第5話 「うわぁお……」
ノーデンへと戻ってきた僕たちは、さっそくギルドへと向かいクエストを、と行きたいところだったけど、冒険者の方から忠告を受けている身としては、今日受けるのはよろしくないなと。
なので、お昼を食べようと思っていたのだけど……。
「ここの酒場でご飯を食べましょう!」
「ビッキー、お金ってあるんですか?」
しまった! なんて顔をしてほしくありませんでしたが、仕方なくその日のお金を得るためにギルドへ再びやってきた。
クエストボードでよさそうな報酬を探し、それを取って受付に持っていく。
やっぱりみんな魔獣の依頼書には見向きもしないな……。
「あら、今度は普通のクエストを受けるの?」
魔獣に会いに行く前と同じお姉さんが受付にいた。
まあ時間にしても数時間程度だから当然か。
「はい、手持ちがなくなってしまったので……」
うそです……。
本当は最初っから無一文でした。
「このクエストですね。 セイバーウルフの討伐になります。 それではギルドカードの提示をお願いします」
「え、ギルドカード?」
ビッキー?
ビッキーの方を見るとブンブンと頭を横に振っている。
え、知らないんですか!?
「あの、すみません。 もってないです」
「ええ!?」
「ギルドに来たのは今日が初めてだったので……。 クエストを持っていけばそのまま受けられるのかと……」
「そうなんですか!? あ、それでは、今からお作りいたしましょうか? 登録費用も掛かりませんし」
「お願いいたします」
うう……、ちょっと恥ずかしい……。
「それではステータスを写させていただきますので、ステータスウィンドウを開いてください」
ビッキー!? これも知らない!?
「勇気君勇気君! こうです! ステータスオープン!」
なんかのりのりでそう唱えると、半透明のウィンドウが目の前に浮かび上がった。
なんかゲームのメニュー画面見たい。
とにかく僕もビッキーに倣って呪文のように復唱する。
「ステータスオープン」
ほんとに出てきた。
「それでは、このウィンドウを写させていただきます」
お姉さんが僕たちのウィンドウに触れ、手を離すと、全く同じ画面がもう一枚分裂するように現れる。
「このステータスウィンドウはギルドカードの登録に使用されます。 登録後は外部に漏洩しないよう厳重に保管されますので、ご安心ください」
そう言ってお姉さんがウィンドウと一緒に奥へと入っていく。
「あの、ステータスウィンドウってそのままの意味でとらえても?」
「はい、大丈夫ですよ。 ステータスウィンドウには私たちの現在の能力や状態などが表示されます。 この世界における身分証明書みたいな役割もあります」
説明を聞いていると、奥の方ですごい物音がして、お姉さんがひっくり返っていた。
だ、だいじょうぶかな? どうしたんだろう……。
なにか不備があったとか?
しばらくして受付のお姉さんが戻ってきた。
「あの、その……、お待たせしました、こちらがギルドカードになります」
なんだか憔悴したような顔つきだったけど、すぐに営業スマイルに切り替わったので深く突っ込まないことにする。
「それではこちらのクエストをお受けになるという事でよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
ようやく僕たちはクエストを受け、さっそくクエストの目的地を目指しギルドを出ていく。
「な、なにあのステータス……、めちゃくちゃじゃない……。 人間? 化け物? 嘘でしょ?」
ギルドを出た後、お姉さんがつぶやいていたのが聞こえて来た。
もしかして、ステータスが現状を反映させているなら僕のは……。
「ビッキー。 ビッキーのステータスを見せてもらってもいいですか?」
「はい、いいですよ」
ビッキーが指を振ると、僕の目の前にビッキーのステータスウィンドウが現れる。
「これって魔法みたいなやつですかね」
「そうですよ。 この世界の理にのっとって発動されるものです」
さっそくビッキーのステータスを表示する。
名前:ビクトリア
職業:神
神……。
それって職という扱いにしてもいいものなんでしょうか。
レベル:1
「レベルは1からなんですね」
「みんなそうですよ。 どれだけ強くても、みんなレベル1からスタートです」
力 :4
耐久 :3
素早さ:4
魔力 :62
一気に伸びましたね。
「私はどうやら魔法使いのようなタイプみたいです。 今は低いですが、レベルを上げると成長していきますので、まだまだこれからです」
スキル:管理者権限
「これはよくビッキーが使っている奴ですよね」
「この世界ではスキルとして反映されているみたいですね」
武器:ヘカトンケイル
待った。
「なんですか武器:ヘカトンケイルって」
「ああ、それ神様の世界で売ってある神様専用の武器です。 私のはリサイクルショップにあった中古品で、バージョンの古い初期型だったのですが、その癖に600万とかべらぼうに高いですよ。 サジタリウスは同じ中古で300万なのに、ふざけてますよね。 まあかっこよかったんで買ったんですけど」
武器? たしかヘカトンケイルって巨人のことじゃ……。
いや、やめよう。 神様とはこういうもの。
これが普通。
そう、かみさまならね。
「勇気君のステータスはどうなんですか?」
「ええ、僕のも確認しようと思って、なんかあのお姉さんが驚いてたみたいで……」
さっそく自分のステータスを広げてみる。
名前:神戸勇気
職業:神の契約者
「うわぁお……」
「かっこいい……!」
よくないです!
この画面は友達には見せられない。 絶対。
レベル:1
僕も初心者なのでここは同じですね。
力 :999999
耐久 :999999
素早さ:999999
魔力 :999999
待った。 待って。
「ちょっと待って、なんなんですかこれ!?」
「ああ……。 私の奇跡を受けて超人になっていますから、その能力値が反映されているみたいですね。 ちなみに4桁行けばこの世界では最強に名を連ねるステータスだそうですよ」
「振り切ってますよね」
「6桁までしか表示されないとか、このウィンドウにはやる気が感じられないです」
そう言う問題じゃないです。
「管理者権限」
力 :999999999999
耐久 :999999999999
素早さ:999999999999
魔力 :999999999999
「増やさないでください」
スキル:超人 Lv1
:空中浮遊
:エネルギー生成
スキルは何となくわかる。
超人的能力も、空を飛べることも、エネルギー攻撃ができることも、すべてスキルとしてまとめられたわけだ。
ただ気になるのは超人にだけレベルがあること。
「どうしてこのスキルにはレベルがあるんだろう……」
「そうですね、なぜかここだけLvです」
表記の問題ではありません。
「私の憶測にすぎませんが、やはり成長するという事でしょう。 それが勇気君の成長によって上がるのか、奇跡を与えた私が成長することで上がるのかは分かりませんけど」
「ひょっとしたら、このレベルを上げれば魔獣とも楽に戦えるかも」
「めちゃくちゃな強さでしたからね。 楽に勝てるに越したことはありません。 魔獣問題をさっさと片づけて、ボーナスもらってウハウハです!」
神様もお仕事なんですよね……。
兎にも角にも、あの魔獣に勝つための方法がエネルギー攻撃と、超人Lvの上昇にも希望があるというのはいいことだ。
出来れば、次挑むときは少なくとも一つは上げておきたいけど……、今のところは方法が分からないからいったん保留。
ひとまず、受けたクエストを軽くこなし、今日のお金を手に入れなければならない。
「勇気君がいると一瞬で着きますね」
「異次元からのワープがあればそれで行けばよかった」
という事で僕たちが初めて来た草原にやってきた。
というか戻ってきた。
「あのワープは私が契約者のもとに行くための機能なので、そこまで便利じゃないんです。 あの異次元に行く機能も私しか行けないですし」
「ああ、じゃあ仕方ないですね」
クエスト内容はセイバーウルフの群れの討伐。
商人の一隊が被害を受けたので討伐してほしいそうだ。
その分報酬は結構多い。
「見えました、あれですね」
「あの距離でもまっすぐこっちに来ているんですから、結構鋭い嗅覚ですよね」
「勇気君もできるんじゃないんですか?」
「しませんよ?」
という事で、一匹ずつ確実に止めを刺していく。
「何の描写も考える暇なくバタバタと」
「亜光速で動いていると、周りの動きがゆっくりになっていくので、戦いやすいんです」
「世界がスローモーション。 無敵ですね」
クエストを受けてから群れを討伐するのに10分もかからなかった。
せいぜいギルドから街の外に出る時間がほとんどだ。
討伐した証はセイバーウルフの刃があればいいので、それをはぎ取っておく。
「私のリュックには入れませんからね!!」
「入れないですから! 大丈夫ですから!」
血の滴る生ものを入れる気にはさすがにならない。
なのでこれは、リュックから取り出したシートにくるんで持っていくことにする。
「到着」
「ワーープッ!」
「いいなあ、僕もワープできるようになりません?」
「もう一度死んだら私の奇跡でできるようになるかもしれませんよ?」
にやにやしながら怖いこと言わないでください。
「え? もう終わったんですか?」
驚愕した表情のお姉さんに証拠品を渡してクエストクリア。
報酬として銀貨10枚を受け取った。
これなら一夜は過ごせる。
でも、もっと稼がないとなぁ……。
「や、やっぱりあのステータスは本物……、まさか魔獣の化身?」
ギルドを出た後、お姉さんに物騒なことを言われて違うと否定したかったけど、ビッキーがお腹がすいたと言ってきかないので、その場を後にした。
まあ、魔獣を倒したら終わりだろうし、気にすることないか。