第九十七話 主人公VS元脇役の異常(イレギュラー)
再度黄金の鎧を纏った天川が、今も消失を続ける国崎の剣を軽く振るう。すると、その剣を補うように新たな外郭が、国崎の剣を覆っていく。そして、天川は国崎の想いを乗せた剣先を光一に突き付けると、
「またせたな、これからが本当の勝負だ」
そう宣言する。光一はその宣言に対して、拳を握り構えをとる事で答える。
そこで二人の間で会話は途切れた。素人が見れば、会話が途切れた次の瞬間天川が瞬間移動でもしたように見えただろう。それほどの速度を持って、天川は光一へと肉薄する。それから二人の闘いは一気に激化する。
天川は、高速で光一の周りを動き回りながら隙を伺い、光一もそれに対応するだけの反応を見せる。幾つもの攻防が僅かな間に繰り広げられているなか、天川は
(このままじゃらちが明かないな)
そう考えていた。今でこそ速さで圧倒しているものの、光一の武術センスなら暫くすると、この速さに慣れてしまうかもしれない。そうなると戦況は光一へと傾いてしまう。そうなれば対処法は、
(一気に決めるしかないか)
それこそ短期決戦しかないなだろう。そう作戦を決めた天川は、今まで光一の周りを回っていた動きから一転、大きくバックステップをする。そして剣を腰だめに構えると、天川の鎧が力を引き出そうとする想いに答えるように、輝く。
そして、天川は高速で光一との距離を詰める。それは先程の黒い鎧の時は黒い弾丸と形容したが、今回は光の矢のような速さで距離を詰める。
(決まるか……っ!)
モニターで見ていた笹崎も、思わず拳を握ってしまうような展開であり、この一撃で決まる。そう、この闘いを見ていた者達の大半は思っていたが、
「膝……挟み受け。あいつもう天川の動きに対応したっていうのか……っ!」
笹山がそうモニター前で言った通り、光一は天川の横凪ぎに振るわれた剣を、自身の左膝と左肘で挟み込む事で押さえ込んでいた。さらに悪いことに、天川は光一の右腕のアルマを警戒して、左側から剣を振るおうとしてしまった。それが止められたとなれば、
(マズっ! あいつの右腕はフリーになってやがる!)
天川は武器を押さえ込まれている状況で、目の前には最大の武器である右腕が自由な光一がいるということだ。光一は、剣を押さえ込んだまま右腕を振りかぶる。この体制では手打ちになってしまうが、それでも光一の一撃は重い。天川はその拳が振りかぶられたのを見て、
「……かかった」
「!?」
そう小さく呟いて笑った。"不味い" そう光一が思った時には遅かった。突如として押さえ込んでいた剣が消えたと思いきや、その剣は新しく天川の手に収まっていた。
これは国崎が鳳城相手に使ったのと同じ手段。武器がスキルで作られているのを利用し、一度消して再度生成することで、例え武器を手放そうとも、押さえつけられようとも脱出が可能となる。
天川の手に収まった剣に、一ノ瀬のドラゴンを倒した時と同じように光が集まっていく。その光は、一度剣に吸収されて収まった。かと思った次の瞬間、
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
まるでレーザーのような光の線となり、渾身の突きと共に光一の胸に風穴を開けた。
「はぁはぁはぁ。……倒した……のか」
胸に風穴を開けられた光一は、声を上げることもなく前のめりに倒れる。今まで上から吊っていた糸が切れた人形のように。
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「終わったか」
「ええ、流石に胸にあれだけの穴を開けられたらもう駄目でしょう」
モニター前の笹山と葉波がそうため息混じりに話し、
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「勝ったの……智也が。あの男に」
個室控え室のモニターでそう信じられないような、それでいて歓喜の声を上げる数秒前といった声で国崎が呟き
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「はぁ……僕もあそこで闘いたかったな。智也君だっけ、次は勝たせてもらうよ」
同じく個室控え室のモニター前で、次の目標を見つけた嬉しさと闘えなかった残念さが混ざった声で一ノ瀬が呟いた。
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この闘いを見ている人、全員が思った"天川の優勝"だと。
「やった……凛。俺、」
何処から見ているかは分からないが、モニターで見ている筈の国崎に天川が勝利の報告をしようとしたその瞬間。
「勝っ「何だって?」 ッ!!!!!!」
天川は殴りとばされた。脱落こそしなかったものの、天川の顔は、いやこの闘いを見ていた全員が言葉を失っていた。
なぜなら
「よう、主人公。一体何を言おうとしてたんだ? 戦闘中に無防備な姿を晒してまでよ」
胸にポッカリと穴を開けたまま、考えている事の読めない薄気味悪い笑みを浮かべた男。谷中光一が拳を振り切った姿勢で立っていたからだ。
確かにこの闘いを見ていた人、全員は天川の勝ちを疑わなかっただろう。しかし、
「流石光一だね。私が見込んだだけあるよ」
人ではない神様、リースだけは、光一がこんな事でやられるとは思っていなかったようだが。