第6話 「薙ぎ払えー!」
「もぐもぐ……、はむ、むぐむぐ……、ごくっごくっごくっ……ぷはーっ!! 美味い!!」
「それは何よりです」
宿屋にある食堂の片隅、丸テーブルをはさんで料理を楽しむ僕と女神さま。
今日はいままで全然食事してなかったから、さすがにお腹がすいた。
さっそく注文し、しばらくして料理が届くとビッキーはすぐさま平らげていく。
すごい食いっぷり。
「けっこう手の込んだ料理が出てきますね。 でも結構近代的なものが多いような……?」
「所詮はゲーマー神が作った世界ですから気にすることはありません。 私たちが美味しい料理を食べられるなら大した問題ではないのです。 たとえここがごりごりの中世ヨーロッパ風の世界でも、日本のお寿司が食べられることは何の不思議でもないのですよ。 すいませんお寿司セット松一つ!」
あるんだ。
食事を終えて宿の部屋に戻り、今後の方針を決めるために作戦会議をする。
「次はラーメンがいいですね」
「食べ物から離れてください」
とりあえずの方針として、僕と互角に戦えるあの魔獣に対して有利に戦えるように、僕のスキル:超人のレべルを上げることにする。
問題はこれがどうやって上がるのか。
なのでまずは、僕たち自身のレベルを上げてみることになった。
「レベルが上がればステータスが上がる。 私の素早さも上がれば100m五秒フラットも夢ではありませんね」
「その5秒フラットは何かの基準ですか?」
「ゆくゆくはサイコガンを!」
「置いてください」
というわけでその翌日、レベル上げのためにどうすればいいのか、ギルドのお姉さんに聞いてみた。
「やはり戦って経験を積むことですね。 こちらのクエストはいかがですか? 今、このノーデンの西でモンスターが大量発生していまして、それらの駆除依頼が出ています」
「じゃあそれを受けます」
現在大量発生しているモンスターは鳥型のモンスターでビッグバードという名前らしい。
「いかにも考えるのがめんどくさくなった名前ですね」
「ビッキーならなんて付けます?」
「…………ジャイアントホーク」
似たり寄ったり。
さっそく現場まで飛んでいくと、山が無数の黒い影に覆われていた。
あの影一つ一つがビッグバードだ。
体長は1.5m、翼を広げれば4mに迫る大きさになる。 確かにビッグだ。
「とてつもない数ですね」
「勇気君、私が襲われたらとりあえず逃げますね? 私は戦えませんから」
「管理者権限でどうにかならないいんですか?」
「前にも言いましたが、攻撃特権は自分に実害が出るか、上司に許可をもらわなければできません。 自分で解除することも可能ですが、その場合はある程度の階級が必要になってくるので私では不可能です」
「階級……、ビッキーはどれくらいなんです?」
「私はまだアークです。 所詮は入社3000年未満の若手社員ですから。 自分で実行するためにはせめてパワー以上じゃないとできません」
アーク……、パワー……、階級……。
どこかで聞いたことあるような……、あ、天使だ。
アークエンジェルにパワーズ。
「神様なのに天使の階級を使うんですか?」
「社長の趣味だそうですよ」
これ以上は何も聞かないことにした。
地上に降り立ち、モンスターが蔓延る山を見上げる。
大量のモンスターが群がっているせいで、黒いもやに包まれているみたいだ。
「この数かぁ……、さすがにこれは骨が折れそうですね」
「山が糞で白くなるのも時間の問題です。 いっそのこと山一つを消し飛ばしましょう」
なんてこと言うんですか。
「冗談です」
「真顔で言う事ではありませんよね?」
とりあえず試しに、山の斜面に沿ってビームを撃ってみる。
ビームが通った場所が綺麗に消え去るが、あっという間にまた埋め尽くされた。
「薙ぎ払えー!」
「それが言いたいだけですよね!?」
まあ薙ぎ払いますけど。
こちら側の斜面に見えていたモンスターがすべて一掃された。
「爽快ですね」
「ビッキーは命令しただけじゃないですか」
ステータスを開きレベルの確認。
「あ」
「どうしました?」
「レベルが上がってる」
レベル:102
「三桁って……」
「あの数を一掃しましたからね。 経験値はジャブジャブですよ。 三桁レベルは歴戦の冒険者でも到達するのは百年に一人レベルだそうです。 チートとか無双とかいうやつですね」
「ビッキーの奇跡のお陰ですでにチート使ってるんで、特に感慨は湧きませんけどね」
何て言ってる間に一掃された山の斜面がすでに半分ほど埋まりかけていた。
本当にえらい数だ。
あんなのが町に来たらパニックでは済まないだろうな。
「そういえば超人レベルは上がってませんね」
「1のままです。 僕のレベルが上がってもこっちは上がらないみたいですね」
超人のレベルなら、やはり超人的能力を使って倒さないといけないのかな?
今度はビームは使わず、素手でモンスターを倒していく。
少々面倒だがここは我慢。
「モンスターの群れが右から左に消えていく……。 光のアートみたいです。 さすが亜光速」
およそ1分弱で殲滅終了。
「ただいまもどりました」
「お疲れ様です。 おにぎりどうですか? 昆布や鮭とかいろいろありますよ」
「ありがとうございます。 この包装……、コンビニのやつじゃないですか」
「ときどき勇気君がいた世界に降りていろいろ買ってるんです。 自分の管理世界のものなら自由にもって帰ることができるので」
あのPS4もそういう事か……。
「ところで超人レベルは上がりましたか?」
「ええーっと……、だめですね。 1のままです」
でも自分のレベルは168まで上がっていた。
素手による攻撃もだめなら、やっぱりビッキーのレベルだろうか。
「それでは、次はビッキーの番ですね」
「え″っ!?」
「え″っ!? って何ですか。 僕のレベルが上がってもダメなら、この能力をくれたビッキーのレベルを上げるって決めてたじゃないですか」
「でも私の能力は魔力以外1桁ですよ!? 子供相手でも勝てるかどうかわかりません!!」
「それはそれで不安すぎますが、僕が捕まえておきますから!」
とりあえずまた群れだしたビッグバード一匹を捕まえて戻ってくる。
「ほら! これなら怖くないでしょう!」
「私には勇気君が右にずれた瞬間、腕の中に現れたようにしか見えませんでした」
「いつもの亜光速ですから! さあ早く!」
「でも素手ですよ!?」
「武器はないんですか?」
そう言うとビッキーがリュックの中を探し出した。
そして取り出したのが……。
「サバイバルナイフなら」
「なんでそんなものが……。 いや、今は武器になるなら何でもいいです。 それでビッグバードの心臓を一撃で仕留めてください! ここ! ここです!」
「無理です! 怖いです! 動物なんて仕留めたことないのに!?」
「モンスターは動物ではないんでしょう!?」
「確かにモンスターはこの世界の魔王が生み出した生物兵器ですが……、でも見た目が動物すぎます!」
確かに、モンスターだと言われなければただのでっかい大鷲にしか見えないけど。
「でもこれを倒してレベルを上げなきゃ魔獣を倒せないですよ! 魔獣を倒したらボーナス出ますよね!?」
「ボーナスは出ます!!」
「ボーナスでウハウハになりたいんですよね!?」
「ウハウハになりたいです!」
「じゃあやりましょう! 怖くないですから!!」
「怖くない、怖く……」
ビッキーがじっと構えていると、ビッグバードがぐええええーーっ!! と鳴き声を上げた。
こいつもやられまいと必死だろうが、すまない、ボーナスのための経験値になってもらうしかない。
「こ、こわくない! 怖くありません! そうです、こんなモンスター怖くなんてありません!! やろうぶっころしてやあああある!! ――――えい!」
ナイフがぶすりとビッグバードに突き刺さる。
しっかりと心臓を刺したのか、すぐに動かなくなった。
「あ、ああ……、やりました、やってしまいました……。 動物なんて殺したことなかったのに、なんてことを……」
「山ごと消し飛ばすとか薙ぎ払えとか言ったあなたがそれを言いますか」
「それもそうですね」
立ち直りが早ーい。
なんて茶番劇を挟みつつ、一匹捕まえては刺し、捕まえては刺しを繰り返し、意外と早くその時は訪れた。
「あ、見てください勇気君!」
「どうしたんですか?」
ビッキーが確認していたステータス画面を見ると、ビッキーのレベルは5にまで上がっていた。
そしてステータスの方が魔力以外も2桁目に突入していた。
「なんだか強くなった気がします。 今なら100mを20秒切りそうです!」
小学生レベル……。
とりあえず自分のステータスから超人レベルを確認してみる。
1から5になっても変わらないだろうか……。
「あ」
「あ!!」
スキル:超人 Lv2
「上がってた」
「あがりました! やったー!」
ビッキーの成長によって上がった超人レベルに、歓喜に沸くビッキー。
その日、ボーナスボーナスとはしゃぐビッキーと共に、日が暮れるまでビッグバードによるレベル上げを行った。