第7話 「ここで押し切る!!」
ビッグバードのレベル上げから数日後。
ノーデン南部の草原でシートを広げて、おにぎりを頬張っているビッキーがいるので、空を飛んでいた僕はその近くに降り立った。
「おかえりなさい、どうでしたか? 成長は実感できましたか?」
「ううん、どうでしょうか。 さっきこの星を20周ほど回ってきたんですが、特に感じられるほどというわけではないような……」
どうやらビッキーのレベルと僕の超人レベルは比例しているようで、ビッグバードレベリングにてレベルが上がったビッキーと共に、僕のスキル:超人のレベルも上がった。
超人のレベルが2に上がったのに喜んだあの後、さらにレベル上げを続け、ビッキーのレベルは21に、僕の超人レベルは4に上がった。
レベリング後も、翌日からいくつかのクエストをこなし、ビッキーの強化、引いては僕の超人レベル上げに努めた。
そして今日は、どれくらい強くなったのか試しているというわけで……。
「速さだからですかね? でも力とか硬さとかも、特に強くなったかどうか実感できないんですよね」
「ステータスは既に奇跡で振り切ってますからね、このスキルがどのように影響しているのかさっぱりです」
でもその成果はほとんど感じられなかった。
仕方なく、魔獣討伐にはエネルギー攻撃を主軸とした戦法を取ることにし、再び魔獣討伐クエストを受けるためギルドにやってきた。
「魔獣討伐……、報酬……、勇気君、今気づきましたがすごいですねこの報酬。 この金額だけじゃなく、さらにこの国の王様から好きなご褒美がもらえるみたいですよ」
「一見とても魅力的ですけど、中身がこれではさすがに、というわけですが……」
今日もクエストボードの片隅に追いやられ、風に揺れる魔獣討伐依頼。
「そろそろシュレッダーにかけさせてあげましょう。 ね、勇気君」
「それをするのは僕ではなく受付の方ですけどね」
とりあえず、とる前に周囲を確認。
どうやらこの前注意してきた人はいないようだ。
注意された手前、その人の前でこのクエストを受けるのは気まずい。
「すみません、このクエストを受けます」
「はい、このクエス……ト……え? あ……え?」
どうやら以前の人とは違う方のようで、不審者レベルで挙動不審になる受付のお姉さん。
その人は登録時に僕のステータスを見たので知ってるかもしれないけど、この人とは初対面だ。
僕と依頼書を交互に見続ける。
「お願いします」
「ア、ハイ。 カシコマリマシタ」
僕が催促すると何とも言えない顔で受付処理をしてくれた。
「オキオツケテ……」
「いってきます」
このクエストが受けられた事で頭がパニックになっているのかもしれない。
どうしたのかと同僚に肩を揺さぶられてもぼーっとしていた。
「あの人どうしたんでしょうか」
「よくわかりませんが、朗報を伝えられるといいですね」
こうして再びやってきたグアラル荒野。
山一つを挟んだところで、一度準備を整える。
と言っても、ビッキーが無事に逃げれる準備だけなんだけど。
「では私は異層空間に逃げますので、後はお願いします。 くれぐれも無理はしないでくださいね」
「はい、まかせてください」
「それでは……、管理者権限、緊急離脱」
ビッキーがその言葉を唱えると、すーっと透明になっていき、あっという間に消えてしまった。
「ちなみに今どこにいるんですか?」
「私ビクトリアさん、今あなたの後ろにいるの」
「一回目で後ろとか詰んでますよね」
ビッキーが異層空間へ入ったので、ここにいるのは僕一人だ。
すでに山の向こうから異様な気配を感じる。
「いくか……」
山を飛び越え、荒野を見下ろした。
山々に囲まれたグアラル荒野の真ん中、そこに魔獣が立っていた。
山を越えた時点でも大岩は飛んでこない。
待ち構えているんだ……。
「ぐるるる……」
「決着を付けに来た。 勝負だ」
「ぐがああああああああああああああああっ!!!!!!!!」
魔獣は答えるように咆哮を上げ突撃してくる。
「ふんっ!!」
僕はそれを正面から受け止めた。
周囲の大気が震え、地面が砕け散る。
「ぐがうっ!?」
「これは……!?」
押し、返せる?
この前は互角だったのに、今はわずかにだが、この魔獣のパワーを押し返すことができる。
これが超人レベルの上がった成果!?
「ふんっ!!」
魔獣へとパンチを繰り出す。
素早くガードする魔獣は、それでも大きく吹き飛んでいく。
これならっ!
目に力をため、体中のエネルギーを一点照射する。
「ふんがああっ!!」
しかし、魔獣は地面をたたいて体をひねり紙一重で回避し、猛烈なスピードで最接近してくる。
これでも避けられる……。
なら、確実な隙を作り出すしかない。
地面を強く蹴った魔獣が一瞬で距離を縮めてくる。
「がああああああああああっ!!!」
「ならばっ!!」
お互いのパンチが激突し、周囲の大気が地面ごと吹き飛ぶ。
右、左、と交互に連打が繰り出されるそのスピードは、秒間20発以上はくだらない。
受け流した魔獣の拳が地面を抉るように吹き飛ばした。
この魔獣の大きさと重さとスピードのせいで、ただのパンチ一発が戦車の主砲よりもはるかに強い。
「ぐがああああああああっ!!!!!」
「ここっ!!」
がむしゃらに繰り出される隙間を縫い、魔獣にアッパーが突き刺さる。
さらに浮いた巨体の首根っこをつかみ、一回転させて地面に叩きつける。
巨大なクレーターを作り出すほどの衝撃が魔獣を襲う。
「あっ!?」
「ぐああああああっ!!!」
しかし、魔獣はまだ健在だった。
クレーターから飛び出した魔獣にとっさに手を突き出すが、その上からバレーボールのアタックのように腕を叩きつけてくる
その威力に耐えられず、体に急激な加速がかかり、弾丸のように吹き飛ばされていく。
地面を二度跳ねたところでようやくブレーキがかかる。
吹き飛ばそうとする力に抗って空中に止まり、再び目に力をためる。
魔獣は今、膝をついている。
「ここだ!!」
「ぐがあああああああっ!?」
ビームが魔獣に直撃する。
魔獣は弾かれるように体を射線から体をずらすが、さっきのビームが効いたのか少し動きが鈍っている。
「があああああああああ!!」
「ふん!!」
繰り出される拳を受け止めて蹴り上げ、さらにスピードを乗せたパンチで、魔獣の顔面を殴り抜ける。
落下した魔獣はすぐに立ち上がるも、よろめいて足元がおぼつかない様子だ。
「もう一度!!」
「ぐううううう……がああああああ!!!!」
灼熱のエネルギーが再び魔獣を襲うが、防ぐ魔獣の腕で照射されたビームが拡散され、何本ものビームが周囲を切り刻んでいく。
「く……、硬い……」
「ぐるるる……、がああ……、ぐがあああああっ!!!!!!」
突然、魔獣の方向と共に、魔獣の体から黒いオーラが迸る。
その禍々しいと言う他ないそのオーラは魔獣の腕を包み込み、魔獣はビームを押し返して突き進んでくる。
魔獣が本気を出したんだ……。
「なら、ここで押し切る!!」
この戦い、ここが正念場だ!!
体中のエネルギーを集め、さらにビームの威力を強める。
それでも魔獣は体中が黒く焼けながらも、さらにオーラを強く放ち突き進む。
まだ足りない。
それなら……。
目に集まるエネルギーを両腕にも集める。
両手を突き出し、ありったけの力をためる。
目と両手、三点からの同時照射。
今できる最大威力のビームを、魔獣に注ぎ込む!!
「く……ぐううう……!!」
「ぐ、ぐ……ぐおおおおおおおおおおおおお!?!?」
そして、ついに魔獣のオーラを突き破った。
極太のビームが魔獣を飲み込み、地面を抉りながら押し返して山へと叩きつける。
わずかに残っていた周囲の木々が一瞬で燃え散り、山を粉砕する。
エネルギーの強烈な奔流が消え去ると、ドロドロに溶けだす地面の向こう、崩れていく山をかき分けて、魔獣は崩れ落ちた。
「やっ……た……」
禍々しいオーラも消え去り、咆哮も聞こえない。
お、終わった……。 勝った……。
「やりました、やりましたよ勇気君!!」
「はい……はぁ、はぁ、さすがに、手ごわい相手でした……」
これほどまでに強大な相手と戦ったのは、元の世界で最後に戦った隕石怪獣以来だった……。
レベリングしていなければ危なかったかもしれない。
すぐにクエストの報告をしたかったけど、さすがにエネルギーを放出しすぎて体がだるく感じる。
異層空間から出て来たビッキーから水をもらいながら、王様ってどんな人だろうとか、どんな褒美がもらえるんだろうとか考えながら、ちょっとだけ眠ることにした。
「お疲れさまでした、勇気君」
「ありがとうございます、ビッキー」