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第九十八話 主人公VS元脇役の異常(イレギュラー)2

ーーーーーーーーーーーーーーー

(やっぱ強いな、流石主人公。いや、流石智也と言うべきか)


 胸に向こう側が見えるほどの穴を開けられた光一は、地面に倒れながらそう思った。まるで燃えたような、熱さとも感じる痛みが自身の胸からやってくる。恐らくこのままでは、あと数秒で光一は痛みから気絶するだろう。


(なあ、主人公(ヒーロー)。多分お前も負けられない事情や、約束なんてものがあるんだろうよ)


 このままリースの言っていた通り天川を倒せずに終われば、天川はそれこそ物語の主人公のように大物食いをやってのけた立役者として、そしてヒロインとの約束でも果たしたヒーローとして。大きな拍手に黄色い歓声でも浴びるのだろうか。そこまで想像したところで、光一は前のめりに倒れたまま拳を土ごと握り締める。

 

(あーあ、これは余り使いたくなかったんだが。……まあ、この状況じゃしかたないか。持久戦はやめだ、¨俺の全力で相手してやるよ¨)


 そして、光一は自身最大の武器『自身操作』を起動する。自身操作を使い、光一が自身の痛覚を麻痺させる。するとあの灼熱のような痛みは嘘のように引いていき、光一はゆっくりと立ち上がる。


(お前にも約束だのなんだの有るかもしれない)


(けどな、俺にも約束があるんでな。立ち上がらせて貰うぞ、主人公(ヒーロー))


 その時、ふと頭に浮かんだのはリースの顔。それこそただの応援であったが、光一が出かける際の『頑張れ』の一言は光一を立たせるのに十分すぎる理由となった。



ーーーーーーーーーーーーーーー


 胸に大穴を開けられても平然と立ち上がる光一を見て、モニター前の生徒も教師も、皆一様に開いた口が塞がらないといった様子のなか、保健室の二人は。


「恵香、人は胸に大穴開けられても生きていられたか?」


「そこが手術室なら生きていられるわね」


「じゃあアイツが居る所はその手術室か?」


「私には森のなかにしか見えないわね」


 そこまで会話したところで笹山の言葉が崩れた。


「じゃあ何でアイツは平然と立っているんだ! ついさっき胸に穴を開けられて脱落したヤツだっているのに!」


 その、誰に向けたか分からない疑問を笹山がぶちまけている隣で、葉波は顎に手を当てて考え込んでいた。その顔は何かを思いつきそうで、それでいてあとほんの少しが思い出せない。といった苦い表情をしていた。


(何故彼は脱落しない? アルマについては破損してないからともかく、胸に穴なら舞の言う通り、ついさっき国崎さんが彼に胸に穴を開けられて痛みから気絶して脱落している)


 そこで葉波はある事を思い出す、それはDEFクラスの合同アルマ学の授業後の事。


(気絶、脱落……痛み。…………痛み? まさか!)


「舞、もしかしたらだけど」


 葉波は、頭のなかでパズルのピースが急速にはまる感覚を感じながら、笹山に導きだした答えを話す。


「彼は痛みに異常なまでの耐性を持ってる」


「どういうことだ?」


「合同アルマ学習の後、彼が私のところに来た時に彼は肉離れを起こしていたんだ」


「肉離れ? あいつそんな素振りは見せなかったぞ」


「ええ、彼も私の前で一度たりとも痛そうな顔はしなかったわ。肉離れなんて相当痛い筈なのに」


 そう、合同アルマ学習の後のケガのチェックで、葉波は光一が肉離れを起こしていた事を知っている。それこそ、その時は気にもとめなかったが、よく考えてみればおかしい。肉離れというのは筋肉の断裂によって起こる。肉が断裂するのだから、それは相当に痛い。しかし、それを起こしながら涼しい顔をする光一。そこから葉波はこの結論を導きだした。


「……なるほど。確かに脱落基準は気絶かアルマの全損だ、今アイツらの体はただの電子体」


「肉体が傷ついたところで血は流れている訳でもないし、内臓だってない」


「本当にアイツが痛みを無視できるってなら、この状況にも納得がいく」


 そう、このクラス対抗戦の舞台は仮想世界の中。人の体は外から見れば現実と代わり映えしない。しかし、この仮想世界に血は特に要らない、もっと言ってしまえば内臓だって要らない。学業の一環であるアルマを使っての闘いをやるのなら、それこそ気絶という脱落要素を入れるための痛覚が有れば十分だ。

 そこで、もし痛みを感じない者がいたらどうだろうか。現実なら痛みを感じないだけで、体には確実にダメージが蓄積され、いずれには動けなくなってしまうだろう。

 しかしこの仮想世界ではどうだろうか、血も内臓もなく頭からの信号で動く体。痛覚が無ければ体に溜まるダメージを無視して動いたところで、現実なら動けなくなるような怪我でも問題はない。

 そして、それを教師と生徒の前で体現しているのが光一である。


ーーーーーーーーーーーーーーーー



(やっぱ動きの精度が少し落ちてるな)


 光一は天川を殴った拳を見てそう感じた。光一は痛みの神経を麻痺させたが、流石に痛みだけ都合よく麻痺させる事はできず、五感で言うところの触覚を丸ごと麻痺させている状況にいた。そりにより、微妙な力加減や感覚に本の少しのズレが起こってしまっていた。 

 光一は天川を一撃で気絶させるつもりで殴ったのだが、


(俺の拳があたる瞬間自分から身を引きやがったな)


 些細なズレからくる行動の遅れ。それにより、光一は天川に拳がヒットする瞬間に身を引いてダメージを減らす手段を取らせてしまった。


(関係ねぇ……しばらくすれば慣れる。それに、少し行動が遅れるってのなら)


 光一は行動の遅れの問題に対して、


(¨もっと速く、そして強くなればいい¨)


 至極シンプルな結論を出した。すると光一は武道の基本になる構えをとる。足は肩幅に開きハの字にして、右足を少し前に。両手は拳を握って骨盤のやや前につける。その姿勢をとると、


「過剰な集中力 (オーバーコンストレイション)」


 そう呟くと、一呼吸開けて付け加える。


完全同調(フルシンクロ)


 そう言った瞬間、光一の体から青いオーラが溢れ出る。


「かかってこいよ天川智也(ヒーロー)。これが本当の最終ラウンドだ」






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