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復讐心 ※微残虐注意
この村には食料が無い。
毎年多くの餓死者が報告されていた。
けれどそれももう終わる。
ここはすでに、村と呼べるほど人が住んでいない。
僕と、お母さんと、たまたま流れ着いた旅人しか残っていない。
他の村人は全員、息絶えてしまった。
死ぬのは怖いか、小僧。
旅人は僕に問いかけた。
分からない。
僕は素直にそう答えた。
生きたいか?
旅人はまた問いかけた。
分からない。
僕はまた、同じことを言った。
なら俺が命令してやる。生きろ。
あなたにそんなことを言われる筋合いは無い。
僕はそう思ったまではいいが、声に出せるほど身体に力が残っていなかった。
生きていたって苦しいだけかもしれないが、死んじまったらそれまでだ。
だから俺が、お前に生きる理由を与えてやる。
旅人は僕の返事も待たずに、腰からサバイバルナイフを抜いて握り込んだ。
何をするんだ、やめろ、やめろ!
僕は限界を超えて声を出す。ボロボロな身体に、大きな声が響いて痛かった。
旅人はそんな僕に構うことなくサバイバルナイフを振りかざし、お母さんの胸元にザクリと深く突き刺した。
あぁ、あぁぁぁぁ。
掠れるような声を出すしか出来ない。
お母さんは何の抵抗もすることなく、簡単に殺されてしまった。
俺が憎いだろう。その気持ちを忘れるな。復讐したいと思うなら、生き延びて俺を殺しに来い。
そう言って旅人は、村を出ていった。
泣いても声が出ない。声を出すだけの力が残っていない。
泣いても涙が出ない。それだけ身体に水分が残っていなかった。
僕は悲しさと怒りに捕らわれ、どうすれば良いのか分からなかった。
そんな時、お母さんの胸元から血が滴っているのが目に入った。
この時にはもう、僕は人間ではなかったのかもしれない。
お母さんからサバイバルナイフを抜く。すると出血量が増した。そして僕は……、その血を啜り飲んだ。
血を飲み、サバイバルナイフでお母さんを切り刻み、その肉を食べる。
その様は、まさしく獣だった。
久方ぶりの食事に満足した僕は、切り取った太股とサバイバルナイフを手で握った。
許せない、許せない、許せない。
その一言だけを繰り返しながら、男が待つ地に向けて歩き出した。