第1話 「次は僕が恩返ししたいと思います」
何も見えない、自分の体さえ見えないほどの真っ暗闇の中、光源もないのに降り注ぐ光が一筋だけ降りそそいでいた。
その降りそそぐ光の中には、素朴な木の椅子があった。
この椅子には見覚えがある。
「まだあったんだ」
僕はその椅子に座った。
以前、ここに来た時もそうだったから。
その椅子に座ると、見前に女性が現れた。 何も見えないほどの暗闇の中で、その人だけがはっきりと見える。
光が反射してキラキラと輝く髪が神々しさを放っている美しい女性だ。
見た目は僕と変わらない年だろうか。
その人は僕と同じように椅子に座っている。 同じような質素な木の椅子に。
彼女は僕を見てほほ笑んだ。
「以前、ここに来たのは2年前ですね」
「ええ。 殺されて、ここでお会いしました」
「そしてあなたは、生きることを望んだ」
「それと強さと」
一度だけ、彼女の表情に悲しみが差した。
「どうでしたか?」
「後悔はありません。 僕は、僕の守りたい人たちを守れました。 家族、友達、僕の住む町の人たち、国、世界……」
「戻りたいですか?」
「いいえ、約束ですから……。 一度だけ、生き返れる……」
僕は死んだ。 通り魔に殺された。
ただ運が悪かっただけ、それだけなんだ。
だけど、死後のこの場所でこの人に出会った。
彼女の正体は、この世界を見守る神様だという。
彼女は一度だけ、僕に好きな力を与えて生き返らせてくれるといった。
だから僕は願った。 誰にも、何にも負けない強さが欲しいと。
「僕の大切な人たちを守り切れるように……。 僕の願いは、叶いましたから。 後悔はないですよ」
「でも、泣いているわ」
「未練はあるかも……。 生きたかった、平和になった世界で」
僕がいた地球に危機が訪れていた。
宇宙からやってきた地球外生命体が、地球に対して攻撃を仕掛けて来たんだ。
僕はその最初の攻撃の時、錯乱した人間に殺された。
そして生き返った僕は、もらった力で宇宙人と戦った。
でも、宇宙人との最後の戦いの時、やつらは自らの命と引き換えに、巨大岩石生物を地球に落下させようとしてきた。
僕はそれを破壊するために、宇宙に飛び出した。
でも、その隕石怪獣はとても強く、それを破壊するために自分のパワーを全て使い果たした。
文字通り、死力を尽くし、敵を倒した。
世界は平和になった。
そして僕は、青い地球を見ながら、死んでいった。
思い返すと、自然と涙が出てくる。
ちゃんと別れを言ってきたのに……。
もう二度と会えないと分かると、止まらなくなる。
「ぐ……、すみません。 こんなところを……」
「いえ、あなたの気持ちはわかりますから」
自分の気持ちが落ち着くまで、女神さまは待ってくれた。
「それで、いったい僕はどうなるのでしょうか。 一度生き返りましたし……」
「その事なのですが、あなたをここにお呼びしたのには、お願いがあるからなのです」
「お願いですか?」
頷いた彼女が横を見ると、僕も同じ方向を見た。
そこには地球のように青い星があった。 海がある、陸地に森林、白いところは標高の高い山にかかった雪だろうか。
でも地球じゃない。 すぐにわかった。
だってユーラシア大陸、オーストラリア大陸、アメリカ大陸にアフリカ大陸もないのだから。
代わりにあるのは、見たことのない形の大陸がいくつか。
「ここは、地球じゃないですよね?」
「ええ、私が担当しているもう一つの世界です」
「担当?」
「はい」
担当って、どういう事だろう。
「私たちはそれぞれいくつかの世界を掛け持ちで担当しているの。 本当は一人一世界の方が管理しやすくていいんだけど……、その……」
なんだか言い辛そうにもじもじし始めた。
「最近、人手不足で……、世界は増える一方なのに、管理職になりたい神様が少なくて、どうしても掛け持ちしないと世界管理に手が回らなくてですね……」
人手不足……。
いろいろ突っ込みたいけど、悩む女神さまの顔は、同じように人手不足でどうしようと悩むバイト先の店長と似たような顔をしていた。
どうしよう、果てしなく遠い世界だと感じていた女神さまの住まう世界が、その一言でとても近くに感じてしまった。
「それで……その、あなたのこのもう一つの世界で、僕に何かしてほしい、という事ですか?」
「はい、私のお願いなのですが、私と共にこの世界に降り立ち、魔獣と戦ってほしいのです」
「魔獣……ですか?」
なんだか、とてもファンタジーな呼び名だった。
「現在、この世界は人類滅亡の危機に瀕しています。 それは、この世界の住人たちが魔獣と呼ぶ存在が現れ、人々を襲っているからです」
「そんな存亡の危機に瀕するほどの存在なんですか?」
「はい。 この魔獣はとても強力で、幾度となく戦いましたが、この世界の人類ではもはや太刀打ちできません」
だから、女神様の力で超人的なパワーを得た僕を呼んで、代わりに討伐してもらおうと……。
「あの、女神様」
「はい?」
「僕のように、この世界の人にスーパーパワーを与えたりはしなかったのですか?」
僕が力を与えられて僕の世界を救ったのだから、この世界の人はどうなのだろうか。
ひょっとしたら、もう与えていたけどダメだったとか……。
「実は、もうその奇跡を実行してはいたのですが……」
「……ダメだったと?」
「うう……はい、魔獣との戦いに敗れてしまい、亡くなられてしまいました」
予感は当たってしまった。
しかし、気になることがある。 この魔獣についてだ。
「あの、どうして女神さまはこの魔獣という存在を作られたんですか?」
「いえ、この魔獣は私が作り出したものではないんです。 そもそも、この世界も私がもともと担当していたものではなくてですね……」
「先代がいたという事ですか?」
「はい、ほとんど強引な感じで押し付けられちゃったんですけどね」
『何あの魔獣っての、全然勝てないんですけど!? 詰みじゃん! 詰みゲーじゃん! どーしろってのこれ!? なんでこんなチートバグモンスター作っちゃったわけ!? マジ意味不明なんですけおっ!? あたしこの世界の担当やめる! はいこれ!』
「……ってかんじで」
「ギャルのノリか何か? ていうか、はいこれで渡せるものなんですか世界って……」
「私の先輩でして……、断りづらく……。 申し訳ありません……」
「いえ、その……大変ですね。 お気持ちは分かります」
いろいろと教えてもらったバイト先の先輩にシフトを変わってほしいと頼まれた時とか、なんとなく断りづらい感じがするし。
「分かりました。 女神さまのお願い、お受けいたします。 僕は一度、女神さまに助けていただいたのですから、次は僕が恩返ししたいと思います」
「ありがとうございます。 それではさっそくですが、この世界に降りたいと思います」
「はい!」
僕は意気込みを新たに立ち上がる。
いつまでも悲しみに暮れているわけにはいかない。 僕は世界を守ったんだ。 だから胸を張っていこう。
いつまでも辛気くさい顔をしていたら、宇宙へ送り出してくれたみんなに笑われかねない。
「なので、神戸 勇気くん」
ごそごそと後ろで何かを探し出す女神さま。
未来の猫型よろしく取り出したのは……iPadだった。
「こちらの……ここですね、ここにお名前をお願いします」
「え? あ、はい」
タッチペンを渡されて、指定された場所に名前をかきかき……。
え? iPad?
「お手数をおかけしてすみません。 一緒に降りるためには、お相手の神様との契約が必要になるので。 この場合は私とですね」
「……こんなにデジタルなんですね」
「最近は世界管理もデジタル化が進んでるんですよ? 魔法化よりもインターフェイスが分かりやすくて信頼性が高いですし」
「へー……」
うん、もう深く考えるのはやめとこう。
便利になるのはいいことだと思うし。
「ええーっと……はいオッケーです! 認証されましたので、これであなたは、女神ビクトリアとの契約完了です!」
どこからともなく現れたリュックサックを背負って女神さまが鼻息高く立ち上がる。
何が入ってるんだろう?
「お待たせいたしまた。 私の手をつかんでください」
「分かりました」
その手を取ると、周りが白く光りだし、僕たちの体が宙へと浮かぶ。
そして……。
「管理者権限!! 神様降臨!!」
え? なんて?
僕たちは、魔獣の跋扈する世界へと降りていった。
別の作品を書いていたのですが
DCとマーベルをみて暴れてえと思ったので
やらかしました