のりたまこ人
俺の目はテレビに映し出されている画面に釘付けになっている。
映っているのは近所のシャッターが閉められている弁当屋の前に群がる群集と、その前に立ち塞がる盾を持った機動隊員と自動小銃の銃口を向けている自衛隊員。
群集は弁当屋が自家製造しているふりかけを求めて口々に売ってくれるように哀願していた。
この騒動のそもそもの発端は幼馴染みの涼太がゾンビに噛まれた事にある。
下着姿で徘徊していた若い女のゾンビに噛まれたらしい。
大方、助兵衛根性丸出しで不用意に近寄り噛まれたに違いない。
自分の家に帰ればよいのにこのボケは俺の家に逃げ込んできた。
夕飯を食っているとき玄関のドアが乱打される音が家の中に響き、それと共にこいつの叫び声が響く。
「オイ! 居るんだろー! 開けてくれよー!
俺だよー! 涼太だよー!」
無視しても良かったのだが、近所迷惑になるので仕方なくご飯に振りかける途中だったふりかけを手にしたままドアを開ける。
家に上がり込んだ涼太は俺の肩を掴み揺さぶりながら助けを求めて来た。
「助けてくれ、ゾンビに噛まれた。
お前の叔父さん、国立研究所でゾンビ菌の研究しているんだろ!
頼む! 助けてく…………う…………」
肩を掴んだままゾンビになった涼太はそのまま肩に噛り付こうとする。
食われまいと持っていたふりかけのパックを大きく開けられた涼太の口に押し込む。
押し込まれたふりかけのパックをモゴモゴと噛んでいた涼太が、突然2度3度大きく身震いして床に倒れ込み動かなくなる。
倒れ込んだ涼太を外に捨てて来ようかと思案していたらタイミングよく叔父が帰宅した。
涼太を見て叔父が声をかけて来る。
「どうしたんだ?」
「こいつがゾンビになって襲い掛かって来たんだけど、突然身震いしたと思ったら倒れて動かなくなった」
叔父が涼太の脈を診た。
「本当にゾンビになっていたんだな?」
「嘘だって言うのかい?」
「こいつ脈があるぞ。
ゾンビ化するとき心臓は停止するのに、おかしいな?
倒れ込むまでの事を詳しく話してくれるか」
涼太を家に上げた所から倒れ込むまでの事を詳しく話す。
話を聞いた叔父は研究所に迎えに来てくれるように電話をかけた。
「また行くのかい?」
「ゾンビ菌に対する特効薬が見つかるかも知れんのだ、休んでなんていられるか」
これが半年前。
1ヶ月程前に涼太は家に連れて来られて軟禁されている。
そのとき叔父が研究の成果を話してくれた。
涼太がゾンビから蘇ったのはふりかけのお陰らしい。
ふりかけと言ってもどこのメーカーの物でも良い訳では無く、近所の丸〇屋弁当店が製造している「ふりかけのりたまこ」これだけがゾンビを人間に戻せるとの事だった。
ゾンビにのりたまこを1パック服用させれば人間に戻れて2度とゾンビに感染する事は無い。
国立研究所を始め我が国の政府やゾンビの蔓延に頭を痛めていた各国政府は、このふりかけを徹底的に分析した。
その結果、丸〇屋弁当店のふりかけには他のメーカーが原料にしていない物が含まれている事に気が付き、その原料を弁当屋に問い詰めるとそれは企業秘密だと言い張り弁当屋は口を硬く閉ざす。
強引に聞き出そうとしたら家族全員が自決しようとしたので聞き出す事を止め、ふりかけの製造に全力を尽くして貰う事になった。
この事が昨日新聞にスッパ抜かれこの騒ぎになっているのである。
涼太の顔を見ながら思う。
これからは白人、黒人、黄色人種にもう1つの人種、黄色の下地に黒の縞が入ったタイガーストライプ模様ののりたまこ人が出現するのであろう事を。