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3 選択【★】

 ──健康な体になって、異世界で新しい人生を歩く。


 神様が作った魔法の武器までプレゼントしてもらえる。

 とんでもない幸運、奇跡のような話なんだと思う。


 家族の姿が思い浮かぶ。

 今までずっと頼りきりだった。頼れる人がだれもいない世界で、ひとりでがんばれるのかわからない。

 でも、わたしは──。


 神様の目をまっすぐに見つめる。


「わたし、転生したいです」


 もう家族のもとには帰れない。

 それなら、せっかく神様が与えてくれた奇跡なんだから、がんばってみたい。

 家族もきっと、わたしがそうすることを望むと思うから。


「そっか! そうだよね、君ならそう言ってくれるって信じてたよ!」


 神様はうれしそうに目を細めて笑うと、「それじゃあ、さっそくカードを引いてみようか!」と笑顔で両手を差しだしてくる。


 わたしに扱えるか不安だけど、自分の身を守るためのものなんだから、しっかり選ばなくちゃ。


 真剣にカードを見つめる。

 真っ白なカードは等間隔できれいな扇型に広げられていて、どれもまったく同じにしか見えない。


 少しのあいだ悩んだ末、わたしは差しだされたカードの中から、ちょうど真ん中にあるカードを指差した。


「これにします!」

「ふーん、ずいぶんあっさりと決めちゃうんだね。本当にそのカードでいいの? 後悔しない?」

「え? もしかしてよくないカードなんですか?」

「それは僕の口からは言えないよ」


 神様は楽しそうに「今なら変えてもいいよ」と言って笑う。


 そんなふうに言われると……変えた方がいいのかな?


 真ん中のカードから手を引き、少し悩んで今度は左端のカードに手を伸ばす。


「あー、それにしちゃうの?」

「え?! このカード、なにかあるんですか?」

「んー? 別になんにもないよ。ま、いいんじゃない? それでも」


 いいんじゃないって……。

 あんまりよくない反応に思えるよ……。


 左端のカードから手を引いて、次は真ん中より右側のカードを見つめる。

 ちらりと神様の様子をうかがうと、「へぇー、それにするんだぁ?」と目を丸くした。

 その反応に不安になって右端のカードに視線を移すと、今度はなんともいえない微妙な表情で首を傾げた。


 ……どうしよう。

 不安になって決められないよー!


 カードから一歩遠ざかって頭を抱えると、神様がくすくすと笑い声をたてはじめた。


「ハズレなんてないんだから、もっと気を楽にして選びなよ」


 そんなぁ……。

 わたしがカードを選ぼうとするたびに、神様が不安になるような反応をするから決められないのに。

 優柔不断なわたしが一番悪いんだけど……。


「ほんっとうにハズレはないんですか?」

「ほんとほんと。どれを引いてもそれなりには使えるはずだよ」

「そうなんですね。それなら──」

「まあでも。人によって、合う合わないはあるけどね」

「え?!」


 ほっとしかけたところで、また不安が増すようなことを言われる。

 動揺するわたしを見て、神様はまた楽しそうに笑いだした。


 神様って、ちょっといじわるかも……。

 でも、ハズレがないなら気楽に選んじゃおうかな?

 悩んだときは結局、最初に選んだのがよかったりするよね。


「じゃあ──」


 最初に選んだ真ん中のカードに手を触れる。


「これにします!」

「え、やっぱりそれにするの?」


 驚き顔で確認され、怯みそうになるものの、「はい!」と強く頷いて答えた。


 カードをそーっと上に引っ張っていく。

 完全に神様の手を離れたところで、カードが白く発光しはじめた。

 驚いて手を離すと、カードは淡い光に包まれたまま、宙に浮いた状態で静止する。


 え? 浮いてる?


「じゃあ、確認してみよっか!」


 神様が言った途端、カードが目も開けていられないくらい強い光を放った。

 とっさに目を閉じて、光を避けるように顔を少し俯かせる。


 瞼の裏で光が収まっていくのを感じて目を開けると、先ほどまであったカードはなくなっていて、代わりに別のものが宙に浮いていた。


 そこにあったのは、ピンクがかった金色にきらめくドライヤーのようなものだった。

 そのドライヤーのようなものは、ふわふわと宙を漂い、わたしの手の中に収まる。


 おそるおそる手の中のドライヤーを観察していく。

 吹き出し口がある筒が太めで、持ち手側が細め。

 吹き出し口がある筒の上部には、9個の丸い石が一列に並んでいて、根元側には丸い石を中心に、花びらのような形の石が9個取り巻いている。どうやら花の形を模して配置されているようだ。

 そして吹き出し口と持ち手が交わる付け根には、引き金のようなものがあった。


 引き金? これってもしかして……?


「これは魔銃メリエンダだよ。君専用の武器だ」


 マジュウ? あ、魔銃かな?


「やっぱりこれ、銃なんですね」

「うん、そうだよ。どう? 気に入った?」


 わたしの顔をのぞき込むようにして神様が尋ねる。


「あ、はい。かわいいですね」


 銃は繊細な装飾が施されていて、少しアンティークな雰囲気もあるけど、ピンクゴールドの銃身や煌めく石が華やかで、かわいらしいデザインだと思う。


 かわいいのはうれしいけど……。


 銃なんて今までテレビで観たことがあるくらいで、間近で見たこともない。


 わたしに扱えるのかな……?


「どうしたの? 浮かない顔してるけど」


 不安が顔にでてしまっていたのか、神様は不思議そうに首を傾げてわたしを見る。


「あ……その、銃なんてわたしにちゃんと扱えるのか不安になってしまって……」


 少し躊躇いながらも思うところを口にすると、神様はあっけらかんとした口調で言う。


「なーんだ、そんなことか。よーく考えてみて? 銃なら離れたところから攻撃することができるんだよ。同じ魔物を倒すにしても、接近して剣で切り刻むよりだいぶ気が楽でしょ」


 き、切り刻むって……。

 でも、たしかにそうかもしれない。

 間近で魔物と渡り合うのと離れたところから狙えるのでは、気持ちの上でずいぶんと違う気がする。


「それにね、メリエンダで魔物を倒すと血もでなければ死体も残らない! グロ耐性なんてなさそうな君にぴったりの武器だと思わない?」


 うぅ、神様の言い方がいちいち引っかかるよ……。

 ……あれ? でもそれってどういうことなんだろう?


 首を捻るわたしを見て、神様は楽しそうに笑った。


「ふふふ、不思議そうな顔をしてるね。実はね、メリエンダはただの銃じゃないんだ」

「え? どういうことですか?」

「実はね、メリエンダは魔物を食材に変える魔法の銃なんだよ!」


 得意満面で言い放つ神様を見て、わたしは目を瞬いた。


「魔物を、ショクザイに変える……?」

「そう! 魔物が食べものになっちゃうんだよ? すごいでしょ?」


 えっ!? 魔物が食べものになる??

 ショクザイって、食材のこと?!


「それってつまり、この銃を使うと魔物がダイコンになったりジャガイモになったりするってことですか?」

「これから君が向かう世界の食材だから、厳密に言うとちょっと違うんだけど、まぁそんな感じだね」

「あ……なるほど」


 そっか。違う世界に行くんだから、当然食べものだって同じものじゃないんだ。


「この銃を構えて魔物に狙いをつけると、魔物の(コア)を見ることができるんだ。その核に弾を当てると、魔物を食材に変えることができるよ。銃の上に石が並んでいるでしょう? それが弾の残数を教えてくれるよ。弾がなくなると石の色が紫から白に変わるからね」


 そう言われて確認すると、銃口に向かって一列に並んでいる石のうち、5つだけが紫色に光っていた。


「つまり今は弾が5発あるってことですか?」

「そうそう、そういうこと。石が9個並んでいるでしょう? これが一の位を表していて、花びらひとつが十の位だよ」


 花の形にかわいく配置されていたから飾りだと思ってたけど、弾の残数がわかるようになっているらしい。


「弾がなくなった場合はどうしたらいいですか?」

「時間の経過とともに自動で回復するよ。この銃は弾を込める必要はないんだ。それとね、がんばって魔物をたくさんやっつければ、銃のレベルが上がっていって、弾数が増えたり、弾数の回復時間が早まったりするからね」

「え? レベルですか?」

「そう! メリエンダは成長する武器なんだ」


 神様は誇らしげに胸を張った。


 成長する武器? なんだかゲームみたい。ちょっとおもしろそう。


「すごい武器なんですね」

「そうでしょう? こんなすごい武器がもらえるんだよ。不安に思うことなんてなーんにもないよね?」

「え? それは、えっと……」


 すごい武器だからこそ、ちゃんと使いこなせるのかますます不安になってきたんだけど、そんなこと言ったら申し訳ないよね……。

 かといって、胸を張って大丈夫です! とはとても言えないし……どう答えよう?


「なあに? まだ不安なの? まったく、心配性だなぁ。でもまぁ、たしかに君ってすっっごく弱そうだもんね。メリエンダだけじゃすぐに死んじゃうかぁ」


 不安に思ってるのがバレちゃってる……。

 しかも否定はできないけど、ひどい言われようだ……。


「よし! しょうがないから、特別にサービスしてあげるね。君のゲームのキャラが着ていた服を覚えてる?」

「え? 服ですか?」


 いきなりの質問に困惑しながらも、すぐに思い浮かぶものがあったので返答を口にする。


「……はい、覚えてます。あの服はゲームで知り合った友達に作ってもらったものなんです」

「思い入れのあるものなんだね。その服を防具として使えるようにしておくよ。弱い魔物の攻撃くらいは防げるからね」

「えっ? あの服を実際に着られるんですか?」

「うん、そうだよ」


 神様の返答を聞いて、うれしさが込み上げてくる。


 本当にあの服を着ることができるの? すごくうれしい!


「ついでに洗浄と補修の効果を付与しておくから、少しくらいの汚れや傷みならすぐにきれいになるよ」

「汚れや傷みがきれいに? すごい! そんなことができるんですね!」


 魔法が存在する世界だからなのかな? そんなすごいこともできるんだ!


「それと、服とそろいのポシェットには亜空間収納(アイテムボックス)を付与するからね。見た目以上にたくさんものが入るし、重くもならないよ。しかも中に入れてるあいだは時間が経過しないから、品質も変化しない。メリエンダとの相性はバツグンだよ。その服とポシェットも銃と同じくレベルアップで強化されるようにしておくね」

「……え?」


 たくさんものが入って、重くもならなくて、時間が経過しない??

 神様はなんでもないことのようにさらりと説明してたけど、それってとんでもないものじゃないのかな……?


「最後にこれを渡しておくね」


 戸惑うわたしをよそに、神様は分厚い一冊の本を取りだした。

 表紙の真ん中には銃についているものとそっくりな紫色の石が飾られ、その周りには複雑な模様が型押しされている。

 豪華な装丁のアンティーク本といった感じだ。


「この図鑑はゲームでいうステータス画面の代わりみたいなものかな。今はほとんど中身がないけど、魔物を食材にしたり、銃や服がレベルアップすると自動的に内容が更新されていくよ」


 神様が言い終わると同時に、銃と図鑑が白い光に包まれる。そして跡形もなく消えてしまった。


「え?」


 消えてなくなっちゃった?


「大丈夫。先にあちらの世界に送ったんだ。向こうで目覚めたときには全部身につけてるはずだよ。図鑑はポシェットの中に入れておいたからね」


 説明を聞いて、消えてなくなったわけじゃないとわかって安堵する。


「さて、そろそろ時間だ。君がこれから降り立つ国の言語は話せるようにしておいたよ。ここをでたら僕はもう、こんなふうに君と直接会って話すことはできない。あとは自分の力でがんばってね」


 そっか。ここをでたら神様と話すこともできなくなるんだ……。


 家族も知っている人もいない。

 頼れる人がだれもいない世界で、全部自分でなんとかしないといけないんだ。

 急に心細さを感じて、胸の前で両手を強く握りしめる。


 不安はたくさんある。でも……!


 頭を左右に振って、後ろ向きな気持ちを追い払う。


「はい! わたし、がんばります」


 わたしの全身を淡く白い光が包む。

 体がどこかに引っ張られるような不思議な感覚がする。

 この空間をでるときがきたのだと直感し、わたしは慌てて神様に頭を下げた。


「神様、いろいろとありがとうございました!」

「うん。応援してるよ」


 神様はにっこりと笑う。

 その笑顔を最後に、目の前が強い光に覆われた。


挿絵(By みてみん)

2話のボツイラストを活動報告に載せました。

よかったらご覧ください。

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