第九十九話 最後の一撃
光一の体を覆う青いオーラ。これは、トレーニングアルマによるものである。トレーニングアルマは元々腕輪型のアルマであり、装着者の同調率によって身体能力を増加させる。
このアルマは、普通の人が装着したところで、ただの腕輪にしか見えない。しかし、同調率が八十を越える、国でも稀少な人材が装着した際の体験談では、
『目を凝らさなければ見えないが、とてもうっすらとしたオーラが自分の体を覆っているような感じがした』
こんな話がある。ただ、同調率が八十以上も出せるなら、他のアルマを装着した方がよっぽどいい。それらの事から余り、トレーニングアルマについては研究されていなかった。
それこそ世界でもほとんどいない、完全同調(シンクロ率100%)にまで至ったものが使うアルマではない。ただ、
「あ、青色のオーラ……。これが、同調率100%か……」
「まさか、この学園でこんな物が見れるなんて……」
笹山と葉波が見つめるモニター内で、その完全同調に至った光一は、トレーニングアルマを使い青いオーラを纏っていた。
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立ち上がった光一と、剣を構える天川に言葉は無かった。ただ、光一と天川は腰を落とし、一度目線を合わせたのが合図であった。二人は、残像が映るほどの速さで激突する。
天川の袈裟斬りを右腕で受け、光一は左のアッパーを仕掛けるも、それは首を振って避けられる。二人の力は全くの互角に見える。しかし、
(クソっ! まだ、足りねぇのかよ。こっちは神の力 (チート)まで使ってんだぞ!)
光一の右腕と天川の剣が合わさり、腕のアルマと剣での鍔迫り合いのような状態となったが、光一は少しずつ押し返されていた。右腕の性能こそ、パワーもスピードも耐久力も全て天川を上回っていたが、それ以外の面で光一は天川に少し劣っていた。
光一は、押す力を強めた天川に無理に逆らわず、後ろに飛んで一旦距離をとる。
(さて、どうする。相手はこっちの性能の殆どを上回る奴だ)
自問自答をしながら光一は打開の策を模索する。自分より力が上の相手に対して、どうすれば倒せるか。
(人は自分より力が上の者、体重が重いものにどうやって対抗してきた? 答えは……)
光一は、距離をとった自身に向かって突撃してくる天川に対して、自分から距離を詰めにかかる。そして、右拳を見舞おうと拳を振りかぶる。天川は、剣を盾にして拳を受け流しつつ、前進を止めない。光一の拳を防いで、すぐさま反撃するといった作戦を天川は立てていた。例え剣が砕けたとしても、天川の能力ならすぐに造り出せる。だからこその作戦であったが、
「久崎流技、角肘打」
「!?」
光一は右腕を振りかぶっただけで、それを繰り出そうとはしなかった。しかし、左腕を曲げて、肘を天川の顔面へ見舞う。右のフェイントに引っ掛かってしまった天川は、その攻撃をくらい一瞬怯んでしまった。
「久崎流技、杭撃」
その隙を光一は逃さない。光一は、天川の腕を左手で掴むと、引き寄せると同時に右拳を付きだそうとする。が、天川は寸前で意識を取り戻し、上体を反らしてそれを避ける。そして力任せに光一から腕を引き剥がす。
(自分より力が上の相手に勝つ方法か、その為に人は技を磨いてきたんだ。宗一さんの技、また少しばかり借りるとしよう)
光一が宗一の技を、記憶復元でコピーするようになってから、戦況は互角にまで持ち直していた。光一は数々の技を繰り出し、天川もそれを身体能力と、武器の差で強引に突発していく。
そして、何度目かの拳と剣のぶつかり合いで、二人が共に吹き飛ばされ距離をとることとなった。既に二人の息は荒く、言葉こそ無かったものの、二人は互いの考えている事が分かっていた。
((次で、決める!!))
光一は腰を落として、低く構える。最速で天川の元へ拳を突き刺す為に。
天川は剣を水平にして、顔の横に構える。その剣には過去に、一ノ瀬のドラゴンを両断し、光一の胸に穴を開けた時のように光が集まっていく。
「限界……突発!!」
「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
黒い拳と光の剣。その二つは交わり、辺りを一度目映い光が覆う。その光が晴れると、そこに広がっていた光景は、
「決着か……」
そう誰かがモニターの前で呟いた。天川の黄金のアルマは無惨にも上半身部分が砕け、剣も半ばから折れてしまっていた。
対する光一のアルマは…………傷一つ付いていなかった。だが、光一は突如、バタリと前のめりに倒れてしまう。
「そういう事か! あの右腕をああやって攻略するとは」
モニター前で笹山がそう言い、光一の右腕をよく見てみると、確かに右腕の¨アルマ¨に傷は付いていなかった。しかし、光一の右腕自体は、肩から先が切り落とされていた。
「勝った……のか」
天川は目の前で横たわる光一を見て、そう呟いた。すると、
「まだ、だ。まだ終わって、ねぇ、ぞ」
横たわっていた光一の左手が拳を握る。光一はゆっくりと足に力を込めて立ち上がっていく、その目には痛み色も諦めの色もない。既にトレーニングアルマすら右腕ごと切り落とされ、青いオーラすら消滅し、さらにこの仮想空間では魔力による体の強化すら行えない。
しかし、そんな状況ですら光一は拳を握り、天川をまっすぐに見据える。光一は、¨どうした、俺はまだ闘える。足だってある、拳だってまだ左がある¨そう言った目をしていた。それを見て天川は、
「やっぱ凄いよ、お前。こんな状況でも諦めてない」
「でも、……もう終わりだ」
そう言うと光一に背を向けてしまう。勿論光一はその背中を追いかけようとしたが、
「!?」
突如膝から崩れ落ちる。光一は地面に転がる羽目になり、自身の足を見ると、既に光の粒子となっていた。
天川は光一に背を向けたまま、空を見上げ拳を挙げる。自身が優勝したとアピールするように。さらに、それに呼応するように、空一面に『優勝は、一年Cクラス。天川智也!』の一文が写し出され花火まで上がる。
(光一か、強かった。本当に。Fクラスってのが信じられないくらいだった。もし、一ノ瀬との一戦がなかったら負けてたかもしれない。……だけど、今回は俺の勝ちみたいだな)
天川が勝利の余韻に浸っているなか。モニターの外では、Cクラスのメンバーが優勝を喜び騒ぎ立てる。クラス対抗戦の優勝が決まり、喜びや達成感、落胆などのさまざまな感情の生徒達がいて、皆がその余韻に浸っているなか。
ドンと一発の砲撃音が鳴り響いた。その音は生徒達の時間を凍りつかせ、
「……えっ」
そんな間抜けな声を天川は上げてしまう。そして、前のめりに力なく倒れるとあっさりと気絶してしまった。
「まだ、終わってないって、言った……だろーがよ」
天川が消え、誰も居ない仮想空間で一人。既に上半身のみとなった光一が、左腕のスモールキャノンの砲身から煙を出し、そんな途切れ途切れの一言と共に光の粒子となって消えた。