第九十二話
クラス対抗戦も終盤へと差し掛かり、今まで他の参加者と会えなかった生徒も段々と遭遇するようになっていた。
「あ」
森の中で少し開けた道を横断しようとした男が、他の参加者と出会ってしまい、そんな間抜けな声を上げてしまった。この男はDクラスの代表であり、隠れ場所を代えながら今まで生き延びていたのだが、移動中に偶然他の参加者と出会ってしまった。
(不味い、下手に逃げて逃げ切れなかったときは確実にやられる。だが、闘って勝てるのか? たかだかDクラス程度の俺が)
男はこの状況を切り抜ける術を探すために、自身の頭をフル回転させる。逃げた場合は無防備な背中を晒すことになり、アルマのランクで劣っている男が逃げ切れる可能性よりも、背中から攻撃される可能性の方が高いだろう。しかし、目の前の男と闘ったとしても男がAクラスやBクラスといった上位クラスならば、確実に自身はやられてしまう。
この絶望的な状況に男は活路を見いだそうと、相手の装備をじっくりと見る。幸い、相手も闘うか否かの判断をしているようで、まだ襲いかかっては来ていない。その間にできるだけ自身に有利な情報を集めようとしていると、あることに気づく。
(あいつは……確かCクラスの代表だったはず。なら生き残れるかもしれないな)
それは、相手の男の顔を見た時に気づいた。それは、その男が説明会の時にCクラスの席にいたという事。つまり男にとって相手がAまたはBクラスであるという、最悪の事態だけは免れたということだ。
(流石にAやB相手ならあっさりやられるだろうよ。でも、Cぐらいなら勝てないまでも、戦闘の隙をついて姿をくらますぐらいならできるかもしれない)
男が見いだした活路、それは勝ちを狙うのではない。生き残る、それだけに特化した道。それを、その場しのぎと他の人が見れば言うのかもしれない。だが、
(みっともなくたって構わない。どんなにカッコ悪くても俺は生き残りたい。こんなDクラス風情が優勝なんて夢を語るなら、それこそ漁夫の利を得るぐらいじゃないと無理なんだ。だから俺は生き残らせてもうぜ)
この男は少なくとも優勝を諦めていない。そのためなら、この場は惨めに尻尾を巻いて逃げる事になろうと後悔は無い。男は自身の作戦を実行する為に、腰を落として足を肩幅に開く。狙いはとにかく土煙でも上げての目眩まし。それを実行する直前、男は相手の男の顔をふと見る。
(なんだ? あいつの目、まるで俺を見ていないみたいだ。……へっ、Dクラス程度相手にもならねぇってか)
相手の男も自身と同じように闘う姿勢をとってはいたが、その目はまるで男の事を透過しているような目であり、見ているのは自身のその先のような印象を受けた。
男は足に力を込めて、自身の生き残りをかけた闘いへと今、足を踏み出そうとする。
(さあ、いくぞ!!)
が、そう心のなかで強く宣言した瞬間、男は背中から強い衝撃を受けたと思った次の瞬間には、男の視界は黒く塗り潰された。
「やあ、久し振り。中々強くなったみたいだね」
「お前に負けてから、スキルを使いこなす為に特訓を続けてきたからな。昔の俺とは違うぜ」
前のめりに倒れ、光の粒子となって消えた男の背には、無数の刃が刺さっていた。そして、その後ろから現れた男。Aクラス代表であり学年主席、学年最強と謳われる男、一ノ瀬颯真がそこにいた。
もし谷中光一という異常がいなければ、恐らく主人公とその好敵手となっていたであろう二人。
天川智也と一ノ瀬颯真。今、この二人が再び出会った。
それとほぼ同時刻ごろ、二人とは離れた森の中で二つの人影が向かい合っていた。片方は剣を片手に持った、女騎士といった風貌の人物。もう一人は、機械の羽に周りを飛び回るユニットを持つ機械の天使といったところか。
「鳳城灯だっけ、悪いけどここで脱落してもらうわよ」
剣をもつ女は、そう剣先を相手に突きつけながら言う。それに対して、
「……私は強い、私は強い、私は強い。だからそれをこれから証明しまよう。目の前の相手を焼き尽くすことで」
機械の天使といった風貌の女は、会話をする気は無いようで、やや虚ろな目をしながら、うわ言のようにそんな事を呟いていた。
クラス対抗戦はいよいよ終盤戦。今まで動かなかった生徒に、運悪く他の生徒と出会えなかった者が段々と遭遇していく頃。
闘いは一気に激化していく。