⭐剣聖の目覚め
一緒に飛ばされてきた人の話です。
「一体どういうつもりなんですか!?!?」
私、柊龍二は憤っていた。
「何故彼を追い出したのですか!?!?この右も左もわからぬ世界において、彼を追い出すのは殺すも同然!!!」
目の前でオロオロしている老人にか、それとも子供一人守れない自分に対してか。
大事な商談が成功に終わり、後輩と飲みにいく最中、目の前が真っ白になったかと思えば、急に真っ白な空間に飛ばされ、ガチャガチャを無理矢理引かされたと思ったら、また飛ばされ。
そうすると目の前には外国のような景色が広がっていた。私の他にも何人か日本人がおり、みたところ一番私が年上のようだ。最年長は落ち着かねばならない。
話を聞くところによれば、魔王とやらによる侵略戦争に対抗するためにこの世界に呼ばれたらしい。
つまり私は選ばれた存在ということらしい。悪い気はしない。この場についてからどうも気分が高ぶっている。加えて魔王を倒さねば私達は帰れないということも知った。
つまりどうにかして倒さねばならないのだろう。周りの皆も討伐に同意しているようだ。少なからずこの状況に興奮しているようだ。
「君も魔王討伐、もちろん参加するよな?」
見た目普通な高校生くらいか?の男の子に問いかける。これで断られても私が彼を守ってあげよう。
「参加するにしても、僕達はなんの力もありませんよね…?」
なるほど。確かにそうだ。討伐とはつまり戦闘になるわけだ。私は少しばかり剣道をやっていたが、それもほんの触り程度。まるで実践向きではない。この子、冷静だな。
私が彼への評価を改めていると。
「お主ら異界からきた勇者には強力なスキルが付与されるはずじゃ。頭の中でスキルと念じてみよ。」
スキル?何だそれは。周りの転移してきた人達をみるとすんなりと理解している。わからないのは私だけなのか?
とりあえずスキルと念じてみる。すると。
スキル
<剣聖の極意>
・剣聖の剣術を会得する。
<明鏡止水>
・スキル発動後から一定時間、あらゆる精神干渉系スキルを無効化し、本来の精神状態へと戻す。
「なんだこれ…??…剣聖の極意??」
頭のなかに電光掲示板のように浮かび上がる文字。まるで意味がわからない。
他の人にも何かしら浮かんでいるようだ。これがスキルというやつなのだろうか?
「それでそこのお主、お主のスキルはなんだったのじゃ?」
国王が先ほどの彼に問う。
「どれ、そこの者よ、この者を鑑定せよ。」
「承知致しました。」
王が近くのローブ姿に命令すると、ローブ姿は彼に近寄っていった。鑑定とはなんだ?
よく考えれば考えるほどわからないが、スキルとはその人の力のパラメーターのようなものなのか?つまりこれがあれば強いということか。
言葉だけ聞けば私のスキルは強そうだ。これで何とか戦えるだろう。
「それではゆくぞ。鑑定。」
ローブ姿の掌がゆっくりと輝き出す。それと同時に男の表情が驚愕に染まる。
「この男、なんのスキルも持っていないぞ!!!」
スキルがないのか。戦いの役にはたたなそうだな。やれやれ。他の3人はまだ使えそうなのに勿体ない。
「なんと!!スキルなしがいたとは!!」
この様子だとスキルなしは余程あり得ないのだろう。
「この勇者召喚に失敗が混じっているのが知れたら他国にどう突っつかれるか分からん!!いいか!!今回召喚されたのは4人じゃ!!わかったな!!」
「はっ!!」
「であれば、そこの者は侵入者じゃ!!早々に追い出せ!!」
「かしこまりました!!」
「オラ!ついてこい!」
彼には悪いがスキルがないならば仕方ないだろう。自分を恨んでくれ。
さて、スキルとやらについて検証しなければな。この場で使えそうなのは…剣聖とやらは使えないとして、この明鏡止水か。どう使うんだ?……強く念じるのか?
<明鏡止水>!!
……頭から心地よい熱が引いていく。それと同時に自分の思考の靄が晴れていくのがわかる。
この空間、王の前に立ってから心に溢れていた高揚感が消えていく。
なぜ私は彼を見捨てた?
スキルとやらがないだけで何故役に立たないと考えた?
周りの3人をみると、摘まみ出された彼に対して侮蔑の目を向けている。
同郷であろう彼に、初対面であろう彼に、支えあっていかなければならない彼に、どうしてそんな目を向けられる?
どうしようもなく気持ち悪い。でも一番気持ち悪いのはこの私だ。
やり場のない怒りを沈めるため、この気持ちの矛先を王へと向けた。




