第九十三話
「まずは、どれだけ強くなったか見せて貰おうかな」
「!」
十五メートルほどの距離を開け、対峙していた天川と一ノ瀬の内、先に動いたのは一ノ瀬であった。一ノ瀬がそう言って指を鳴らすと、周りに幾つもの刃が生成と同時に天川へ向けて射出される。天川はその刃を避けることが出来ず、直撃を受けてしまう。
(あれ? まさかこれで終わり?)
刃を避けなかった天川に対して、一ノ瀬はそんなことを考えてしまう。今は土煙で視界が悪いが、あと数秒もしない内に視界は晴れるだろう。もし、今の攻撃でやられるような期待外れなら、また光一君探しに行こう。一ノ瀬はそう思っていたが、
「へっ、これで終わりじゃないだろ。俺だって強くなってるんだぜ」
そんな声が聞こえた瞬間、土煙の中から金色の鎧を纏った天川が出てくる。天川の周りを見れば、鎧を傷つけることすら出来ずに弾かれた刃が幾つも転がっていた。
「ふーん、前よりは強くなってるみたいだね。じゃあ、もう少し楽しめそうだね」
そう言って一ノ瀬が地面を軽く踏みつけると、天川の足元から大量の刃が生成されて天川を襲う。しかし黄金の鎧を纏った天川は、それよりも早くその場から一ノ瀬に向かって駆け出す。鎧によって強化された天川の足は、下手な速度強化のスキルを持った者よりも速く天川を運ぶ。
ついに、天川が一ノ瀬との距離をあと二メートルほどとしたところで、一ノ瀬は両手一本づつ剣を生成する。一ノ瀬は右手に持った剣を振るうと、天川はその剣を左腕の鎧で受ける。右手の剣は天川を傷つけることは叶わなかったが、一ノ瀬の目的は傷つける事ではない。天川の足を少しでも止める為だ。そして一ノ瀬は、動きが止まった右腕の肩の間接部分を狙って左の剣を振るう。
その剣は、一ノ瀬の狙い通りに天川の肩を切ることに成功した。
しかし、
「捕まえた」
「しまっ!」
天川はそれでも止まらなかった。肉を切らせて骨を断つ。これが天川の策ではあり、両方の剣を止められた一ノ瀬に、天川は右拳を振るう。その拳は一ノ瀬に直撃し、一ノ瀬は数メートルほど吹き飛ばされる。Bクラスレベルでも気絶させる天川の拳。元々動きやすさを重視して、軽装だった一ノ瀬が食らえば一撃で気絶も有り得るのだが、
「ふー、危ない危ない。やっぱり結構強くなってるね。そろそろ本気、出さないといけないかも」
「な、なんだそれ。鎧……か、それで俺の拳を耐えたのか」
一ノ瀬は刃で出来た鱗を纏ったような鎧を身につけて立ち上がる。それに対して、天川の右拳は切り裂かれたような傷が確認できる。幸い、ここは仮想空間なので出血することはない。天川は切り裂かれた右拳をだらりと下げたまま、一ノ瀬を見据える。いくら出血しないとは言っても、痛みで気絶すればそこで脱落となってしまう。天川は痛む右拳を無視して、目の前の一ノ瀬を睨む。
「鋭利な刃 (シャープエッジ)ver龍の鎧 (ドラゴンスケイル)。どうだい? 僕だって強くなってるだろう。これは、拳で攻撃してくる相手には相性が良くてね……ちょうど君や光一君みたいにね」
(クソッ。さっきはあの鎧の刃で俺の手が切り裂かれたって訳か)
一ノ瀬は、天川が一気に降りになるような内容をつらつらと述べると、
「ねぇ、智也君だっけ? ここで脱落する気はないかい? 主な攻撃手段が拳の君にとって、この状況は覆しがたいんじゃないかな。だったら無駄に痛い思いするより、さっさと脱落しちゃった方がいいんじゃないかな?」
そういい放つ。辛い現状を目の前に出され、天川は、一ノ瀬の言葉をしばしうつむき加減で聞いていた。
そして、軽く握っていた右拳を力無く開くと、
「断る!!」
そう力強く叫ぶと共に、痛みを無視して握りしめる。
(へぇ、もしかしたらこれで折れるかと思ったけれど、ここまで強く否定されるとはね)
「そうかそうか、断るか。だったら君のその蛮勇を称えて僕も全力でいかせて貰おうか」
天川の返答に対して、見直したような口ぶりでそう言うと、一ノ瀬は右手の剣を地面に突き刺す。それと同時にズシンと、地響きがしたと思えば剣を突き刺した場所を中心に、地面が盛り上がっていく。そして、
「どうだい、これが僕の切り札『ソード・オブ・ドラゴン』さ。ここまで見せたんだ、少しは楽しませてよ」
「なんだ……そりゃ」
地面から現れたのは、天川が見上げるほど巨大なドラゴンだった。そのドラゴンは鱗も手も足も全てが刃で作られており、一ノ瀬はそのドラゴンの頭の上に立ち、天川を見下ろしている。
普通、生物の強さとしては大きさが大きく関わってくる。何か毒などの能力でもなれば、小さいものが大きなものに勝つのは難しい。つまり、
(担架切ったのはいいけど……これはちょっと不味いな)
天川はさらに絶望的な状況に陥ったという訳だ。
遅れてすみませんでした。次の投稿は恐らく金曜日か土曜日になります
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