己の無力を嘆く?
医者のターン継続
同じ流派の医師たちがきてくれたことにより治癒魔法をかけてくれる者と交代し、魔法力を回復する薬を飲み、何とか一息つくことができた。
応援にきてくれた医師たちへ、今までのことを詳しく説明しながら、これからの作戦を立てることにした。
近頃は治癒魔法のおかげで幼いうちに病気などで命を落とす者は極端に無くなったが、今回のトラ坊ちゃまのような前触れのない症状は初めてだった。今まで治療した病のすべてが、症状が悪化する以前に必ず、前兆のようなものがあったが、それがまったくなかった。これには我ら医師達は頭を抱えた。
当初は、これだけの人数がいるのだから何とかなるだろうと思ったが、複数の医師でトラ坊ちゃまへ治癒魔法をかけてみたが、まったく効果が見られなかった。解毒魔法を使ってみても効果が見られず、治癒と解毒、さらには身体能力向上の魔法を使ったが、まったく効果が見られず私たちはさらに頭を抱えた。
いくら治癒魔法などをかけようが、まるで広大な砂漠に小さい入れ物で水をまいているような絶望感を味わうことをわかってしまった。
かわるがわる、治癒魔法をかける者を交代し、その間に治療方法を話し合ったが、この事態を解決できるようなアイディアは残念なことにでなかった。
涙を浮かべ、むしろ泣きながらベットに横たわるトラ坊ちゃまの手を握るメイドのトリーが
とても痛々しく、我ら医師たちの心を痛めた。
何としても命を救いたい、我ら医師全員の強い願いだった。
だが無情にも、有効な手段も見つからず、ただただ時間だけが経っていった。
だんだんと窓の外も明るくなってきたところで、トラ坊ちゃまの容体がさらに悪化してしまった。
ただでさえ弱い脈がさらに弱くなり、今まで浅かった呼吸が今にも止まりそうなほど回数が減ってしまった。
どうしたらいいんだ、だれかお願いだから知っているなら教えてくれ。
夜通し治療方法を話し合いながら治癒魔法をかけ続けた、我ら医師は気力体力ともに限界を感じつつあった。光の見えない出口へ向かうことはとてつもなく力を奪う。
いつのまにかベットの周りには魔法力を回復する薬の空瓶がいくつも転がっていた。
これでも我ら流派の医師たちはこの国でもかなり上位といっても過言ではないほどの腕をもった優れた医師のはずだったが、まったく解決の糸口さえ見つけることができない。重い空気が部屋を満たす。
我らの懸命の治療をあざ笑うかのように、太陽が地上を明るく明るく照らした。
そしてついに、浅い浅い呼吸がとまり同時に弱い脈も止まり、眠るようにトラ坊ちゃまは息を引き取ってしまわれた。
ボロボロと涙をこぼしながらトラ坊ちゃまに抱きすがるトリー。
仲間の医師も、あ名るものは床に拳をたたきつけ、あるものは放心状態になりながらトラ坊ちゃまの姿を見つめ、あるものは己の不甲斐なさを呪い、あるものは幼い命を救えなかったこと泣いた。
自分も短い時間だが放心してしまい、トリーの泣き声で正気に戻った。
チャーチル家の主治医のつとめとして御夫妻にはこの悲しいことお伝えしなければないことを申し訳なく思った。
気づいたら唇を強く噛みしめ、血の味がしていた。
震える手で幼すぎるトラ坊ちゃまの御顔へ白い布をかぶせ、一礼をすると部屋から出た。
部屋を出ると執事長が待っていて、御夫妻のもとへと案内してくれた。
自分の表情から、どうなったのか悟ったようで執事長も涙目だった。
重い足取りでチャーチル家の居間に案内されると、御夫妻ほかにトラ坊ちゃまの御兄弟も待っていた。
御家族へ向かい一礼して報告する。
「できる限りの手を尽くしましたがトラ様は帰天なされました、申し訳ございません、いかなる責も受け入れます。」
長兄は震えながら上を向いて涙をこらえ、双子は抱き合って声を出し泣き、泣いている奥様を涙目の旦那様は肩を抱いてなぐさめていました。
失礼しますと一言、一礼をし居間から退出した。
私は壁に寄りかかり上を向き深いため息をついた。
しばらくそうしてから、トラ坊ちゃまの部屋へと向かった。
部屋へ戻り、仲間の医師達に御家族への報告を済ませたことを伝え、今回の治療の応援の礼を済ませ、部屋から出て行ってもらった、トラ坊ちゃまに抱きすがっていたトリーもほかのメイドに連れられながら部屋から出ていった。
私はベットの近くの椅子に深く腰掛けた。
そして部屋には何もできなかった自分とトラ坊ちゃまだった物だけが残った。
長い夜もあけて、何もできずに終わってしまった。