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娘、水虫、小太り、ときどき美魔女、そして絶望へ・・・

作者:

「足が超痒~い!」


ある日、娘が風呂上がりに言った。


見ると、足の皮が少しめくれていた。


水虫の初期症状と思われた。


「も~!パパのんが移った~!最悪!パパのせいやからねー!」


娘から吊し上げをくらう。


とうとう年貢の納め時か・・・。


私の足の親指の爪は、おそらく爪白癬と思われるくらい分厚くなっていた。


その様相は、まるで化石のようだった。


だから、夏場でも素足にサンダルで表に出たことがなかった。


とっかかりの水虫は、かれこれ20年以上。


嫁からは、「アンタ、はよ皮膚科行きや!」と、常に言われていた。


「ま~その内、時期が来たら行くわ。」


もう、麻痺しているのか足のかゆみもしないし、なかなか重い腰を上げなかった。


そして今、私の可愛い娘に移ってしまったらしい。


女の子が水虫なんて、あまりにも可哀想だ。


娘の水虫を早期に治療し、悪の根源である私の水虫も根治する時がやってきたんだと覚悟した。


私、嫁、娘の3人で皮膚科の病院へ。


受付で問診票をもらい、症状等を記入。


【症状は?】爪白癬


【いつから?】17才の頃から


記入が終わり、娘の問診票と共に、受付の綺麗なお姉さんに手渡した。


確認の為か、1枚ずつ目を通していた。


“はい”という合図がないので、そのまま立って待っていた。


私の問診票に目を通すお姉さん。


流れる沈黙。


若干、娘の問診票よりも長く見ていると感じたのは気のせいか?


17才から?今、48才やから、さ、さ、30年水虫なん?この人!きんも~!


お姉さんの心が読めたような気がした。


なんなん、この羞恥プレイ。


「はい、それではお掛けになってお待ち下さい。」


プレイから解放された私。


でも、本当の羞恥プレイは、これからかもしれない。


・・・何故か、嫌だなとは思っていない自分がいた。


俺は“M”なのか?


「コブシさ~ん!」


そんな、くだらない自問自答をしている間に、名前を呼ばれた。


3人でゾロゾロ診察室に入った。


小太り系ポッチャリズムの継承者らしい、メガネを掛けた若干キャラが立っている40代の先生がいた。


まず、大事な娘から診察。


「ん~これは水虫じゃないね。」


先生は娘の足をじっくり見て言った。


「あの~、たぶん、私の水虫が移ったんじゃないかと・・・」


「いやいや、そもそもね・・・」


ヤバい・・・先生のしゃべり方が、コンピューターっぽくて、面白くなってきた。


娘も肩を揺らして、笑いを堪えていた。


病名が滑稽な水虫で受診にきてるということで、娘は笑っているというていでなんとか誤魔化せた。


「じゃあ次、お父さん診てみようか。足出して。なんかスポーツやってたんですか?」


「はい、空手とボクシングをやっていました。」


ボクシングだけを言おうと思ったんだけど、爪が分厚くなったきっかけが、空手道場で筋トレ中に、鉄アレイを親指に落としてからだった。


なので空手も付け足した。


「ほ~、私も空手をやってたんですよ。」


え、この小太り系ポッチャリズムのおじさんが?


み、見えない・・・人は見掛けによらないものだ。


先生が、私の爪を見て、ピンセットを取り出した。


私は少しのけ反りぎみで、膝を曲げて先生に素足を出した。


先生はかがみ気味で、私の足の親指に躊躇なく顔を近づけた。


カリ、カリ、カリ・・・


トン、トン、トン・・・


先生は、ピンセットで私の親指の爪をカリカリして、生じた欠片たちを顕微鏡のガラス板にトントンとやりだした。


静寂な診察室。


流れる沈黙。


カリ、カリ、カリ・・・


トン、トン、トン・・・


オッサンがオッサンに、ピンセットで足の親指をカリカリやられている・・・。


オモロ過ぎる・・・字面にしているだけで、笑けてくる。


その様子を、かぶりつきの特等席で見ていた嫁、娘。


「んふっ・・・くくっ・・・」


娘の笑い声が漏れる。


「あん時のパパの顔よ!」(事後談)


娘曰く、医者にやられている時の私が、もの悲しそうな、なんとも言えない表情をしていたとの事だった。


ブツを採取し終わったお医者さんは、顕微鏡を覗き込んでいた。


その間、側にいた美魔女風の看護師さんが、私たちに話しかけてきた。


「なんでまた、30年たっていた水虫を治療しようと思ったんですか?」


「可愛いい娘の為でもあり、夏場、この足やから素足でサンダルを履いた事がないんですよ。」


嫁が私の気持ちを代弁してくれた。


「優しいお父さんですね!素足でサンダル履けるといいですね!」


そんな会話をしていると、お医者さんが顕微鏡から目を離し言った。


「お父さん、水虫じゃないよ。」


「え?じゃ、じゃあ、この爪は治らないんですか?」


水虫菌といわれるものが、あの欠片たちに存在しなかったらしい。


私は軽い絶望を感じた。


テレビで、爪白癬の分厚くなった爪は、内服薬を半年くらい服用すれば、元の普通の爪に戻ると言っていたからだ。


「いいじゃないですか!この日を境に勇気を出して、素足で履いてみたら!」


「そうよ!パパ、勇気を出して履きなよ!」


「履きな履きな!」


女性陣がキャッキャッと喋っていると。


「そういう話は、家でしてください。」


小太り系ポッチャリズム医師が、コンピューターのように言った。


「すいません・・・。」


何故か謝る私。


「空手は何流をやっていたんですか?」


「極真系の芦原空手です。」


「私はね~、沖縄空手なんですよ。」


すると、美魔女風看護師さんが私の腕を見て言った。


「ダンナさん、腕太いですもんね~。やってそうな腕してる!」


思いがけず誉められた私。


悪い気はしなかった。


その言葉に、ライバル心に火がついたのか、医者が喋り出した。


「あのね~空手は、どこを一番鍛えなきゃいけないと思います?」


思いがけずの、医者からの空手クイズ!


「え?やっぱ拳ですか?」


「指なんですよ、指!」


「は~・・・そうなんですか。」


というか、この会話いる?


こんなん、私、元プロですねんって言った日にゃ。


「実はね、私、グリズリーと闘ったことが・・・」


みたいな対抗心メラメラが止まんねぇだろうなと思った。


結局、娘は水虫ではなく、私も爪白癬ではなく、勇気を出して素足でサンダルを履かなければという絶望を味わった日だった。

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