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【連載版】まだ早い!!  作者: 平野あお
第一章 第一の魔物編
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十話 バレちゃった

 

 レオと別れ戻った交流会も既に終盤を迎え、最後の挨拶の時間となっていた。


「フーリン、体調が悪いと聞いたが大丈夫なのか?」

「う、うん。もう大丈夫だよ!」


 心配そうに私を覗き込むローズに罪悪感が募る。


「交流会は楽しんでいたようで良かった」

「そうなの!私みたいなのに皆んなすっごく優しくてビックリしたよ」

「みたいなの、は余計だろう?」


 クスリと笑ったローズに私はへらりと笑い返す。


 ローズは第一の生徒の、特にクラスメイトの私に対する態度が厳しいことには気づいていない。

 彼らはローズに悟られないように陰で当たってくるのでそれは仕方ないことだった。


 王族であるラドニーク様にも容赦のないローズの態度を見て、ローズには気付かれないようにするのが良いと考えたのだろう。

 変なところで頭が良くて私は驚いたぜ。


 クラスメイトの態度からして、今はそうでなくてもいつかは虐めに発展しそうな危うい空気を感じている。

 このまま何も起きなければいいのだけれど、と不安が広がるも、今は余計なことを考えないようにと頭を振る。

 こんなことにローズを巻き込むわけにはいかないからこそ、私は耐えなければならないのだ。



 ローズと一言二言交わした後、最後に一緒のグループだった皆に挨拶をして、双子にもお別れを言った。


「第一のことだけど、なんか怖がらせちゃってたらごめんね」

「配慮が無かったよな、悪い」


 なんて謝ってくるものだから私は勢いよく首を横に振って否定する。


「すっごく有意義なお話だったよ!ありがとう!」

「有意義、だったか?」

「フーリンが言うならそうなんじゃない?」


 キョトンとして顔を見合わせる二人を見て、双子の揃いっぷりに思わず笑ってしまい、それにつられて双子も笑った。

 こうして同級生と笑顔を交わせるほど嬉しいことはないと、私の心の中もニッコニコである。


「良かったらいつか俺たちの村に来いよ。婆さんもいたらもっと面白い話してくれるぞ。ちょっと偏屈な人だけどな」

「孫には甘い人だから僕たちがいれば大丈夫だと思うけどね」


 そんな有難い言葉を最後に貰って、私は気分良く交流会を終えることができた。



 その日の夜、わたしは湯船に浸かりながら幸せを味わっていた。


 怒涛の一日だったけれど、実りの多い日になったのではないだろうか。

 ギルフォード様に会うのは予想外だったけど。


 お風呂から上がり、今日はもう終わりだと完全に油断しながらドロワーズを身につけていた私の元に、突然の来訪者がきた。


「よばれてとびだせじゃじゃじゃーん!あなたのノアたんで〜す!」

「呼んでないよ!?」


 突然外からの冷気が流れ込み火照った体に気持ちいいと思ったのも束の間、私はあることに気付きサッと顔が青くなった。それと同時に勢いよくしゃがみこんで自分の体を抱きしめる。


「み、みみみ、見た!?」


 私はもう焦るしかなかった。

 フードを深くかぶっているので見えなかったと思いたい。思わせてくれ……!


なに(・・)を?」


 意味深なその言葉に私は確実にノアに見られたことを悟った。



 お父様にすら教えなかった──花紋の存在を。



 青を通り越して白くなっていく私に何を思ったのか、ノアはさらに近づいて来てしゃがみこみ、私のお腹を見るために私を立たせる。

 状況についていけない私はされるがままだ。


 そしてしばらく花紋を見つめたと思えば、ノアは顔を上げてこう言った。


「イルジュアのおうじかあ。ノア、あそこ(・・・)はおすすめしないな〜」

「へ?」


 想像の余地もなかった言葉に私は目を白黒させる。

 花紋におすすめがあるのだろうか。


 私の困惑した様子などどこ吹く風で、ノアは閃いたように声のトーンを明るくした。


「わかった!フーリン、おうじのおよめさんになるのがいやでレストア(ここ)にきたんでしょ〜!」


 当たってる?当たってる?と興奮しているノアに対して、むしろギルフォード様の横に立つためにここに来ました、なんて言っていいのだろうか。

 今余計なことを漏らせば情報屋として色んな話を引き出されるかもしれない。


 もしその情報が漏れてしまうとなると間違いなくギルフォード様に迷惑がかかる。どころかイルジュア皇家に損失を負わせてしまう。


「あ、もしかしてノアがじょうほうをうるとおもってる?そんなことしないよ〜」


 あはは、なんて明るく笑うものだから私はうっかり信じそうになる。


「もー、いったでしょ?ノアはフーリンのみかただって!」

「でも、情報屋だったらお客様がいれば売るんでしょ?」

「フーリンのことはうらないよ〜!うってフーリンがこまって、ひざまくらしてくれなくなったらいやだもん」


 膝枕によって私は一命を取り留めた。


「ギルフォード殿下にも言わない?」

「もっちろーん」


 軽い口調でそう言うノアを私を信用する他なくて、私は観念して事の始終を話した。


「なるほどなるほど〜ダイエットかー!」

「そう、だから痩せるまでは会わないって決めてるの」

「いいねいいね〜」


 いいねと言った口で、お父様のお土産のクッキーの箱を勝手に開けて食べ始めた。ゴロゴロとソファに寝転がる姿はまるで猫のようだ。


 私に対する挑発だろうか。


「ダイエットはじゅんちょー?」

「……ちょーっと痩せたかなあってぐらい?」

「ほんと?にゅうがくしてからかわってないけど」


 容赦無いノアの言葉がグサリと胸に刺さったが気にしない。そう気にしてはいけない。

 もぐもぐと美味しそうにクッキーを食べているノアも気にしない。気にしないったら気にしない!


 なんせ今日の私は水以外ほとんど物を口にしていないのだ!一日耐えられたのならばこの瞬間も耐えられない筈がない!


 一度やると言ったら私はやる。

 ダイエットにおける食事制限は食べないのが一番だと誰かが言っていた。

 だからお父様と会って以来殆ど物を口にしていないけれど……本音を言えば死にそうなくらい辛い。見せびらかすように目の前で食べられるのは余計に辛い。


 クッキーを口の前まで持ってきて、そのまま止まってしまったノアは私の方へ顔を向けた。

 凄く見つめられているような気がする。


「フーリンさ〜、クラスメイトについてどうおもってるの?」

「突然どうしたの?」

「はなしそらさなくてもノアしってるよ」


 クラスメイトとから受ける扱いをノアは知っている。

 当然だ。ノアは入学当初に実際その現場を目撃しているのだから。


「ずーっとつづいてるんでしょ。やりかえしたい、っておもわないの?」


 私はタオルで頭を拭く手を止めてノアの目がある辺りを見る。こういう時、目が合わないのは少し残念だ。


「皆んなが私を邪険にするのは仕方ないことだから」

「だからなにもしないの?」

「しない」

「いやだって、いわないの?」

「……言わない」

「いわない、じゃなくていえないんでしょ〜」


 私を煽るようなノアの質問に私はギュッとタオルを握る。


 あんな扱いを受けてこんな私だって何も思わないはずがなかった。


 嫌に決まってる。やめて欲しいに決まってる。

 仲良くして欲しいに決まってる……!


 それでも自分は太っているから仕方ない、直接手は出されていないのだから仕方ない、と諦めるのが学園生活を無難に送る上で大切なことだと思ってきた。


「だめだだめだー!そんなかおしちゃおブスだぞー!」


 いきなり近づいてきたノアにムギュっと頰を潰され、私は目を丸くする。


「フーリン、いーい!ストレスはためちゃだめ。そうやってがまんしちゃうといつかばくはつするんだよ!」

「び、びゃくはちゅ?」

「ん!ストレスはおはだにでやすくなるの。やせてきれーになったのにおはだがきたなくなっちゃったらやでしょ〜?」


 それは嫌だ。


「だからストレスははっさんするのがいちばん!つまりはクラスメイトにやりかえすのがいちばん!」


 それは違うと思う。


「フーリンにはとくべつにむりょーでしかえすほうほうをおしえちゃうよ〜!」


 パッと頰から手を離され、私は無意識にそこに手を添える。

 頰は少し熱を持っていた。


「──いい」

「ん?」

「教えてもらわなくて、いい」

「……どうしてー?」


 首を傾げられて私は真っ直ぐにノアを見据える。


「やり返し方はもう分かったの」

「へー、なにかなあ」


 ニッと口角を上げて私は胸を張った。

 タオルが床にヒラヒラと落ちていく。


「──痩せること!それが一番のクラスメイトに対する報復になる!……そうだよね?」


 自信を持って言った手前、急に黙ってしまったノアに不安になって恐る恐る伺う。

 今だけはそのフードを是非とも取って欲しい。


 するとノアは親指を立ててこう言った。


「だいせーかーい!!」


 パチパチと拍手されて私の気分は再び高揚する。

 ダイエットのモチベーションは上がり続ける一方だ。


「ありがとうノア。私、ダイエット頑張るね!」

「お〜がんばれ〜!」


 ノアに花紋を見られた時はどうなることかと思ったけど、どうやら結果オーライらしい。

 やっぱりノアはどこか安心する雰囲気があって、正直無害にしか思えない。


「でもほんとうのいみでしかえししたくなったらなんでもノアにきいてね。へいきのつくりかたに、ざいせいはたんさせるやりかた、せいしんまほうのやりかた。なんでもおしえちゃうよーん」

「絶対に何も聞きません!!」


 悲鳴を上げなかった私を褒めて欲しい。


 決してノアが無害ではないことを思い知らされた夜であった。

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