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第九十五話

 一振りの剣を手に持ち、天川は森の中から一ノ瀬の前に姿を現す。一ノ瀬は、装備の変わった天川をドラゴンの頭上から見下ろすと


「へえ。少し目を離したと思ったら、随分立派な剣を手に入れたようだね」


 そう関心したかのような口調で話す。すると天川は、剣を構えながらそれに返答する。


「さっき幼馴染みに説教されてね。やっとお望み通り、お前を楽しませられそうだ」


 その言葉を最後に、二人の間に言葉の会話は消えた。これからは闘いという言葉を話す時間だ。一ノ瀬は今度こそ手加減無く自身も攻撃に加わり、天川は新たに得た(ちから)を手に駆ける。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


(智也も闘い始めたみたいね)


「どうしました? 威勢よく出てきたと思いきや、また逃げてばかりですの?」

 

 鳳城を引き付ける為に飛び出した国崎であったが、戦況は先程とあまり変わらず、鳳城の熱線の狙いをつけさせないように、国崎が高速で動き回るといった状況が続いていた。

 今まで鳳城の熱線を全て回避していた国崎であったが、


「きゃっ!」


 数メートル先に発射された熱線を右に避けようとしたその時、それを待っていたかのような追撃を貰ってしまう。辛うじて直撃は避けたものの、国崎はバランスを崩して転倒してしまう。


「ようやく当たりましたね。あの天川とかいう仲間の人は私の熱線も軽々防いでいましたが、今からでも彼に助けを求めてきたらどう?」


 鳳城は、国崎を見下ろす形で、上空にホバリングしながらそういい放つ。鳳城はそう話しかける余裕を見せながらも、いつでも熱線を発射できるようにと、全ユニットの狙いを国崎に定めたまま話す。この距離と状況では、国崎が逃げだすよりも熱線の方が速い。

 しかし、そんな状況にいながらも


「その提案は少し魅力的ね。でも、断らせて貰うわ」


 国崎は、未だ少しダメージが残る足に鞭打ち立ち上がって剣先を鳳城に突きつける。


「あらそう。じゃあこれでお仕舞いね、中々楽しかったわよ」


 その返答に鳳城は特に残念そうな顔をすることもなく、ただ坦々とユニットと自身の手から熱線を発射しようとする。鳳城の手に光りが集まる。あと数秒で決着が着く、モニター越しにこの闘いを見ていた者もそう思った。しかし


「ッ! 小癪な真似を」


 国崎が取った行動は単純で、手に持っていた剣を鳳城に向かって思い切り投げた。その余りにも強引で悪あがきのような攻撃手段に、思わず鳳城は熱線の狙いを一瞬国崎から外してしまった。

 その隙を逃さず、国崎は全速力で駆ける。その今までで最も速いスピードは、国崎をほぼ垂直に生える木を駆け登ることすら可能とした。


(しまっ! 木を駆け登られては彼女が私の所まで手が届いてしまいますわ)


 余裕の表れなのか、鳳城は会話する為に少し下降していた。つまり、木を駆け登り上昇した国崎の攻撃範囲に入ってしまっているのだ。しかし、それでも鳳城の顔は絶望しきってはいない


(……でも、彼女は"剣を手放してしまっている"素手での攻撃なら一撃くらい耐えられる筈)


 そう考えて、鳳城は来るべき衝撃に備えて体に力を込める。そして、背後から高速で迫る国崎の姿を鳳城は捉えた。


「え? (な、なんで剣が……投げた筈ですのに)」


 最後に鳳城が見たのは、剣を構えて自身に向かって突撃してくる国崎の姿であった。

 鳳城が一つだけ読み違えたこと、それは国崎の剣は能力の一部ということ。つまり、剣を投げてしまっても、一度消して再度能力を使えば元通りになる。その事まで頭が回らなかった。もし、最初に光一と出合いペースを崩されなければ、もう少し違った結果となったかもしれないが、それほあくまでIFの話である。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「お、りゃあああ!!!」


 木々が開けた広場のような場所に、天川の気合いの声が響く。声と共に振られた剣はドラゴンの鱗をものともせず切り裂く。一ノ瀬も黙ってやられる事はなく、直ぐ様ドラゴンを操り攻撃を仕掛ける。攻撃後の隙を付かれた天川は、ドラゴンの振るわれた腕に吹き飛ばされてしまう。


「智也君だっけ、強いね君」


「そっちこそ」


 二人の息は荒く、肩で息をしていた。二人は互いに睨み合うなか、あることを悟っていた。"全力を出せるのもそう長くない。なら、次の一撃に全てを込めよう"と


「これが僕の全力だ! 『ソード・オブ・ドラゴン オーバーエッジ!!』」


 一ノ瀬がそう叫ぶと、ドラゴンを形作っていた刃がより鋭く長く変貌していく。変貌し終えたドラゴンの姿は、今までよりも大きく凶悪となり、大抵のものは姿を見ただけで逃げ出したくなってしまうような外見となる。

 地響きを伴う咆哮と共に、そのドラゴンは天川へ向けて突撃する。その圧倒的な質量を前に天川は、剣を振り上げると目をつぶる。


(これが一ノ瀬の全力。あいつも負けられない理由が有るのだろう。でも、俺だって簡単に負けられはしないんだ! クラスの皆に、アリエノールに、国崎に約束したんだ。絶対優勝するって!)


 思い返すのは、対抗戦で闘い天川に想いを託してくれた人物たち。その思いに呼応するかのように、振り上げたままの剣に光りが集まり大きさが増していく。そして、眼前に迫ったドラゴンに向けて天川はその光りの大剣を振り下ろす。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 最終的に、一ノ瀬のドラゴンすら凌ぐ大きさとまでなった光りの大剣は、


「僕の……敗けだぜ。強いな智也君は」


 一ノ瀬ごと両断し、これにて天川智也対一ノ瀬颯真。主人公対ライバルの決着が着くこととなった。



ーーーーーーーーーーーーーー


 ここは仮想空間に入る際に、参加者が入っていた個室。脱落してしまった藤堂花梨は、安室麗と共に部屋に取り付けられていたモニターでこの闘いを見ていた。


「凄まじいな」


「そうだね、優勝争いってのはこんなにレベルが高いのかぁ」


 二人は闘いを見てそんな言葉が出た。二人とも優勝を目標としていただけに、今の闘いを見て少しだけへこんでしまっていた。


(やはり一ノ瀬は学年主席なだけあって圧巻だったが、それを越える者がいるとはな)


 ただでさえ脱落のショックを受けていたところに、目標の人物より上が出てきたのだ、へこむのも無理はない。安室は、少しうつむいてしまった藤堂を心配しながら、モニターに目を移す。そこには、一ノ瀬に勝ち疲弊した様子で立つ天川と、その奥から鳳城に勝ち同じく疲弊した様子で歩いてくる国崎の姿が見えた。

 すると、そこで安室の脳内にある言葉がフラッシュバックする。自分らのもう一つのリベンジ目標であり、結局達成できなかった相手が言ってたある言葉。


(確かーーーーー)



ーーーーーーーーーーーーー


 一ノ瀬に勝ち、天川はその場で倒れそうになるのを必死にこらえる。まだ優勝したわけではない、簡単に気を緩めてはいけないと思っていると、数十メートル先に国崎の姿を見つける。国崎も披露した様子であったが、それよりも鳳城を倒した達成感が勝っているといった表情でこちらに向かって歩いてくる。


「おーい、智也ー。私」


 これはある男が言っていた言葉であり、天川も国崎もこの対抗戦に出るような者は皆基本的には気を付けていることである。

 しかし、優勝間近であり、自身よりも格上を倒したことによる達成感。そして仲間と会った安心感それらが重なり、一瞬その事を忘れてしまった。

 そして、


 「勝っ……あ、アンタは……」


 この男、谷中光一はそんな隙を見逃す男ではない。

 モニター越しに見ていた安室は、"国崎の背後から現れた男が、その右手で国崎の胸を貫いた"という光景を見ると同時に、ある言葉を思い出す。

 "勝利を確信した時ほど周りに注意するべき"という言葉を



ーーーーーーーーAクラス一ノ瀬颯真、鳳城灯

        Cクラス国崎凛       脱落(リタイヤ)








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