! もう少し具体的にないの? 優しけりゃいいなら、ホストでもいいんじゃないの?」
極め付けにオレが突っ込むと、リクルートは、唇をぎゅっとつむんで、悔しそうな顔をしていた。
言い返せないのは、ちゃんとした考えを持ってないからだろう? 個人をアピールする力に欠けてる子だなぁ。
「ま、真剣に見合いしにきたわけじゃないんだろ? 冷やかしならさ、オレ達の出会いの効率、下げないで欲しいよな」
オレは、リクルートにそう言って、席を立った。
リクルートは、図星なのか、耳を真っ赤にして黙っていた。これじゃぁ、ここでのサバイバルには到底勝てないぞ。
いや、でも、こういう子の方が、扱き甲斐があっていいいのか?
どれ、いっちょ、オレが成長させてやるか?
アプローチタイムが終わり、オレはリクルートの番号を記入してスタッフに渡した。
しかし、よーく辺りを見渡したが、あの、リクルートの姿が消えていた。
どうしたんだ? まさか、アイツ、逃げたのか?
「白鳥さん。申し訳ございません。お選びいただいた女性の方ですが、体調不良で、途中で辞退されてます」
スタッフの女性が、丁重にオレに報告してくれた。
「そうでしたか。あ、でも、もし、その気があるなら、主催側を通してでもいいので、連絡してもらえませんか? 無理とは言いませんが」
謙遜してオレが言うと、女性は明るい顔を見せて、
「いえ。手前どもも白鳥さんのような、参加者様お1人でも、幸せに繋がれればと思います。ですが、あまり期待をされずにお待ちください。女性から3日経過しても連絡がなければ、破談と言う事でご連絡いたします。ご了承ください」
「ありがとうございます。お願いします」
そうして、オレは会場を後にした。
帰り道で、立ち寄った百貨店の中で、流れていたBGMを聴いて思い出した。
これは、オレが好きなバンドの曲じゃないか。
あー。そういや、あのリクルートとオレ音楽の趣味は一緒だったな。
連絡が来れば、いいけれど。
まぁ、あの程度ならきっと来ないだろうな。
ま、別にいいんだが。
今のところ、他のパーティーで出会った女性陣のストックが、3人いる。
上手くいくかは、分からないが。
諦め半分で、リクルートの返事を待つことにした。
オレは今日のお見合いパーティーは、久しぶりに楽しかったなと、思えた。
お読み頂き、ありがとうございました。
おじさんキャラ、なかなか痛快で、どこか勘違いさん風に描いてみました。
前作のヒロインとは恋実らずでしたけど。
また、時々、短編を上げてみたいと思います。
現在、連載中の『蹲る男』、一応恋愛のお話なので、ご興味ある方、良ければ覗いてみてください。
どうぞよろしくお願いいたします。